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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第5話 わたしは誰



 お腹に食べ物を入れると、少し気持ちが落ち着いてきた。空腹もあってむかむかしていたようで、再び頭が回りだす。

 そこで、りのは改めて状況と、新しく仕入れた知識を確認することにした。


(……やりたくないけど、確認は大事)


 小説から得た知識をもう一つ試してみる。

 知るのが怖いなぁと思いながら、呟いた。



「『ステータス』」



 目の前にぽんと透明なボードが現れる。

 先ほどの「インベントリ」のボードはグリッドになっていたが、今回はデータの並んだ報告書のような雰囲気だった。

 現れた文字は慣れ親しんだ日本語ではなかったが、なぜかするりと読めて、背筋が寒くなる。

 ともかくも内容を確認しなきゃ、とその文字を読んでいった。



「名前、深春りの。性別、女。職業、――――うぁー……まさかの、最悪のパターン来ちゃったー……」



【職業:異世界からの渡り人/聖女】



 予想はしていた。

 自分が、あるいは自分も、聖女とやらである可能性。

 あのオウジサマの勘違いで省かれたけど、聖女であることがバレれば囲い込まれる可能性があるということだ。


(帰れない可能性高くなっちゃったよ……)


 りのは帰りたい。

 こんな世界に情なんてかけらもない。むりやり攫ってきて、勝手に勘違いして監禁させるようなところだ。そんなところより自分が生きてきた世界、築いてきたいろいろなものがある世界のほうがずっといい。

 結婚はしていないけれど、両親も弟妹もいるし、少ないけど友だちもいる。慈しんでいる美術工芸品も、それを買ってくれるお客さんも、生み出してくれる職人さんも、みんな向こうの世界にいるのだ。

 あの少女が聖女であろうがなかろうが、自分がいないと問題が起ころうが、関係ない。あの少女のことは気になることはなるけど、それを越えてただひたすらに、帰りたい。


 自分の家に帰りたい。


(黙秘一択だわこれ)


 他にもいろいろ書いてあったが、それはとりあえず後で確認することにして。

 この「ステータス」という魔法は、自分のものしか見られないのだろうか。小説の中では自分の能力などをチェックする魔法のようだったが。

 他者のステータスを見たいときはどうすればいいのだろうか。他の魔法を使えばいいのかな?

 よしチャレンジだ。まずは自分自身から。


「『鑑定』」


 物語の中でよく使われていた魔法を唱えると、視界の真ん中にさっきと同じようなプレートが出てきたが、そこに出ているのは自分の名前と「女」という情報だけだった。

 ガッカリして、八つ当たりのように、もう、そこにあると邪魔! と思ったとたん、そのプレートが視界の端にずれる。どんなアフターフォローだ。いや正直すまんかった。

 もういいよおつかれ、と思ったらそれがしゅんと消えた。


 首をひねりつつりのは考える。

 自分がさっきから使っているこれらは、どうやら魔法というものらしい。

 そして物語によれば、その魔法にはレベルというものがあるという。自分が魔法なるものを使うのは初めてなのだから、当然そのレベルは低いだろう。

 ためしに、デスクを「鑑定」してみた。



【名称:机】

【用途:書き物をしたり本を読んだりするのに使う】

【材質:木】



 次に、その木の机に向かって『ステータス』と唱えてみたが、何も出てこなかった。


(「ステータス」の魔法は自分専用みたいだね。「鑑定」では名前とちょっとの情報しか出てこなくて「ステータス」ではいっぱい情報が出てきたってことは、もともとの情報を私の「鑑定」のレベルが低くて読み切れてないのかも。てことは、レベルの高い「鑑定」を使われたら私のステータスがバレるかもしれないってことか。じゃあ隠さなきゃ)


 どうやって隠すか。

 小説では隠ぺい魔法などが使われていたが、できればたくさんの魔法は使いたくなかった。便利なのはわかっているのだけれど、今までの自分と乖離していくのがなんだか怖い。


(読まれなきゃいいんだよね? 表示を変えればいいのでは? なんで私がこっちのひとと言葉が通じてたりこっちの言葉が読めたりするのかわかんないけど、こっちのひとたちが向こうの言葉に通じてるってのはないような気がするし、表示を変えるくらいなら別の魔法にはならないと思うし……たぶんだけど)


 少し考えて、ステータスボードの文字をペルシャ語にしてみた。ペルシャ絨毯や中東諸国の小物を扱うこともあるので、少し文字を勉強したのだ。

 もともと語学の勉強は、好きではないが苦ではない。好きではないことも、きれいなものを扱うのに必要ならば頑張れるのがりのだった。

 とはいえ、東南アジアや南アジアの国々の言葉は難しすぎて挫折しており、ペルシャ語だけがかろうじてというレベルである。

 英語や日本語でもよかったのだが、あの少女から読み方が伝わっているかもしれないと思ったのでやめておく。それに、ペルシャ語はリボンがひらひらしているみたいな文字で、どこからどこまでが一文字なのか慣れるまではわかりにくい。解読はなかなか難しいだろう。


 あらためてチェックすると、ボードは右から左へ流れる装飾的な線の文字へ変わっている。

 自分で変えておいて何だが、りの自身にも読めない。なんとなくのイメージでしかないので、もしかしたらペルシャ語としてはでたらめかもしれないが、まあいいだろう。


(多少の時間稼ぎにはなるでしょ)


 ひとまず安堵し、今度は言語を日本語にした。

 きちんと慣れ親しんだ日本語が出てきて、安堵しながらステータスボードの内容を確認する。



【名前:深春りの】


【性別:女】

【職業:異世界からの渡り人/聖女】


【体力:55/400】

【魔力:2432/2552】


【魔術適性:全】



(体力と魔力……魔力って、魔法を使うための力? 小説にあったからたぶんそうよね? うん、数字は書いてあるけど基準が分かんないから判断ができない。魔術適正、全ってなに? 何でも使えるってこと? そもそも魔法と魔術って違うの? 魔法じゃなくて魔術なの? わからん……なにもかもがわからん……)


 強いていえば体力が四百なのに対し魔力が二千オーバーで、どうやら体を動かすことよりは魔法が得意らしいということくらいだ。

 まあそれはそうだろうとりのは遠い目をした。何せあまり運動神経がよろしくない。

 体を動かすのは嫌いではなかったからダンスとかは好きだったが、不器用で、ボールやラケットなんかを使う競技などはひどいありさまだった。なんでみんなボールをつきながら走ったりターンしたりできるんだろう。すごい。


(私、基本ぶきっちょだからなー……きれいなもの大好きだけど、絵も手芸も工芸もまるっきりだめだし)


 かろうじて生み出せるのは料理だけという残念っぷりなのである。ちなみに、料理もはじめは惨憺たるものだったが、一人暮らしをしているのと食い意地がはっていることから、気合と根性で人並みまで技術を上げたという裏話がある。


(魔力、魔力かぁ。魔力があるってこれ、やっぱりこっちに来て体弄られてるってことなのかなぁ)


 「インベントリ」、「ステータス」、「鑑定」。

 当然、向こうの世界では存在しない能力だ。

 さらに言えば言葉のこともある。少ししか人と話していないので詳しいことはわからないが、彼らが日本語を話してはいない以上、「通訳」とか「翻訳」とかいう魔法が使えている可能性が高い。もしかしたら、それらもまとめて「全」なのかもしれない。


(……気持ち悪い)


 自分が知らない生き物になっている感じが、とても気持ち悪い。向こうに帰ったとき、これらの能力は消えてくれるだろうか。あったら便利だなんて、ちょっとは思ったけど、自分が人間ではないナニカに変わるよりずっといい。

 ぐっと唇をかみしめて、表示をペルシャ語にしてから終了した。


 最後にりのは、化粧ポーチを呼び出し、中に入っていた手鏡で自分の顔を確認した。



「……なにこれ」


 茫然と、声が出た。

 鏡に映ったのは、自分だけれど自分ではない顔だった。

 綺麗な線対称の顔。

 確かに自分の顔だが、きっちりと対称になっている。それが不自然ではなく、美しいといえる顔だ。

 きれいだけど、自分はこんな顔じゃなかっただろう、と泣きたい気持ちと吐き気が同時に喉をせりあがる。

 目立つほくろや年相応の薄いシミ、そばかすは消えてしまっていた。肌もハリと艶がある。なぜか歯もきれいになっているような。

 こんな状況でなければ、美容にあまり興味がないりのでも大喜びしただろうに。


(この肌、第一次曲がり角前の感じ……二十二とか三とかくらい、かなぁ……)


 もう笑うしかないと、乾いた笑いがこぼれた。

 一番大きくあからさまに変化していたのは、目だった。


(すごい色……もう人間の持てる色じゃないよ、これ。だからあの女の子、あの時びっくりしてたんだ……)


 二重のつりあがり気味の目は、青みを帯びた紫色をしている。

 深くも柔らかなスミレの色だ。

 そのスミレの紫が赤みを帯びたロイヤルパープルへと変わり、金色に混ざっていく。

 アースアイのような変化のある目の色は、たしかに神秘的で美しい。


 でも、私の目じゃない、とりのは呻いた。


「自分の目じゃなかったら、綺麗って言えるのに」


 顔も能力も改造されたあげく若返ってるなんてどんな悪夢だろう。

 自分はまだ、ちゃんと人間なのかな。ちゃんと「深春りの」なのかな。


 りのは吐き気を押さえながらベッドにもぐりこんだ。

 もう何もする気がおきなかった。

 せめて悪夢は見ませんように、と願いながら目を閉じて、眠りの世界に逃げ込んだ。



本日はここまで。

お読みいただきありがとうございます。

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