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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第48話 楽しい魔術のお時間です


 本日は、魔術の講義。



「さぁリノアちゃん、はじめよっか!」

「はい、よろしくお願いします……なんか、ひとが多くありません……?」

「あ、ごめんね、なんか見学したいらしいんだよね。うっとうしいかな? 適当にヤっとく??」

「今何かおかしな言葉が聞こえましたけど!?」


 魔術師団棟に併設されている訓練場で、りのは魔術師団長であるユーゴ・ジュランディアと向かい合っていた。

 ユーゴがゆるく手を振ると、二人をとりまいていた人たちがずざざざざっと後ろに下がって大きな円を描く。

 観察対象なのはかわりがないようだ。

 しかしユーゴはそれを全く気にせずに、朗らかな笑顔を向けてきた。


「今日からは大きめの魔術の練習だよ! 楽しくうっていこうね!」


 ユーゴのアメジスト色の長い髪が、とてもきらきらしくて眩しい。

 まだ二回しか、それも座学の講義しか受けてないのにいいのかなぁ、と首をひねりつつ、りのはよろしくお願いしますと返事をした。

 前回までの魔術の授業は座学で、室内で少し練習をしたものの、ユーゴには物足りなかったらしい。

 いつもにこやかな人だが、今日は心から楽しそうなのがよくわかる。


「さて、じゃあまずはおさらいからね! 『灯り』からいってみよう!」

「はい。『灯り』」


 魔術は、魔力を込めて発動をイメージすることで起こる。

 そのイメージを確かなものにするために詠唱を行う、とりのは習った。

 逆に言えば、イメージが固まっていれば詠唱は破棄できるんだな、とこっそり思っている。

 りのの詠唱に合わせて、立てた人差し指の先に、豆電球くらいの小さな灯りがともった。

 その灯がゆらゆらしないように、腹式呼吸を意識して魔力が灯りへ流れていくようにイメージを保つ。



「ん~、すばらしいよリノアちゃん! 魔力がものすごく小さく絞れてるだけじゃなくて、ものすごく安定してる!」

「ありがとうございます~」


 ついついつられてゆる~い口調になってしまった。



 ユーゴ・ジュランディアというひとは、どこか子どものような好奇心を持ち続けているひとだ。

 魔術が大好きで、研究熱心。知りたいことにはまっすぐに突進していく。

 けれど、その一方で、きちんと大人としての思考を持っている人でもあった。

 この講義のせいで魔術師団長としての仕事に滞りがでているわけでもなく、フィンレー王のために政略的に立ち回ることもできる。

 それに、


(教えるのが上手い。自分が教えたいことじゃなくて、私のことを考えて、私の知りたいことを基準に教えてくれる。失敗のカバーも万全)


 魔術を生み出すもととなるのは魔力と想像力だ、だからまず、自分の中の魔力を捕まえるところから始めようと前回の授業でユーゴは言った。

 でも、自分の中にある魔力を感じるのは難しくて、なかなかに苦労した。

 そこで、読んだ小説の主人公たちのことを思い出していくつかその方法を真似してみたら。


「あんなに膨大な魔力を溢れさせてたのに、ほんの半月くらいでこの魔力操作だなんて、本当にすごいよ」


 自分の体の奥底から、巨大噴水のようにビッシャアアアアっと魔力が沸き上がってきて、りのは思いっきりビビってしまった。

 そこで魔力がコントロールから外れ、大爆発!


「その節は、暴発をとめていただきましてありがとうございました……」


 ――――しそうになったのだが、ユーゴががっちりカバーしてくれたので、部屋への損害も、周囲の人間の被害もなく終わった。

 よかった、本当によかった……。


「あはは、魔力量の多い子にはよくあることだからね、気にしないで」


 この世界での魔術は、感情に大きく左右される。

 あの日、謁見の間でそう教えてもらったが、感情は、魔術の出力というよりはコントロールを左右するものだ、ということらしかった。

 感情が揺れればコントロールが甘くなって魔力を全部ぶっこんだ魔術となるし、感情が安定していればコントロールが巧みになり、術の精度が上がる。つまり、感情のコントロールができていれば魔力がコントロールでき、出力を下げることもあげることもできるのだ。

 そして、想像したものをより正確に実現するにも、精緻な魔力の操作が必要だ、とユーゴは言った。この辺の理屈は、りのにはまだよくわからない。イメージに魔力操作が必要とはこれいかに? 何の関係が? と思っている。が、魔力操作を鍛えたほうがいいということはよくわかった。

 だから前回までの授業では、魔力操作の技術をあげるために、生活の中で常に練習できるような魔術を教えてもらって練習した。

 それが、この灯りをともす魔術や水の球を出す「水球」、土の塊を生み出す「土球」などである。

 前回の講義から今日までの間、りのは時間を見つけてはちまちまと練習を繰り返していた。


「ん、消していいよ。じゃあ次は手のひらにのるくらいの土団子を、そうだなあ、七個いってみよー!」

「はーい。『土球』」



 ぽぽぽぽぽぽぽん。



 めいっぱい広げたりのの両てのひらに現れたのは、七つの三角錐だ。

 はじめはボールの形にするのにも苦労していたが、繰り返し練習するたびにちょっとずつイメージに近いものが作れるようになった。


「おお、お見事!」

「ありがとうございます~!」

「とうとう球以外の形にもできるようになったんだねえ」


 あはは、とりのは笑ってごまかした。


(逃げるときとか、マキビシの代わりになるかもだから必死に練習した~なんて理由は言えないわあ……)


 ユーゴはすすすと寄ってきて、三角錐……マキビシの一個を指でつついた。


「おお、けっこうがっちりできてるね、いい感じだ」

「魔術ってすごいですよねえ、固さまで実現できるんですもん」

「ね~、おもしろいよねえ、次に何ができるんだろうってわくわくするよ」


(それにしても、こんなに魔術が好きな人なのに、魔力についての疑問は持ってないの、ふしぎだよねぇ……)


 前回、りのはユーゴにそもそも「魔力」って何なのでしょう、と質問してみた。

 生命エネルギーなのか、空中の何かを取り込んでいるのか。それとも別の何かなのか。

 それが分かれば、たとえば魔力の回復とか譲渡とかができるかもしれないし、何なら効率的な魔力の使い方も考えられるだろう。

 なのに、聞かれたユーゴはきょとんとして言ったのだ、そんなこと考えたことも気にしたこともなかったなあ、と。


(こっちの人、政治とか文学とかではそんなことないのに、魔術に関することにはあまり疑問を持たないみたいなんだよね。それぞれの魔術の研究とか、魔術を使った戦術とか詠唱破棄とかは熱心にやってるみたいなのに。気にならないのかな)


 自分が魔力のない世界から来たから、ふしぎに思うだけなのかな? 魔術は魔力がなければ使えないのだから、けっこう大事なことだと思うんだけど……。


「次は風を僕の周りにだけ出してみて~。いくつか風の魔術は教えてたっけ? じゃあ一番好きな奴でいいよ~」

「はーい。んー、じゃあ『微風』!」


 そうやってユーゴの指示のもと、他の属性の魔術についても練習してきた魔術を順々に使っていく。

 ちなみに、「聖女さまっていうか異世界からのお客様は、今まで例外なく全属性なんだよ~」と言われ、属性を隠すのは諦めた。


(なんで聖女っていうか異世界人は全属性なんだろう? うーん、わからん! 魔力の多い全属性の人ってこっちにもいるんじゃないのかなあ。それだけなら別に異世界人を呼ぶ必要もないわけだから、魔力量や属性以外に、異世界人ならではの特徴があるってことでしょ?)


 りのは火魔術のひとつ、「火花」を発動して線香花火のようにぱちぱちさせながら首をひねる。



(なら、やっぱり聖女の特徴って、魔力そのものにあるんじゃないのかなぁ?)

 


今日はここまでとなります。

お読みいただきありがとうございますー!

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