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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第36話 あなたと交渉中


「フィンレー様」

「うん」

「どうして、今日は嘘をつかないって決めたんです? 知らせずに、この国の利益になるように私を誘導することもできたでしょう?」

「お前相手にそれは無理だと判断したってのもあるが、何より、情けないだろう、それは」


 フィンレーは背筋を伸ばした。静かな、けれど強い威厳がその体を覆う。


「この世界は、本来この世界の人間が責任を持つべきで、この国は俺がおさめている国だ。まだいとけない少女たちを無理やり攫ってきて、その責任をまるごと押し付けるなんて、本当ならあってはならないことだ。その上に、偽の情報を与えて傀儡にするなぞ、あまりにも卑怯だろう。王として、いや、この世界に生きる一人の人間として、情けないだろう」


 どうしようもなかったとはいえ、いや、だからこそ、お前たちに対してできる最大限のことはするべきだと思ったんだ。

 そういうフィンレ―から感じたのは王としての誇り。


「だからせめて、お前には、きちんと知ってほしかった。なぜ呼ばれたのか、どんな危険があるのか。そのうえでこの世界、この国にいてほしいんだ。図々しいことだとわかっている、卑怯だとも思っている。もちろん、申し訳ないとも。だからせめて、対等に話がしたかった」


 たぶんフィンレーは、その言葉のひどさもわかっているのだろうと思う。

 攫っておいて、危険な考えを持つ人々の居る世界に、そしてこの国にいろという、その残酷さも。

 そして、そう言っておきながら異世界人を国のために囮にするという傲慢さも。


 そう思って、りのの中にふつりと怒りのような何かが湧いた。

 どうしてこんなことに、という怒り、恨み、そして悲しさ。

 そして、死んだらもどれるのかな、といつもの気持ちが片隅をよぎった。

 こんなところさっさと出て、お家に帰りたいな、と。



(ああもう、うろたえるな、私。ちょっとは経験を積んできた大人でしょ)



 混沌としてきた感情を、ため息を噛み殺しながら抑えこむ。

 ここで生きるしかないなら、せいいっぱい周りにも自分のどろどろにも抗っていかなきゃ。



 りのは伏せていた目をフィンレーに合わせて、あえてにっこり笑ってみせた。



「後日、あらためて交渉ってことになるかと思うんですが」



 泣くな。怒るな。今しなきゃいけないのは、安全を確保するための交渉だ。

 ちっぽけな店とはいえ商売人を名のるなら、笑ってみせろ!



「フィンレー様、今日は嘘をつかないという言葉に二言はありませんね?」



 いきなり雰囲気の変わったりのに、フィンレーは警戒をあらわにした。


「おう。だが言いたくないことは言わんぞ」

「かまいません。まず、他国のスタンピードの状況について教えてください」

「状況? 他国の?」

「はい。もう滅んだ国があったりするんですか?」

「いや、そんな話は聞いてないな」

「スタンピードが起こっている国とか規模とか、最新の情報はどうでしょう?」

「大規模なスタンピードが起こったという話はまだない。というか、その前の段階でお前たちを呼んでるから、少なくともこの国の周辺で大規模なスタンピードが起こることは考えにくい。ダンジョン単位のスタンピードや単発で強い魔獣が出てくる可能性はあるが」

「あー、なんとなくわかります。私たちがこの国にいるから、ここを中心に何らかの力が波及していくってことですね」

「そうだな、歴史を見るとそういうことになっている。周辺国以外の他国の情報の精度に関しては、まあ質も早さもそこそこだ。大筋で間違ってはいないだろう」

「そこそこ、ですか……。では、遠く離れた人と会話ができるとか、一瞬で移動できるとか、そういう魔術があったりします?」

「会話のほうはないな。手紙ならないでもないが、時間はかかる。と言っても、使者が行き来するのに比べればずいぶんマシだが。移動に関しては、一応転移門はある。だが決められた場所の往復ができるだけで、しかもかなりの魔力が必要となるし、転移門の作成者本人の許可がないと使えない」

「ん~~……その門、他国には置いてませんよね? 国内だけですか?」

「そうだな、国内に数か所だけだ」

「思い立った時に、自由に転移ができる魔術はないんですか?」

「ないな。すげえな、そういうのがあったら情勢が一発で変わるぞ」


 その状況を想像してわずかに青ざめるフィンレーを無視し、りのは考え込む。

 何らかのスパイをその国に潜り込ませている感じだろうか。公的な情報筋、たとえば大使館のようなものよりも早く情報をとる手段をもっている、けれどそれがすぐに伝わるわけではない、という意味での「そこそこ」なのだろう。

 他国からの干渉も、聖女召喚に成功したという話が伝わり、国内で対応を決めて、この国まで使者なりを送ってくる時間を考えると、この世界ではかなり時間がかかるのではないだろうか。電話やジェット機があるわけでもないようだから、情報の伝達や人の移動にかかる時間はかなりのものだろう。

 どちらにせよ、今すぐに世界がどうこうという事態ではないようだし、状況がすぐに変わるというわけでもなさそうだ。


 時間の余裕はある。



「国内で、魔獣が溢れたところは?」

「今のところ溢れてはいない。長く戦っているところもあるが、それぞれの領の騎士団や冒険者で対処している。第三騎士団もいるしな」

「第三騎士団?」

「お、ロゼリア、説明してないのか?」


 後ろで小さく頷くロゼリアを見て、フィンレーはにっと笑った。


「ウェルゲア王国第三騎士団。魔獣討伐を担う、俺の自慢の騎士団だ。ロゼリアの兄が団長を務めている」

「なるほど」


 自慢の騎士団。手練れ揃いなのだろう。

 ということは、国外でも国内でも、時間の余裕はかなりあるとみていい。


「私、いえ、私たちの国内派遣は、抑えられますか」

「――――何とか抑えたいと、思っている」

「できそうですか」


 くっとフィンレーが眉をしかめて押し黙った。

 答えはない。

 派遣してほしいと強硬に願う一群がいるのだろう。多少は抑えられても、最終的には出なきゃいけないらしい。

 腹は立つが、国王といえどできることとできないことはあるのだろう。

 それに、国王としては下手なことを言って言質をとられるわけにもいかない。

 先ほどまで書いていた紙を思い出す。

 欲しいのは、知識。そしてそれを学ぶための時間。

 そして、危険なことをせずに済む、もしくは拒否できるだけの立ち位置。

 だったら、一歩ずつ進めていこう。

 あれこれと考えつつ、薄く笑みをたたえて、表情を整える。



「フィンレー様。私、向こうでは商人をやってたんですよね」



 だから、私と取引をしてください。







 隠ぺいの魔術をかけてからコルティアドの庭を後にする。

 裏門を出たところで、フィンレーとフィリベルは二人して深いため息をついた。


「無理を言ってすまなかったな、フィル」

「とんでもございません。お役に立てたならばそれで。――いやあ、異世界人がすごいのか、彼女がすごいのか、判断に迷うところです」

「両方だろうな。だが、幸運だった」


 フィンレーはコルティアドの庭をちらりと振り返った。

 リノア・ミハイルは、とてもちぐはぐな女性だと思う。

 容姿は清楚で可憐なのに、中身は肝が据わっていてとても二十代には見えない。いっそ自分と同世代ではと思うほど、中身がこなれている。相応の経験を積んできたとしか思えなかった。


「あの茶菓子、うまかったですね」


 フィリベルは、二人きりの時は気安い態度で話しかけてくる。フィンレーもそれを許していた。

 フィンレーの姉がフィリベルの母であり、叔父と甥の関係なので、親しさも当然というもの。


「うまかったなあ。こっちの材料であれだけ作れるんだから、やはり異世界人の知識というのはすばらしいものがある。あのソースはレシピ欲しいな、チェルが好きそうだ」

「さっぱりとしてよい味でした。チェル様もお好みになられるかと」

「買えるようだったら交渉してみるか」


 王宮の執務室へ向かいながら、フィンレーは今日、リノアと交わした会話を思い出し、思わずくくっと笑った。

 どうしましたか、とちらり振り返って目で問いかけてくるフィリベルに、フィンレーは一言だけ返す。

 指定された一週間後の謁見が楽しみだ。



「いやあ、面白い『聖女さま』だなと思って」




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