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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第32話 ゆるすということ


 引きこもった二日間、りのは本当に好き勝手に過ごした。

 身近に人がいなかったのもあって、好きな時に起きて寝て、インベントリも遠慮なく使い、食べたいものを食べて泣きたいときには泣いた。お酒もたらふく飲んだ。残念ながら、王様にもらったワインはインベントリに入れてもやっぱり復活しなかったが、かわりにエンドレスビールをやってやった。

 一日中ぐだぐだして、酒を飲みネットを見、小説を読んで映画を見て、寝たいだけ寝て怒って泣いて。

 向こうの世界と同じような方法でたまったストレスを発散してるなあ、と自分を顧みて。

 そうやってやっと、恨みも怒りもあるけれど、それでも前を向こうと思えるようになった。


 向こうの世界に帰ることを諦めたりしない。

 それと同時に、この世界にも帰れるところを作ろう。


 そんな最初の気持ちに、ようやっと戻ってくることができたのだ。

 そして、もう一度動きだそうと思った。





 久々に、ちゃんと朝の時間に朝ごはんを食べることにして、りのはキッチンに立っていた。

 この二日の不摂生でむくみはひどいし、泣きわめいたので目も腫れぼったいが、まあいいかと気にしないことにする。朝ごはんを食べたら、なんかこう、リフレッシュできるような魔法を作ろうと思った。


 朝ごはんのメニューは、野菜のクリスピーなピザと、この二日間使った野菜や肉の切れ端を放り込んで作ったとろとろのスープだ。


「イーストもベーキングパウダーもないの本当辛い。ふわふわのパンが食べたい。よし、やっぱり近々、なんとかパン酵母を作ろう」


 ロゼリアたちの分と、もし来た時のためにカーティスの分もいれて、ピザ生地の分量を量った。

 人数でいえば六人分だが、レノアはまだ子どもで食べる量が多くない。メイドであるイリットとメリルは、食事中には給仕の仕事をするし朝ごはんは従業員用の食堂で食べてくるので、彼女たちの分はおやつの量くらいでいい。カーティスの分はそれよりちょっと多くするけれど、それでも軽食程度だから、実質は四人分ちょっとくらいかな、と思いながらせっせと粉を練る。

 すべすべになったところで少し休ませ、成型。

 向こうの世界で、ストレスがたまるとパンやピザを焼きだす友人がいたのだが、その気持ちが少しわかった。

 すべすべでふにふにしていて、触っているだけで癒される気がする。

 それから、昨日怒りに任せてつぶしまくったトマトで簡単なソースを作り、アスパラのようなナリシスという野菜をさっとゆでて載せ、玉ねぎを薄くスライスしてちらし、残っていたチーズをすべて砕いて振りかける。

 それを予熱していたオーブンに突っ込んだ。


 ピザを焼いている間に、スープの味を調える。

 スープは、いろいろな野菜のうま味と肉のコクがうまくまざりあって、とてもやさしい味がした。

 ほとんどの野菜が煮崩れていてとろとろだ。

 味見をして、ふと、りのは母親が作ってくれた味噌汁を思い出した。

 胡椒を入れようと瓶に伸ばしていた手を止め、インベントリから醤油を取り出し、ほんの少しだけ落とす。味噌汁を作るには足りないものが多すぎるので、せめてもの隠し味に。


(いつか、美味しいお味噌汁とおにぎりと、卵焼きとウィンナーのごはんを作ろう。お父さん、この組み合わせ大好きだから、お母さんよく作ってたなあ。おにぎりの中の梅干しも作らなきゃだな)


 味見をして、うん、こんなところかな、と思ったところで、ロゼリアたちがやってきた。




 ひざまずき深々と頭を下げる彼女たち。

 真摯な謝罪の言葉。

 びっくりして、次に思ったのは「嬉しい」だった。

 自分の怒りを、恨みを、確かに受け取ってくれた人たちがここにいる。

 でも、それと同じくらい、違うのに、という気持ちもわきあがった。


 (だって知ってる。ロゼリアたちが召喚したんじゃない。何にも関わってない。ただ期待してただけ。それは、罰せられるようなことじゃない)


 彼女たちとて、それはわかっているだろう。けれど、それでも謝ったのだ。

 その言葉が、りのを見て謝ってくれたことが、じんわりと胸にしみる。

 彼女たちの言葉で、態度で、どろどろした黒い気持ちが、少し減った気がした。

 怒りも憎しみも、持ち続けるのにはエネルギーがいることで、決して快適なことではない。


 

(この世界の人みんなに謝ってもらったって、このもやもやのどろどろ、消える気がしないのに、ロゼリアたちの言葉はまっすぐに届くんだなあ)



 たった三か月だ。

 たった三か月なのに、ずいぶんと自分はロゼリアたちに親しんでいたみたいだと、りのは内心で苦笑する。

 親しい人ができれば、生きることはずいぶん楽になる。

 家族も友だちもいない、たったひとりきりの世界によすがができるのだから、当然といえば当然だ。

 だからこそ、そんな人たちに真摯に謝られれば、許したい気になるのもまた当然なのだろう。



(恨まないようにするには、ちゃんとここに足をつけることが必要なのかなあ)



 今だって、りのは家に帰りたいと思っている。

 でもそれがすぐにはできないなら、せめてここでの生活を居心地よくしたい。

 それには、このどろどろした怒りや恨みは、押し込めておける方がいいのだ。

 どこまでも自分本位だけど。


(ロゼリアたちみたいに、仲良くなった人ができれば、押し込められるかなぁ。ロゼリアたちに謝ってもらったら、軽くなったもんなあ)


 自分は仲良くなった人たちに謝ってほしいのだろうか、と考える。

 そして思った。この召還に直接かかわってないひとに、それは望まないな、と。

 だって、やっぱりその人たちは望んだだけ、願っただけだから。何度考えても、やっぱりそうだ。

 罪悪感は持っててほしい。けれど、悩まないで、謝らなくていい。

 なんとも、我ながら勝手な言い分だと内心で苦笑する。



(直接かかわった奴らは泣くまで謝らせたいけどな!)



 りのはただでさえマイペースで、自分の価値観や考えを中心に生きてきた。

 怒りや恨みを抱いたとき、相手ととことん話しても分かり合えなかったとき、一方的に傷つけられたとき。

 そんな時は、相手を許すよりも相手から離れるほうが多かった。

 そんな相手に時間と心を費やすより、家で好きなことをしたりきれいなものを眺めたりする方が大事だったからだ。

 だから、許すことに慣れていない。


(心が狭いのよ私は!)


 知ってる。わかってる。これは私の弱点。

 だから、なんとか自分で乗り越えていかなきゃいけない。

 じゃないと自分がつらいばっかりだ。それは嫌だし腹も立つ。


(今まで許す練習をしてこなかった私の自業自得なんだよね。でもヒントはもらったから)


 彼女たちの真摯な謝罪が、すべてを奪われた怒りや恨みを飲み込む痛みを、少し柔らかくしてくれた。

 自分の弱いところを教えてくれた。


 こちらこそありがとうだ。



 床に膝をつき謝罪しているロゼリアの前に膝をついて目線を合わせる。

 ふわりと床に広がったワンピースは、淡く上品なモーブカラーが気に入っている。ロゼリアがすすめてくれたワンピースだ。

 ロゼリアの手をとると、その手のひらに爪が食い込んでいるのが見えて、泣きそうになる。

 ぎゅっと握り込んだ手から、じんわりとロゼリアの体温が伝わってきて、りのは、なんだか、頑張ろうと思った。




(許すことって、自分を丸くすること、そして強くすることなのかもなぁ)




 りのは、彼女たちに立つことを促しながら、今日の予定に頭を切り替えた。



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