第21話 魔術いろいろ
そうやってりのはさらに図書館で日々をすごした。
スティラも顔を合わせるたびに慣れてきたらしく、今ではリノア様と呼んでくれるし、図書館のことや本のことなど以外にも、いろいろなことを教えてくれるようになった。
ただ、スティラの生家であるボドリー伯爵家は、王領のひとつを預かっておさめている代官の家なのだそうだ。
つまりスティラもけっこうなお嬢様だったので、りのが今一番知りたい、市井の人々の暮らしのアレコレを知ることは叶わなかった。
そのかわり、学問に関することは本当にたくさん教えてもらっている。
(スティラ、本の専門家だけど、いろんな分野に詳しくてすごいなあ。乱読してるうちに内容もつかんだんだろうなあ。その分野の全体像とかさわりとかを教えてくれるの、ほんと助かった……)
頼もしい司書の手を借りて、りのは知りたかったことを順調に学んでいる。
まず、心配していたこちらの人間の体のつくりについては、なんとりのの知る人間とまったく同じだった。
魔術の一環として治癒魔術という分野があり、そこで人体研究もされていて、おおざっぱではあったが人体図を見ることができたので、スマホで検索した自分たちの世界のそれと比べてみたが差はなかった。
つまりは同じつくりの「人間」なのだろう。不思議なことだ。
魔力を生む器官がなかったのにはちょっと驚いた。体の中で、血液みたいに生成しているのかと思っていたからだ。じゃあ魔力とはいったい何だろう、どこから来ているんだろう。この辺は、チラ見した本にも書いていなかったので、疑問としてメモに書きつけておいた。いつか誰かに聞いてみよう。
また、基本的に人体に関しては向こうの世界と変わらない理屈のようだが、魔術があるおかげなのか、あまり学問としての発展はしていないようだという印象を受けた。筋肉や神経、臓器、その役目は知られていても、そのつながりについては詳しく書かれていない。病気の研究があまりないのはそのせいかな、と思う。治癒魔術は病気にも効くらしいので、その辺りも必要ないのかもしれない。
ひとまず、怪我も病気も魔術で何とかなることがわかったので、ほっとした。魔術で治せるのなら、りのの魔法も役にたつだろう。
次に、その魔術に関しても基本的な知識を手に入れた。ほんの概略だけではあるが。
魔術には火、水、風、土、光、闇の六つの属性があり、自分に合った属性のものを使えることがわかった。平民もふくめ、大体どれか一つは属性を持つらしい。たまに持たない者もいるが、魔力そのものは持っているので、生活に問題はないそうだ。
家電にあたるものを魔道具というのだが、その魔道具は魔力で動くという。それを使うのに魔力は必要だが、属性はなくてもいいらしい。誘拐初日に押し込まれた部屋のランプは、魔力で動いていたということである。
複数の属性を持つ者は貴族に多く、三つ四つ持つ者もいる。ただし全属性は非常に少ないのだそうだ。
りのが気にしていた治癒魔術は、各属性にそれにあたる魔術があり、特に種類や数が多いのは光だった。
加えて、この治癒魔術、どの属性でも非常に適性に左右されるのだという。水属性を持っていても水の治癒魔術が使えるものは少数なのだそうだ。例外は光で、光属性持ちは治癒魔術が得意なことが多いという。
ただ光属性を持つ者は少ないので、治癒魔術はやはり希少性が高いのだそうだ。
これを教えてくれたスティラは、水、風、土の三属性持ちだが、治癒魔術はどの属性でも使えないとのことだった。
また、それぞれの属性に上位属性というものがあるということも知った。
火ならば熱、水ならば氷、風なら雷、土なら木、光は聖、闇は魔。
初めてそれを本で読んだとき、魔魔術だってぷぷぷ、と思わず吹き出し、ロゼリアをびくっとさせてしまった。
しかしなぜ、どういう理屈でそうなるのかはわからない。なぜ風の上位属性が雷になるのか、なぜ水ではないのか、その辺りがりのには謎である。土の上なら岩なのでは? なぜ無機物が生き物に? 細菌ベースなの? などと思う。やはりこういうところでは向こうの世界との違いがあるようだ。
また、スキルについても調べた。
磨いた技術がある程度のレベルに達すると、スキルとして現れるそうだ。こちらはかなり詳しい一覧があり、見ていて面白かった。
剣術、槍術などの武芸に関することから、料理、裁縫、清掃といった日常生活の技術までかなり広範囲に広がっていて、自分にどんなスキルが生えてくるのか、少しわくわくしたりのである。
ちょっと自分のステータスを見てみたのだが、そこまでは確認できなかった。「ステータス」のレベルが低くて確認できないのか、そもそもスキルが生えていないのかはわからないが、これからに期待大!
こうやっていろいろなことを知ったりのだが、結局、聖女の魔術とはどういうものなのかはわからなかった。聖女に関する書籍が非常に少なかったのだ。結果、自分の持っている力について、知りたいことは何もわからなかったというオチである。
(魔術については、聖女バレした後でもいいからきちんと先生をつけてもらって勉強したほうがいいな。たぶん、私が使ってる魔法とは別枠のものだと思うんだけど、どっちも使えるようになりたい)
りのの使っている「テレポート」や「ハイド」といったものは、こちらの魔術に対応するものがなかった。ギフトやスキルの一覧表にもなかった。
ということは、りの個人が作り出した、りのにしか使えないオリジナル魔術の可能性が高い。
魔術とは違うという意味で、「魔法」と呼ぶのもあながち間違いではないのかもなぁと心の中でうなずく。
向こうの世界の映画や漫画、小説や物語のイメージ、そして自然科学や技術の知識。その両方をベースにしているのがりののオリジナル魔術で、それらなしに発動はできないのではないだろうか。
(この予想だと、あの子はできる可能性が高いかなー。もし仲良くなれたら試してもらうかなぁ)
一方、魔術陣のほうは魔術よりも理解しやすかった。
こちらの世界のいろいろな文字を読めるようになっていることが大きいのだろう。魔術陣に書かれた装飾的な文字を読み取れば、なんとなく仕組みがわかる。けれど、魔術がベースになっているので、やはりしっかりと学ぶ必要がありそうだ。帰還の魔術陣を完成させるためにも。
この国についても調べ始めた。資料が多くてちょっと心が折れかけたが、なんとか頑張るつもりだ。
このウェルゲア王国は、国王を頂点としており、非常に歴史の長い国である。
基本となる法律は国王が定めているものの、各領の裁量にゆだねているところも大きい。一方で、その監査や細かなチェックは国からの役人がすることになっている。他にもいろいろな面から、国の管理機能が働いていることが感じられた。この辺は、スティラの実家の話を雑談の時に聞いて確認をとった。
(つまり、王家の力は安心して暮らすにはやっぱり必要って感じ。だめならもうこの国から逃げたほうがいい気がする。王家より貴族の方がこの国は横暴だ)
図書館に収められている国の資料を見る限り、長い間戦争がなく、物価もここ十数年はある程度安定しているようだ。特に、おそらく主食なのだろう小麦やライ麦の価格は小さな幅で上下するだけでほとんど変わっていない。王都の治安はいいし、各領の納税のレポートを見るに破綻しているところもなさそうだ。不作の時などには国からきちんと援助が出ていた。
それらから考えると、今の国王は良い王なのだろう。
(まぁ次の代がどうなるかはわかんないけどね!)
りのはぱたりと資料を閉じた。




