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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第17話 騎士様(美女)とお茶を


 頼んでいたお茶とお茶菓子がメリルの手でセットされて、りのとロゼリアは丸いテーブルについていた。

 ロゼリアの真正面から少しだけロゼリア側になるような位置に座る。ロゼリアはちょっと不思議そうな顔をしていたが、すぐに表情を戻した。


(あまり慣れない位置だよね、ごめんなさーい! でも真正面よりは緊張しないですむので……)


 心の中で言い訳をしつつ、りのはそっとロゼリア卿の様子を伺った。

 何度見ても本当にきれいなのだ。

 白金のつやつやした髪はわずかに青みをおびていて、ロゼリアの凛としたたたずまいをよりクールに見せている。


「あの、ロゼリア卿、紅茶にお砂糖はいかがですか?」

「え?」

「え?」


 ひとまずお茶を飲もうとなにげなく問うたら、びっくりしたような声が返ってきて、こちらも思わずぴゃっと背筋をのばしてしまった。


「あの、どうされました?」

「失礼いたしました。――紅茶に砂糖、というのを、初めて聞いたものですから」


 え? は? 

 えっと?


「こちらの方は紅茶に、お砂糖、入れませんか?」

「少なくとも、私は今まで寡聞にして砂糖をいれるとは聞いたことがなく……申し訳ありません」

「えっ謝らないでください、ロゼリア卿は何も悪いことをしてはいないんですから」


 りのは今まで、この国に来てからのことを思い出していた。


(――――そういえば、いれたことないわ、私も)


 紅茶もコーヒーもストレート派なので、砂糖もミルクも求めたことはなかった。

 そういえば、さっきメリルにお茶の準備をお願いした時、ちょっと戸惑ってた、かも……?


「あ~~~……こちらこそごめんなさいロゼリア卿、驚かせてしまいましたよね……」

「いえ」

「私の故郷では、紅茶に砂糖を入れて飲む人も結構多くて。甘い紅茶も人気がありましたし。ただ、私自身は砂糖を入れない派だったので、こちらで紅茶を頂く時にお砂糖をお願いしたことはなかったなあと……今、思いだしました……」


 ティーカップとソーサー、ティーポットにお菓子の皿とフォークは同じデザインのセットになっているが、砂糖は揃いのシュガーポットではなく、小さな白いスープボウルにいれてある。そのボウルに、揃いではないスプーンが添えられていて、どう見たってつけたしのようになっていた。


(うわあ、メリルもごめん、やらかしたわ私……!)


 りのは、向こうの文化レベルをこちらに求めない、という基本方針で動いている。

 出されている食事やお菓子、飲み物を見ても、家具や衣服を見ても、向こうの世界の方が技術力は高いし文化も発展していると思う。しかし、ここで向こうと同じものを求めて、それは知らないから教えてくれと言われるのは面倒だ。面倒なだけですめばまだいいけれど、向こうの技術や知識を無理やり引き出そうとか、そのために監禁とか。小説を読むと、こちらの世界でもそんなことがありそうで怖い。

 それに、今の段階でこちらの文化に影響を与えるのはあまりよいことではないとも思っている。

 小説の中にもあったけれど、たとえばこれがきっかけで紅茶に砂糖をいれるのが流行ったとしたら、砂糖の消費量が増え、生産者や流通にかかわる業者に大きな影響が出るだろう。それはきっと、いい影響だけではなく、悪い影響もある。砂糖はこちらでは貴重品だし。

 勝手に自分を誘拐した世界だとはいえ、むやみにダメージを与えたいわけではないのだ。

 

 だから、不便を我慢してこちらの生活に合わせることにしていた。

 食事が口に合わない時はなんとか頑張って口に押し込み、食事の後にこっそり向こうで買ったお菓子や総菜やパンを食べて口直しをしている。

 トラブルを起こさないよう、そうやって気をつけていたのに、うっかり……。


 やっちまったわあ、としょんぼりしていると、静かな声でリノア様、と呼ばれた。

 のろのろと視線をあげると、ロゼリアが目をキラキラさせてこっちを見ていた。

 …………あれ? なんでそんなキラキラ?


「紅茶に砂糖、とはおいしいものなのでしょうか」


 えっと。

 わたわたしながらりのは、甘いものが好きな人は好きだと思います、紅茶の香りに甘さが合うし、ほんのりした渋みとも相性はいいです、と答えた。

 ロゼリアはなおもキラキラした目で、


「では、お言葉に甘えて、いれてみてもよろしいでしょうか」

「あ、はい、もし甘いものがお好きでしたら、ぜひ……」


半ば茫然として言うと、ロゼリアは今までのクールな表情から一転、ありがとうございます、とはにかんだ笑顔を見せた。



 ずっきゅん!



(なにいまのなにいまの! めっちゃかわいかったんですけど! 素だったんですけど! クールなロゼリア卿とのギャップがすごい!)


 りのは、美術品や工芸品のセレクトショップをしていたわけだが、そもそも、きれいなもの、美しいものがとても、とても好きだ。店で扱っているのが主に美術品や工芸品だっただけで、きれいな人の顔ももちろん好きである。

 かわいい花、きれいな景色、美しく整えられた庭、美しく盛られた料理、きれいなデザインの建物と、あらゆるものに目がない。

 そんなりのにとって、誘拐された恨みは別として、この世界の人々、特に城の中で会う人々は非常に目に楽しいのである。

 色もきれいだし、みんなお顔整ってるし、これだけは役得だわ~と思っている。写真に撮れないのが残念でならない。


 そんなりのに、今のロゼリアの表情は直球ストレートど真ん中。

 ほわあ……とうっとり鑑賞しているりのの前で、ロゼリアは表情を保ちつつ、けれどワクワクを隠しきれていない目で、そっと紅茶に砂糖を落とす。

 添えられていたお菓子用のフォークでくるくるとかきまぜ、一口含んだ。


 ぱあっ。


「おいしい……!」


(あなたはかわいいです……!)


 青緑の切れ長の目がくるんと丸くなって、頬に赤みがさしている。

 それだけなのに、「凛とした騎士様」が、「かわいい女の子」になった。

 

(えっ私この人はクールな男装の麗人枠だと思ってたけど、違うの? 天然かわいい枠なの?)


「リノア様、紅茶に砂糖をいれるとこんなにおいしくなるものなんですね」

「え、ええ……」

「香りがいいだけではなくて味もおいしくなるなんて、驚きました」

「……ロゼリア卿、甘いものがお好きなんですね」

「はい」


 恥ずかしげにちょっとうつむく様子は、本当にかわいい女の子そのもので。

 「仲良くなってみよう」という打算交じりの思惑が、この人のことを知りたいなあという単純な気持ちに塗り替わっていく。


「実は、私も甘いものが好きなんです。ただ、紅茶と一緒に甘いお菓子を食べることがほとんどだったので、紅茶には砂糖を入れないようにしてたんですよね」

「お菓子とは、このクッキーみたいなものですか?」

「そうですね、似たようなお菓子もあります。ロゼリア卿は、どんなお菓子がお好きですか?」

「甘いものは基本的に何でも好きですが、強いていうならくるみにポイズンハ二―ビーの蜜をからめたものでしょうか」

「ぽいずんはにーびー?」


 なんだそれは、という顔をしたりのを見て、ロゼリアは教えてくれた。


「毒をもつ蜂型の魔獣の一種なのですが、とてもおいしい蜂蜜を巣にため込む習性がありまして。私の故郷の名産で、炒ったくるみにその蜂蜜をたっぷりからめて固めたお菓子なのです」

「毒がある魔獣もいるんですね。蜂型ということは、やはり刺してくるのですか?」

「はい、毒針が武器の魔獣です。とはいえ、あまり狂暴ではなく、毒性もそれほど強くないので、故郷では子どもたちがよく魔獣退治の練習がてら採りに行くんですよ」


 私も、兄たちとよく出かけていました。

 そう言ってほほえむロゼリアは、やっぱりとてもかわいい。

 りのも楽しくなってきて、ロゼリアの子どもの頃の話を聞いてみた。


 ロゼリアは五人兄弟の末っ子なのだそうだ。まだ幼いころ、五人で蜂蜜をとりに出かけたところ、ロゼリアのすぐ上の兄が採取に失敗し、ポイズンハ二―ビーにお尻を刺されて泣いてしまったという。すると、弟を傷つけられた姉が怒って、火魔術で巣のある一帯を焼き尽くしてしまったとか。その間、二番目の兄がすぐ上の兄のお尻を丸出しにしてポーションをかけていたとか。当の自分は、焼け残った小さな巣に突進し、指を突っ込んで蜂蜜をなめようとしていたら、消火を終えた一番上の兄に叱られたとか。家に帰ってもっと考えて退治しなさいとみんなで母親に叱られたとか。


 想像するとかわいくておかしくて、思わずくすくす笑ってしまった。

 魔獣とか魔術とか、退治とか、りのにはよくわからないことも混じっていたけれど、そこで語られたのは、ロゼリアの一人の人としての思い出や気持ち。幸せな記憶。



(……やっぱりこっちの人も、私と同じ、人間なんだなあ)



 りのは、今までは、ちゃんと感情や考えのあるここの人たちのことを、動く肖像画扱いしてたんだな、人扱いしてなかったんだな、と申し訳ない気持ちになった。こちらの人を遠巻きに見ていた。魔力なんてものを持っていて、あまり自分と同じ人間だという感じがしなかったのだ。でもそういう自分にも今は魔力があるのだから、やはり別の生き物ではないんだろう。同じカテゴリーの生き物なんだろう。


(こんなにかわいい人なのに)


 スクリーンに映っているものを眺めているような、自分とは無関係のような気持ちで接していたなぁ、と内心で呟く。

 来たくて来たわけではないから、互いに必要以上に触れ合わない方がいい、触れ合いたくないと思っていたのだけれど。



(ストレスがたまらない程度に、……この世界に影響が出ない程度に、関わってみようかな)



 迷いを押し隠しながら、りのは口角を意図的に上げて、目の前のきれいでかっこよくてかわいい人に、お茶をもう一杯すすめた。


ずっきゅん(古)

かわいい言葉だと思うんだけどなあ……

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