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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第165話 楽ありゃ苦もあるさ 


「は?」



 横向きに書かれているとはいえ、特徴的なその形を見間違うはずはない。

 それはやはり、映画なんかでよく見た、銃。


 動かしにくい手を無理やり動かして、ゆっくりと本を横向きにする。

 それは間違いなく、銃の断面図、いや、設計図だった。


(なんで、ここに銃の設計図?)


 何度見ても、それは向こうの世界で多くのひとの命を奪ってきた、いや奪い続けている武器の一つ。


(武器、――――え、やだ、もしかして)


 慌ててひとつ前のページに戻り、タブレットを出してネットで検索をする。タッチパッドを触る指がかすかに震えた。

 辞書を出し、ひとつひとつ単語を拾っていく。


(上のこっちの図。powder――火薬って意味があるのね。あ、これ、Blackか。続けて Black Powderって単語、ということは黒色火薬だわ。それに、Shell――弾包)


 隅っこに書かれていた、その絵のタイトルらしきものに気づいて目をやれば、そこに書かれた文字はBullet。辞書を見なくてもわかる。


(弾丸…………)


 急いでもうひとつの、寸胴鍋か土鍋かと思っていた図面の方もタイトルを探す。

 そして見つけた文字を見て、りのは天を仰いだ。



(Landmine――――地雷)



 ああこんなことってあり? 私、今日とっても嬉しいことがあっていい気分で、じっくり本を読んで次のステップに備えようと思ってたのに、なんでいきなりここで武器なのよお……。


「はああああ…………」


 もうなんかいろいろなものがふっとんだ。

 本をテーブルに戻し、手袋を外してその上にそっと重ねて席を立つ。


「『バリア』」


 念のために防音を兼ねた防御の魔法をかけて、そして、おもいっきりベッドにダイブ。

 足をバタバタさせながら、布団に向かってわめいた。



「もうやだあああああ! 考えるの疲れたああああ!!」



 大体、聖女の本から武器の作り方がリアルな形で出てくるなんて誰が思うだろうか。

 りのが想像していた王家や国に渡さないほうがいい知識とは主に政治や文化、自然科学に関するもので、まさかガチ武力がくるとは夢にも思っていなかったのだ。


(だって、魔術があるのにわざわざ銃とか使う必要ある? って思ってたからさあ! そうよ、今までの研究者もあの絵を見てたはずよね。でも、騎士団の人とかが銃を持ってるのは見たことないわ)


 ちょっとだけ頭が回りだす。

 よし、落ち着こう。

 インベントリからちょっとお高い方のチョコを出して口に運ぶと、少しずつ興奮がおさまってきた。

 うつ伏せから、ころんと仰向けになった。


(銃が見当たらないってことは、作ってみたけど何かよくわからなかったから放棄したとかかな。もしくは武器とみなされなかったとか。ありえそう。私、使い古した鉛筆かな、お鍋かなって思ったし、銃の方は知ってないと何が何だかわからないだろうしね)


 ちょっと気持ちが落ち着いた。

 聖女の知識が人殺しや大量殺戮に使われていたかもしれないなんて、想像するだけでも恐ろしい。

 でもまあ、今までこっちの世界で銃なんて見たことないし。武力集団である騎士団にないわけだし。


(じゃあ別に気にしなくてもいいか。そもそも、銃は弾丸がないと働かないものだし、前のページの図が弾丸だなんてわからないでしょ。地雷の方がむしろヤバいよね。まあ銃がわからなかったなら地雷もわからなかったでしょ…………って、あれ?)



 地雷。

 地雷を踏んだ。



(最近、どっかで、聞かなかったっけ……? あれ? 気のせい?)



 何かひっかかった。

 気のせいか、と思ったが、なんとなく記憶を探ってみる。


(うーん……体は若返ってても、記憶力とかが若返ってる感じはあんまりしないんだよねえ……どうだったかなあ……)


 ひとくさり最近のことを振り返ってみた。

 聖女認定の後、リシェル嬢とのお茶会、ティアーヌ王女とファルカ・エスタリの乱入。

 そこで王妃様と知己になり、お茶会に招かれて、魔獣素材のドレスを頂いて。

 その後、カノンちゃんと会って、仲良くなって、連絡をとり合うようになって。

 それからテオ君と知り合って、聖女史料を……ん?


(あれ? やっぱりなんか引っかかってる? なんだろう、カノンちゃんか? ――――いや、違うなあ)


 思い出せそうで思い出せないのはイライラする。

 もう一つチョコを取り出して口に放り込み、その甘さに、しょっぱいものが食べたいなあ、ポテチとか、と思って。


「あっ」


 そこでちょっと思いだした。

 イモージェンというテオドールの侍女とテオドールが言い合いをしていたのを端から見ていて、「あっあの侍女、殿下の地雷踏んだのね」と思ったのではなかったか。

 そうだ、たしか侍女がテオドールの兄であるローランの悪口を言ったあとのことだ。テオドールが大爆発してたから。


(なんだ、私が「あの子地雷踏んだわ」って思った時のことかぁ…………あっ、)


 一度つながった記憶が、次々とその前後のことを脈絡なく脳裏に引っ張り出してきて、その中にりのは衝撃的な場面を見つけた。

 子どもらしいまろやかさを残した声がする。




『わたしは、きれいにあなたの地雷を踏んでたんだね』




 おおお……と頭を押さえて呻く。

 言われた。そうだ、テオドールに言われてた!!



(やっば……!! 何がヤバいって私なんであの時気づかなかった!? 知ってる、その前に自分で「地雷踏んだな」とかって思ったから、違和感なく聞いちゃったんだわ! ってそうじゃない、そうだけど今はそうじゃないぞ! 何よりヤバいのは、)



「つまり、地雷が踏んで爆発するものだって、知られてるってことでは……!?」



 もしそうなら、今まで情報を探ってきた者たちの危険度が上がる。

 武器に類するものがあると知って聖女の本の翻訳を狙ってくるなら、行きつく先は武力蜂起や武器の輸出など……どちらにせよロクなことではない。  

 聖女の魔術についても同じことが言えるけど、「創造魔術」は一般の魔術に変換する必要があるようなので、こちらは緊急ではないだろう。


「うあああ……ええ……これ、どうやって調べればいいの……?」


 やっぱりあの時テオドールに意味が分からないふりをして聞けていればよかったのに。

 まあ今さら言っても仕方ない。切り替えていくしかない……若干、というか、けっこう、ショックだけど……。

 頭はやはり四十か……。


(ええと、まずどこからだろう……ああ、言葉なんだから辞書か。ウェルゲア語の辞書、あと慣用語辞典とかあればいいのかな)


 これは、あとからレノアやイリットにお願いして図書館から持ってきてもらおう。

 図書館で辞書を引くのは危険だ。出入りするのは自由な場だから、何を調べていたのかバレる可能性が無いとは言えない。

 最大限の警戒をしておこう。借りてきてもらって部屋で調べよう。


(それに、列伝で確認するのは良さそう。あとでこのマティス氏の聖女ネーム、きっちり探さなきゃ。あとはなんだろうなあ、実際に使われているかどうかが分かればいいのか……でもどうやって調べる?)


 この件を全部ユーゴたちにぶっちゃけて相談するのは、さすがに怖い。だってまだ、スパイのあぶり出し中なのだ。それに、二冊目はまだ読んでないことになっているから、齟齬が出てしまう。


(いろいろごまかしたり内緒にしたりしてるんだから、自業自得。そりゃあ聞ければ早いけど、私が武器の知識を持ってるって思われたら、誰から何をされるか分かんないし、――――また毒を飲まされるのは絶対いやだ。怖すぎるし、そんなのに怯える生活も絶対いや)


 やっぱりあの時、テオドールに確認をとれてればなあ。ため息をついた。


 しかし、やはり、騎士団で銃を見ないのはなぜなのかが気にかかる。魔術の方が威力があって、銃を使うまでもないからだろうか。

 万が一の防衛のため、もしかしたら地雷は貯蔵されているかもしれないが。


(騎士も魔術使える人ばっかりだからねえ……あ、そうか。魔力が低くて魔術が使えない人たちは銃を使ってるかもしれないのか。となると、もし銃が広まっていて、使われているとしたら、平民の間かな、全体的に魔力は多くないって言ってたし。じゃあ武器を使う平民の人たちがいるところといったら、)



 このタイミングかあ、とりのは頭を抱えた。

 街へお忍びで行けることにはなったけど、そこに行きたいと言ったら不信感を抱かれるのでは? 脱走しようとしてると思われない?

 でも、なんとかうまい理由を探すしかないだろうなあ。


 せっかく、ちょっと心の距離が近づいたかなって思ったのに、なあ。

 



「なんとか行けるかなあ、冒険者ギルド」




今日はここまでです。お読みいただきありがとうございました。

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