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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第160話 わかったことといっぱいの謎


 久しぶりの日本食はおいしかった。

 生姜焼きは柔らかく甘じょっぱく、生姜の香りもあいまってご飯がどんどん進む。ワインの風味は結構抜けていて、違和感も心配していたほどはなかった。

 豚汁ならぬオーク汁のやわらかく煮えた大根や人参を食べると、味噌の豊かな風味が口いっぱいに広がる。


(本当は豆腐とわかめのお味噌汁とかにしたかったけど、材料が揃わないからなあ)


 それでも久しぶりの味噌の味を、存分に楽しんだ。

 全部食べつくしてお腹がいっぱいになると、気持ちがなだらかになっていくのが分かる。


(英子さんもどこかで楽しんでくれてたらいいな)


 そう思いながら影膳を下げた。下げた食事はインベントリへ収納し今度カノンと一緒に食べようと思った。ビールは自分で飲んだ。


 食器を洗って拭きあげてから、今度はおにぎりの作成をする。

 半分はお塩だけを使った白おにぎり、半分はお醤油とごま油を使った焼きおにぎりだ。

 りのの実家の焼きおにぎりは、あらかじめご飯にだしと醤油、白ごまで軽く味をつけ、それを握って、少しだけ砂糖を加えた醤油ダレを塗り、ごま油で焼くものだ。りのは母の作るこれが大好物だった。


(カノンちゃんちの焼きおにぎりはどんなのだろうなあ。機会があったら作ってあげたいな)


 ごま油は奇跡的に買っていたので、遠慮なく使う。焦げやすいので弱火でじっくりと、焦らずに焼いた。


(うーん、この機会に何か作っておくものあるかなあ。主にお米関係で。あ、洗い米は足しておこう)


 持ってきたお米三キロ全部使うと復活しなくなるので、少しだけ残して、あとはしゃかしゃか研いで水に漬ける。


(作り置きもお皿の問題があるからなあ。インベントリにしまいすぎるとお皿が足りなくなっちゃうし、どこにやったか怪しまれるし。一人でお買い物行ってお皿買いあさりたいなあ)


 なくなっても不審に思われないぎりぎりの皿数と材料の量を考えながら作り置きのメニューを練る。豚汁でスープボウルを使ったので、汁物は避けなければならない。

 結局、炊き込みご飯とチャーハン、菜飯を作って、おにぎりにしておくことにした。ラップならぬスライム紙で包んでおけば皿はいらない。

 おかずの方は、向こうから持ってきた肉類で作った。鶏もも肉をひき肉にして鶏そぼろを作っておく。それから時々無性に食べたくなる照り焼きチキン。豚バラの肉味噌や牛肉のしぐれ煮も作った。汁気を飛ばしてスライム紙にまとめておけばいい。


(しまったな、豚汁と生姜焼きって豚と豚で重なっちゃってた。鶏つみれで具沢山のお味噌汁とかにすればよかった……)


 そうやって料理をしながら、心と思考の方向を日常へゆっくりと戻す。

 キャパがない分、切り替えは上手いほうだと思うが、イベントや大きな商談の後はどうしても浮き足だってしまいがちになるので、料理や掃除の日を挟んでから通常の仕事に戻るのがりののルーティンである。


(本当は、一人焼肉した次の日はおうちとお店の掃除をする予定だったんだよね)


 それ以上考えると悲しくなりそうだったので、料理に集中した。





 大体の作り置きができてインベントリにしまい、「クリーン」で匂いや油など料理の痕跡を消す。味噌や醤油は、慣れない人間にはきつい匂いで気づきやすいから、念には念を入れて、窓を開け放った。


(ん、皿は割れて、危ないから粉にして捨てたことにする、材料の減りは……よし、お昼ごはんで使ったってことで大丈夫。あとは何かな……夕飯のメニューか。これはレノアが帰ってきてからでいいや)


 後片付けがひと段落したので、りのはお茶を淹れた。

 さっぱりとした紅茶がいいなと思って、マレット領のヘルネのものにする。渋みが柔らかく甘みがあり、花のような香りがするお茶だ。今日のような日には合っている気がした。お腹がいっぱいなので、茶菓子はいらないだろう。

 リビングに行くのが面倒で、ダイニングテーブルでお茶にする。

 紅茶を口にふくむと、花にも似た香りがいっぱいに広がり、ダージリンのオータムナルのような穏やかな甘みにうっとりとした。

 さやさやと入り込んでくる涼風が心地よい。



「さて、と」


 自分の心をゆっくりと探る。

 動揺は落ち着いたか。過度に悲観していないか。

 これからを考えるのに、十分落ち着いているか。


(うん、大丈夫そうね)


 りのは、もらったマジックバッグから自分のノートを取り出した。

 そこには、聖女エイコの遺した本を見ながら書きだしたトピックが連ねてある。

 じっくりとそれを眺めながら、考えを整理していくのだ。


(ええと、まず英子さんの功績。一番大きいのは「浄化」の魔術を作って、一般的な魔術に落とし込んだことかな)


 はじめは某怪獣の熱線みたいになったと驚いていたが、これを夫となったウルリックに賞賛されて自信をもったらしい。

 彼女が連れてこられたころは衛生状態が悪かったようで、トイレやお風呂の不衛生さを嘆く言葉も多かった。それもあって、「浄化」の魔術を普及させたのだろう。


(ちなみにこれを魔術陣に落とし込んだのは英子さんじゃないみたい。そんな記述まったくなかったものね。かわりに、トイレとお風呂を今のレベルに押し上げたのは英子さんで間違いなさそう)


 自分の家につけるトイレとお風呂にこだわりまくり、それが普及していったようだ。

 りの個人としては、こちらの功績をおおいに讃え感謝している。ありがたい。ほんとに。


(「創造魔術」が通常の魔術に落とし込めることは確認できた。となると、治癒関連の魔法はいけそうね。それから、トイレとお風呂の特許関連、どうなってるのかは調べておこう。思いっきり王家かどっかに搾取されてる気はするけど)


 聖女エイコは、王家や高位貴族との仲は悪かったようだ。というか、王家や高位貴族の態度や知識の搾取にうんざりしていたというのが正しい。国王が代わってから王家との付き合いは大分マシになったようだが、最後まで貴族との付き合いは断っていたようだった。


(このウルリックって旦那さんがしっかり守ってたっぽいもんね。高位貴族だったのかなあ)



 そして次は、気になったことをピックアップする。


(まず、英子さんが建てた家の「城の森の中」っていうのがよくわかんないんだよね。お城に森があるの? 今でも? 英子さんの時とはお城も変わってるのかな? 英子さんの建てた家は残ってるかしら? 英子さんの遺したものは、この本しかないのかな? それに、どんな家に住んでたのかは気になるよね)


 この辺りは歴史との突き合わせになる。そもそも、聖女エイコが連れてこられたのは今から何年くらい前の話なのかというところから調べなければならない。「浄化」の魔術の歴史、あるいは残っていれば特許関連の史料から辿れそうだ。王と王妃、王太子の名前はわかっているから、そっちから調べるほうが早いだろうか。



(それから、これは単純な驚きなんだけど、こっちの人と子どもが作れるんだなって)


 魔力とかよくわからないものを持っているこちらの人と自分たちが同じ人間なのかというところから疑っていたりのである。聖女エイコの子孫がこの世界にいるというのは、驚きだった。そして、自分がこの世界において異物なのだという感覚が、少し薄れたような気がした。


(色は全部旦那さんのほうって書いてあったから、色に関する遺伝子があるなら、こっちの人が強いんだろうねえ。まあそれはともかく、この聖女の子孫って言うのはすごく気になる。どんな扱いをされてるのかな。今まで一回もそんな話聞いたことないけど、今でもいるの? もしいるなら、聖女の魔力とかは受け継がれなかったのかな?)


 聖女とこの世界の人々との差は、魔力の質にあるのではないか。

 そう思っていたりのだが、もし聖女特有の魔力が受け継がれるのであれば、その人には魔獣を抑える力があるのでは?


(聖女エイコの子孫の追跡調査は必要そうね)



 そして、一番りのが気になったこと。


(アトラロから出てはいけない、って、どういうことなんだろうなあ)


 聖女エイコは、ウェルゲア国どころか、王都アトラロにいることを強制されていた。魔獣退治もアトラロ近辺の日帰りできるところのみだったらしいことが伺えた。

 りののようなインドア派ならともかく、旅行が好きだったりアウトドアが好きだったりしたら辛いだろう。

 それはともかく。


(なんで、アトラロから離れてはだめだったんだろう? 王が代わってからも制限されてたってことは、王のワガママ以上の理由があったってことよね。それ、今の私たちに当てはまるかな? ダルクス領に来いとか言ってたから、今ではそんなこともないの? それとも二人いるからいいってこと?)




本日はここまで。お読みいただきありがとうございます。

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