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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第16話 ストレス解消のための一手


 護衛がついて、数日。

 いろいろ聞きだしたところによると、このロゼリア・ティレルという騎士が隊長を務めている近衛騎士団の第三部隊というのは、女性騎士が多く所属していて、王族の中でも女性を中心に護衛するのだそうだ。


(つまり、王妃様とか王女様とかの専属ってことよね!? そんなひとが私に!? ってかあっちの聖女様についたほうがいいのでは!?)


 ちょっとびびったりのである。


 そんな彼女は、アルフィオのお墨付きからもわかってはいたが、本当に優秀だった。

 実際に襲われたことはまだないので、彼女が強いのかどうかはよくわからない。けれど、小さな段差があればすっと傍によって、ぐらついたときのために待機してくれるし、階段があればスマートに手を差し出してくれる。重いものは片手でひょいと持ってくれるし(警護のために必ず片手は開けておく必要があるので、荷物は片手で持つそうだ)、それ以外にも本当に細やかに気配りをしてくれた。


 護衛をしてもらうことになって、最初に二人で話をした時に、あまり護衛されること、お世話をされることに慣れていないんですと伝えると、ついてくる人数を減らすためと言って護衛以外のいろいろな仕事もこなしてくれるようになった。

 本来ならメイドや侍女という側仕えの女性がするようなところまで気を配り、動いてくれるのである。 

 そのおかげで、今までロゼリアとメイド一人を伴って動いていたのだが、ロゼリアひとりですむようになった。

 あまりにも有能で、思わず働きすぎでは? と聞いてみたら、あなたは護衛対象としてはとても楽ですから、この程度のことはたいしたことではありません、侍女としての仕事もほとんどありませんし、私がしているのは連絡役くらいですから、お気になさらず、と言われてしまった。とても爽やかな笑顔だった。カッコいい。カッコいいけど、護衛騎士って、ブラックな仕事なんですね……。

 ちなみに、はじめはティレル卿と呼んでいたのだが、名前で呼んでくれと言われて、今はロゼリア卿と呼んでいる。


 彼女はいつも静かに後ろに控えていて、敵や悪意を持っている人間から、トラブルから守ろうとしてくれている。優しくて、とても助かっているし頼もしくも思っている。


 だけど、問題がないわけではなかった。

 主に、りのの事情で。


 りのは筋金入りの一般市民、庶民も庶民である。もともと、おうち大好きなインドア派なのもあって、人と常に接しなければいけないことが、ストレスで仕方がなかったのだ。

 はじめは状況に慣れるのに必死だったから気にならなかったのだが、時間がたつにつれ、少しずつ気が緩み、ストレスを感じるようになってしまった。


(ううう、商売してるくせに四六時中誰かと一緒っていうのがダメなんだよね私……。インドアなんだよ……人といるよりも家でひとりでのんびりしたい派なんだよ……)


 りのの身近にいるのはロゼリアと、最初につけられたメイドのイリットかメリルのどちらか、あるいは二人とも。つまり多くても三人だけなのだが、慣れないものは慣れない。もっとメイドを増やしたほうがいいのではとアルフィオから言われたこともあるが、三人いるだけでも気が休まらないのにこれ以上増えたら大変だと、丁重に辞退したくらいだ。

 イリットもメリルもいい人たち(というか年齢を考えるけどいい子たち)なのだけれど、やはりメイドさんという存在そのものに慣れないし、ロゼリアは雰囲気がとてもクールで、仕事がらなのだろうがおしゃべりもしないし、表情を崩すこともほとんどない。ひとみしり気味のりのにとってはなかなか近づきがたいのである。

 そのせいもあって、最近、少し疲れが重くなってきていた。


(うん、この状況はあまりよくない……ストレスがたまってる……まだ外に出してはないと思うけど。というか、自分のうち、じゃないけど、暮らしてる部屋でくらいは気を抜きたいよぅ……)


 けれど、命を守ってくれたり世話をしてくれたりする人たちに、ストレスがたまるからちょっと離れて、なんてとてもじゃないが言えない。りのの性格上、それはどうしても無理だった。申し訳なさが先に立つし、そもそも、彼女たちにとってこれは仕事であり、それを妨げる権利は自分にはないと思っている。


 ならばどうするか。


 りのなりにいろいろ考えた。

 一人暮らしをしてたからメイドさんはいなくても大丈夫です、時々お掃除だけしてくれれば、とお願いするのも手かなと思った。しかし、なぜ早く言わなかったと言われたら辛いし、もしこれでイリットとメリルの仕事や態度がよくなかったのではと疑われて、上から二人が不興を買ったりしたら申し訳なさすぎる。監禁メイドのその後を聞くと、絶対にそれはできないと思った。

 なので、この案は却下した。


 次に、せめて時間を区切って仕事をしてもらい、一人きりの時間を確保してみようと思った。うまくいけば、それでストレスが大分減るのではないだろうかと思ったのである。

 そこで、夕食が済んだ後、今まではメイドのどちらかが世話のために待機してくれていたのだが、それをやめて、二人とも早く仕事をあがってもらうことにした。

 りのは夕食の後にお風呂に入っているのだが、お風呂は今までもずっと一人だったし恥ずかしいので一人で入りたいです、と熱望した。

 メイドたちはお世話をすることこそ生きがいと思っているフシがあって、なかなか頷いてくれなかったが、ドレスアップが必要な時はお風呂の介添えをすること、お風呂の掃除は自分たちに任せることの二つを条件に許してくれた。

 そして、ロゼリアにも早く上がってもらうようにした。りのが眠るまで護衛してもらうのは申し訳なさすぎたのだ。こちらも、夕食後は部屋から絶対に出ないこと、入り口のドアの外側に二人、夜間の護衛騎士を置くことを条件に許してもらった。

 アルフィオの許可もきちんととり、これで、夕食後の完全一人時間を確保した。


 おかげで、りののストレスは大分緩和された。

 ひとりで寝室にこもり、カーテンを完全に閉めれば、ある程度は安心して過ごすことができた。

 インベントリからお菓子を出して食べたり、ビールを飲んだりできるのも良かったのだろう。眠る前までタブレットやスマホで、映画を見たり音楽を聴いたり、小説を読んだりもできた。インドアの楽しみを味わえるようになったのだ。

 生活の快適度が少し上昇した。


 そうしているうちに、夕食後以外の時間も気楽に過ごしたいと思うようになった。人は慣れる生き物で、その欲はとどまることを知らない。

 そして、その時間の気まずさを緩和するために考えたのが。


「ロゼリア卿」

「はい、何でしょう、リノア様」


 その日、りのは準備を整え、思い切ってロゼリアに話しかけていた。

 クールビューティーな顔がまっすぐにりのを見ていて、心臓がばくばくする。


「あの、ロゼリア卿、よろしければ、一緒にお茶をおつきあいいただけませんか?」

「え?」

「お仕事の妨げになりますか? この部屋の中で構わないんですけど……」

「この部屋で、でしょうか?」

「はい。あの、少しですけど、お菓子も用意してもらいましたので、少し休憩を、ぜひ。いつも立ちっぱなしだし、せめて足を少し休めて頂きたいと思いまして」

「……少々お待ちください」


 ロゼリアは少し考えていたが、長い足で優雅に、さっと部屋の入口へ向かった。

 ドアを開けて外にいた人たち、おそらく騎士なのだろうが、彼ら彼女らに何か指示を出してから、静かに戻ってくる。

 そして、りのの前でうっとりするくらいカッコいい騎士の礼をとって。


「ご招待ありがとうございます。喜んでご相伴にあずからせて頂きます」


 あっなんかキラキラのエフェクトが飛んでる気がする……!

 りのはくらくらする頭をこらえながら、なんとかほほえんで。


「ありがとうございます、嬉しいです。どうぞ、おかけになってください」




 ――――もっと仲良くなってみるのは、どうだろう?

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