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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第157話 ミッション継続


 魂が抜けたように連行されていく、ふくらはぎからあごの下までぎっちりとツタにまかれた三人の男どもを見送って、りのはメリルを振り返ってお茶をお願いした。

 そして、ユーゴとゼノンに伺いを立てる。


「お二人ともお疲れ様でしたー! お時間あったらお茶はいかがですか?」

「えっと、時間はあるから、呼ばれてもいいかな?」

「おれも、いいんですか?」


 どこかおずおずとした二人に、どうしたんだろうと思いながら、りのはちらりとメリルに合図を送った。

 それから、あらためて、こっちの本は持って帰ってもいいですかと尋ねる。


「ああ、もちろんだよ。本の保護のためにこの赤い布で包んで、こっちのマジックバッグに入れて持って帰って」

「マジックバッグまでよろしいんですか?」

「うん、このバッグはリノアちゃんにあげる。五冊も抱えて帰るの重いでしょ? 本の保護のためって意味合いもあるし、気にしないで。これ、時間停止じゃなくて時間遅延のマジックバッグだから、食べ物はあまり入れない方がいいかな」 


 りのはありがとうございます、と言って、借りる本五冊を赤い布にくるみ、マジックバッグへ収納した。普段使いのマジックバッグがもらえたのも実はとても嬉しい。やったー!

 残りの本はゼノンが別のマジックバッグにしまっていた。赤い布はどこからかもう一枚出てきていたので、安心した。


「あの、リノアちゃん、」

「はい、なんでしょう? あ、本の中身はまだ読んでないのでほんとにわかりませんよ?」


 ほんだけに!


 心の中でおっさんならぬおばさんジョークをかっ飛ばしながら言うと、ユーゴは深いため息をついた。


「あんなのがいて、本当にごめんね……」


 ほんだけに!


 いやいやかぶせてる場合じゃないぞ。

 りのはなんか深刻そうな顔をしている二人をぽかんと眺めて、ああなるほど、と手を打った。


「もしかして、私がめっちゃ怒ってるとかそういう心配をしてますか?」

「いやだって、聖女史料を管理してる課に外部勢力と繋がってるのが紛れ込んでるだけでも申し訳ないのに、そのうえで職員があれですから、怒っても当然というか、情けなくって」


 ゼノンがしゅんとしている。


「気にしてませんよ。絶対あの手のがいるだろうなって予想してましたから。それに、ああいうのを炙り出すのが目的の一つですし」


 けろんというと、ゼノンがえ、という顔をした。そんな顔をしていても美しい。


「ヒルメスはその外部勢力とつながってる気がします。一番手で一人捕まえられたんですから、大金星です!」

「ああ、たしかに言ってたね、聖女の英知、って」

「英知を求めてる人が言う言葉ですよねえ、あれ」


 メリルが戻って来て、お茶とお菓子を並べてくれた。

 香りに少しスモーキーさが残る紅茶に、最近の新作、オレンジレアチーズケーキ。白いケーキの中にオレンジの果肉がきらきらしている。


「すごい! きれいだー!」


 ユーゴが目を負けずとキラキラさせて、りのは思わず笑ってしまった。この人も含め、上層部三人は、本当に甘いものが好きだ。

 はじめてりののお菓子を目にしたゼノンは、これ食べ物……? とかなりふしぎそう。


「こんなにきれいなのに、食べてしまってもいいんですか?」

「どうぞどうぞ。お菓子ですから甘いものが嫌いじゃなければ。最近、やっと作れたんですよねこれ」

「ひゃっほ?」


 さっそくフォークをケーキに差し入れ、大きく頬張ったユーゴが小首を傾げた。

 くっ、自分より年上のおっさんなのにかわいい……!


「向こうで、ゼラチンっていう、食べ物を固めてつるん、ぷるんってさせる材料があるんですよね。それがないと、このケーキは作るのが難しくて。だから諦めてたんですけど、最近、魔術師団棟の料理長さんから、そういうときこっちではスライム粉を使うんだって教えてもらったんです」


 これまたレノア経由で、食べ物を固める食材はありますかと聞いたら、スライム粉だな! と返ってきた。食べ物になるスライムは、不浄なものを与えず、清潔で安全な食べ物だけを与えて養殖するらしい。そしてプルプルしているところだけをとり、乾燥させてできるのがこのスライム粉。

 聞くと、使い方はほぼゼラチンだったので、分量を教えてもらって、今絶賛楽しみ中である。


(ゼリーはもちろん、ババロアにムース、パンナコッタも作りたいし、どこかで小豆が見つかれば羊羹的なのもできるし。テリーヌとかジュレとかゼリーサラダはまあ機会があればだけど、片栗粉の代わりに使えそうなのがありがたいよね! とろみスープとか!)


 ほくほくしながらりのもオレンジレアチーズケーキを食べ、紅茶を飲んだ。

 甘さと酸味がはじけるようなオレンジとコクのあるチーズの上から、ふわりとスモーキーな紅茶がかぶさって、何とも大人のティータイムというおいしさだった。

 ゼノンは一口一口味わうように食べていて、ユーゴは自分の分は食べ終わり、ゼノンのケーキを横から狙っている。

 もう一切れ上げますから、部下のを横どりしちゃだめですよ、といいながら、追加のケーキをのせてあげた。


「それにしても、こんなに早く釣れるとは思ってませんでした。リノア様、ご協力ありがとうございました。あとはこっちでぎっちり締め上げますんで!」


 うん?

 その言い方に、りのは首をかしげた。


「ゼノン様、まだ終わってませんよ?」

「え? ですが、さっき」


ああ、なるほど、さっきの三人で終わったと思ったのか。

若いなあ、とりのは思った。ティーカップをテーブルに置き、すうと背を伸ばす。


「王族の周囲に、あれだけの潜入者がいたんですよ? 資料管理課に何人在籍しているか知りませんが、一人とは限らないと思います」


 むしろ私は全員が回し者でもおかしくないと思っています、と続ける。


「これは想像ですが、あの三人の世間知らずっぷりを見るに、最低限の身元調査と本人のやる気、あとは能力の検査くらいで文官を入れていたのではないでしょうか。資料研究をするという特殊な課ですけどそこさえ越えればあとはわりと入りたい放題ですよね。それに、あの手の研究者たちは自分の研究内容がすべてで、同僚には大して興味をはらわないでしょう。だからこそ潜伏先には最適です」


 入るのにチェックが甘くて、目立たないし忙しくないから時間がたっぷりあって、同僚も深くはからんでこない。

 スパイには羨望の職場では?


「……これからまだ出てくる、ということですね?」

「可能性は高いと思うよ、僕もね」


 ユーゴがため息交じりに言葉を続けた。


「僕の前任者、あの課の雇用にほとんど関わってないんだ。リノアちゃんが言ったみたいに、最低限の基準だけでいれて、しかもその辺りはミラロード配下の子爵家の人間に丸投げしていたようでね。僕に代わってから多少はやめたりしたけど、基本的には入れ替わってないんだよ」


 何せ仕事のない課だから、ミスもないし、辞めさせる理由もなくてねえ。


「先代ですかあ……」


 うんざりしたようなゼノンの声。

 魔術師団も先代はひどかったんだろうなあと思いつつ、りのはその話題を避けた。藪をつついて蛇が出てきたら大変だ。


「ですから、がんがんこれからも揺さぶっていきましょう! あの三人をとっかかりにぎっちり背後を洗ってもらうのは当然として、まず、あの三人の無礼で私がものすごく怒っているという噂を流すのはどうでしょうか。翻訳を強制された、監禁されそうになった、陛下はいるだけでいいと言ったのに嘘つきだ、陛下に抗議すると言っている……その辺りまで膨らませましょう。いざという時に陛下の名前で捕縛できます」

「う、うん……」

「こっそり内通している相手に連絡を取る者や私の方に懇願に来る者など、動いた者から調査していけば早いと思います」


 なんかちょっとひいているユーゴを横に、りのはすらすらと計画を相談した。


「それから、時機を見計らって、翻訳してくれないかもしれない、という話も噂として流しましょう」

「ああ、それはきっと効果的だね。後ろにいる者たちがほしいのは翻訳した本の情報だろうから」

「先に動くのは小物、あとから動くのが本命ってことになりそうですねえ……」


 ゼノンがにやりと笑う。


「リノア様にお出まし願ってるんだ、必ず全員、牢にぶち込んでみせますよ」

「やりすぎ注意だよゼノン」

「期待しておりますねー」


 ユーゴはため息をつきながら、りのはにっこり笑いながら、絶世の美人を応援した。


今日はここまで。お読みいただきありがとうございました。

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