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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第154話 ミッション開始


 さて、とりのは内心で気合を入れた。

 今、王宮から馬車にのって、王城の中央棟へ向かっている。

 中央棟は、王城の正門、つまり正面入り口の真ん前に立っている執務棟のことだ。

 王城の中心ともいえる建物で、文官でも上のクラスの者たちの執務室や、会議室、資料室などが連なっている。この棟の一角に、りのたちが召喚された謁見の間もあったりする。


 今日は、その中央棟の一室で、いよいよ聖女に関する資料を見せてもらうのだ。

 さすがにいつもの気楽なワンピースに近いドレスというわけにはいかず、ある程度フォーマルな淡いアイボリーのデイドレスを着ている。

 シンプルな形で作業もしやすいが、袖口や襟元、それとスカート一面に金糸と淡い紫の糸で唐草のような刺繍がほどこしてあって、白っぽいドレスに刺繍がきらきらと光る。形がシンプルなだけに、その光がアクセントになっていて結構目立つのだ。

 聖女っぽく見えるもの、というりのの投げやりなリクエストにイリットが差し出してくれたものである。


 馬車はごとごとと揺れながら、美しい庭園を横目に進んでいく。


(それにしても、私の部屋に来たいなんて気持ち悪い連中だわー、一気に好感度ダウン)


 今日の会合をどこでするかの話になった時、向こうから、出向いていただくのは申し訳ないので、よろしければ聖女さまの御座所に伺いたいという申し出があった。


 ござしょってなに、ござしょって。キモ!


 いつもの笑みすら消し去ったりのを見て、それを伝えに来ていたゼノンも真顔だった。


「キモいですよね」

「正直とっても気持ち悪いです。絶対に嫌ですお断りです」

「護衛の観点から見ても絶対に許可できません」


 ロゼリアはいつも通りの冷静な顔だが、目が。目が凍りついている。


「ゼノンさん、そいつらに、『皆さんが女性である、あるいは男性のみが恋愛対象ならば考えます』って言っといてください。で、誰がそれを言いだしたかの調査もお願いします」

「わかりました」


 これを肯定すると、女性との結婚はできなくなるだろう。さすがにそこまで人生捨てて聖女に尽くす人たちではないだろうし、そこまで狂信的なら近づくのも危ない。女性、あるいは男性が恋愛対象だったとしても、「考えます」と言っただけで、許可するとは言ってないし。

 結果、大変お手数をお掛けして申し訳ございません中央棟の方へお出ましをお願い申し上げますうんちゃらかんちゃらと返事が来た。その返事の仰々しさにもドン引きしたりのである。




 到着した中央棟はあいかわらず広くてどこか冷ややかだ。

 初めてこの国に連れてこられ、引っ立てられるように監禁された日のことを思いだすので、実はここがりのは好きではない。

 胸の内に広がる苦いものを見ないようにしながら、案内に来てくれたゼノンに導かれ、豪華な一室にたどり着いた。


「やあ、リノアちゃん、今日は来てくれてありがとう」


 入り口のドアのところで待ってくれていたらしいユーゴが朗らかに声をかけてきた。

 こちらこそ、と返しながら、手を差しのべるユーゴにエスコートを委ねて、応接室に案内される。

 緑の壁紙に濃い茶色の家具、カーテンは白。ベーシックで、りのからするとややクラシックなイメージの応接室だった。部屋全体に盗聴などを防ぐための魔術陣が仕込んである部屋だという。内密の話をする際に使用が許可されるのだそうだ。


(魔術陣、ねえ)


 応接室の窓に近いスペースに、濃い緑の長ソファがひとつと一人がけのソファが三つ、間に大きめのセンターテーブルが置いてあり、その上に赤い布に包まれたものがのっている。


 りのは目を細めた。あれだ。結構量がありそう。


 ソファコーナーの手前では、三人の男性がこちらを緊張した面持ちで見ていた。

 マナーの講義で習ったことを思いだしつつ、ユーゴのエスコートで楚々と近づくと、三人が揃って最上位への礼を執った。最上位どころか、深々と、いっそそれ平伏したほうが楽では? と思うような姿勢の礼だった。見たことのない形だが、礼の仕方まで作ったのだろうか。



「異世界より舞い降りられた麗しき光の聖なる方に、卑小なるものどもからご挨拶申し上げる栄誉を賜り光栄にございます」



 うっわぁ……。

 ドン引きどころじゃなかった。ぶっちゃけ怖い。

 横でユーゴが片手を額に当てて首を振っている。


「お初にお目にかかり身が震える思いです。私はローグ男爵家第二子、キーツと申します。資料管理課に在籍しております。どうぞキーツとお呼びください」

「お目通りを賜り魂の底から光栄です。私はアンゲリー騎士爵家長男のヒルメスと申します。同じく資料管理課に十年以上籍を置いております。どうぞヒルメスとお呼びくださいませ」

「お、お会いできてとても光栄、でしゅ……! わ、私はハエン準男爵家第三子、ワイツと、申しましゅ! まだ資料管理課に入ってから日は浅い、でしゅが、頑張りましゅ、す……! あ、あの、ワイツと、お呼びください……!」


 濃いな……。

 キーツ・ローグもヒルメス・アンゲリーも、それぞれ栗色の髪に緑の目、金色っぽい黄色の髪に青っぽい茶色の目と色はきれいだが、顔立ちはふつう。とびきりきれいとか整っているとかはなく、りのにはなじみやすい顔立ちだ。

 ワイツ・ハエンはこげ茶の髪に黄緑色の目で、可愛い系の顔だが、こちらもふつうによくいる顔立ち。

 だが、三人とも雰囲気が異様だ。こう、熱量を感じるというか。ワイツなんて興奮のあまりなのか、息も絶え絶えだ。

 内心うわあ、と思いながら、その気持ちをきれいに押し隠す。そして柔らかく挨拶をした。


「面を上げてください。はじめまして、私は異世界より連れてこられました、リノア・ミハイルです。どうぞお楽に」


 魔術師団長であるユーゴ、今回の責任者らしいゼノン、そして文官らしき彼ら三人。これが、今回の面談のメンバー。

 ユーゴからは、怪しいのは文官の方なので、ひとまず文官から面通しをしていく予定だと言われている。

 その三人からやたらとキラキラした目で見られて、居心地が悪い。


 ひとまず全員でソファに落ち着いた。

 長ソファの中央にりの、両サイドをユーゴとゼノンが座って守りを固め、文官たちは真向かいの一人がけのソファにそれぞれ腰かけている。りのの後ろにはロゼリアがいて、侍女の代わりにメリルが部屋の隅に控えてくれている。ユーゴの侍従や護衛騎士たちもそちらに控えていた。

 今回はテーブルに貴重な書籍があるので、お茶などは出ないのだが、他の用事ができた時のためにいてくれている。


「本日はお時間いただき光栄でございます」


 三人の中で主導権をもっているのは、どうやらキーツであるらしい。


「お話させていただきたいことも多くございますが、ひとまず聖女様のご希望に沿うことが我らの喜びでございます。どうぞご確認くださいませ、聖女リノア様」


 センターテーブルには、仰々しく白い絹が敷かれ、さらにその上に金の縁取りをされた赤い布にくるまれたものが置いてあった。

 さっきちらりと確認したが、近くで見ると、赤い布には何か魔術の気配、つまり魔力が感じられる。

 これは何の魔術だろうか。スティラからは、時間を止めたり状態の劣化を防いだりする魔術はないのだと聞いている。だから、それぞれの材料や特質に合わせて、固くしたり水やらを補ったり、性質を強めたりする必要があるのだそうだ。だが、布でひとまとめに魔術をかけて大丈夫なのだろうか。うーむ。

 ひとまずこれは後でユーゴかゼノンに聞こうと思いながら、りのは口を開いた。


「失礼します」


 すっと、横からロゼリアが白手袋を差し出してくれた。頼んで用意してもらったものだ。付着性の毒を防ぐためと、そもそも本を傷めないようにするために。手の脂も本にはよくないことがあるとスティラに聞いたので。


 白手袋をはめて、ゆっくりとりのは赤い布をほどいた。

 中からあらわれたのは、やはり、本、あるいは本の形をした紙の束だ。十数冊はあるだろうか。

 どれも、古びたり黄ばんでいたりと、時を感じさせるものだった。


(これが、こっちに連れてこられたひとたちの残したもの。私の先輩たちの、生きた記憶)


 胸がつまるような気がして、ひそかに、深く息をすった。

 一番上にあった一冊を、丁寧に取り上げた。


(……これはこっちの紙かな。「鑑定」すればわかるけど、それは後でバレないようにやろう。図書館に置いてあるのと同じ紙質だから多分そうだよね。形も似てるなあ。中身は……えっナニコレ!?)



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