第151話 元気が一番
おじいちゃんおばあちゃんくらいの年齢の護衛騎士なら、カノンも安心するのではないか。
そう言ったのはたしかにりのだけど、まさかロゼリアの実の祖父が復帰するとは思いもしなかった。
えっ私、何か迷惑かけてない!? とおろおろするりのに、ロゼリアは大丈夫です、と言って、詳しい話をしてくれた。
「私の祖父は、アドレアン・ティレルと言います。家督を継ぐ前は第一騎士団の団長をしていたそうですが、祖父の父が病を得たため、早くにティレル辺境伯となり、領地へ戻りました。辺境伯の騎士ですので、体力や筋力は衰えましたが今なお鍛錬を積んでおり、近衛騎士としての基準は軽々と超えています」
老いてなお矍鑠とした騎士なのだという。
「今回カノン様だけではなくティアーヌ王女殿下やテオドール第二王子殿下の件がありましたので、かなりの数の騎士が謹慎したり罷免されたりで、結構な騒ぎになっています。それを聞いて、引退した騎士たちが戻ってきているのです」
「おおー」
「私の祖父は、先々代の王、フィンレー陛下のご祖父に当たる方が王位に就かれていた時に任命された騎士団長です。今回の件も含め、先代様の時に任命された騎士団長たちが甘いからだ、現役世代を鍛えなおす、と息巻いて陛下に助力を申し出、それを陛下が受けられた、ということになっています」
なるほど?
「実際は、ロゼから話を聞いた陛下たちがそういう方向で動いたのね?」
「はい。正確に言うと、アラチェリア王妃殿下を通して、ということになりますが」
「ロゼからチェル様に……? あ、そうか、マカリア隊長を通してということね?」
「そうです。引退した騎士の筆頭はわが祖父でしたので、その方がいいだろうと思いました。今、ティレルとティトルアンの者が王家の皆様のお側に多いので、私やマカリア隊長から直に提案すると、政治的なバランスが崩れるだろうと思われました。それで念のため、アラチェリア王妃殿下から陛下へ草上して頂いたかたちです」
おお、そういう配慮も必要だったのか、とりのは驚いた。
「復帰したのはロゼのおじい様だけではないの?」
「はい。テオドール第二王子殿下には、前近衛騎士団長のアシル・ラヴァリエ卿がつくことになりました。代々王家に忠実な家で、ご高齢ですが近衛の基準は軽く超えておられます。寡黙な方ですがとても誠実な方ですので、テオドール殿下との相性は良いのではないかと思います。他にも、各隊の隊長を務めていた騎士たちが戻ってまいります」
「ふふ、現役世代には、ちょっと困った感じね。こわーい先輩たちが帰ってくるんだもの」
「そうですねえ」
ちょっと苦笑して、ロゼリアは、雰囲気が緩まなくなるので良いのではと思います、と真面目に答えた。
「アドレアン・ティレル卿は、カノンちゃんとうまくやれてるのかしら?」
「どうでしょう……祖父はタウンハウスから通っておりますが、私はこちらの寮で暮らしており、祖父が復帰してからはあまり会っていないのです。でも、おそらく大丈夫ではないかと」
そうなの? とりのが首をかしげると、ロゼリアは遠い目をした。
「祖父は、そのう、とても、おおらかな人で……あまり、細かいことを気にしませんし……」
それに、と、さらに遠い目で。
「一度、カノン様の様子を聞いたときに、子どもはあれくらいおてんばな方がよいものだ、と笑っていましたので……」
「そ、そっかぁ、おてんばかぁ……」
カノンちゃん何したの!? おじいちゃん何したの!?
おもわず心の中で突っ込んだ。
(おてんばを発揮できてるなら、いいのかな……? えっ、なんかすっごく不安になってきた……)
「――という話を聞いたので、心配になってかけてみたんだけど」
その日の夜、カノンに電話をかけてそう言うと、カノンは面白そうにあははは、と笑った。
『大丈夫ですよ、仲良くしてます。まあアディおじいちゃん、年寄りをこき使うとはまったく、ってぶつくさ言ってましたけど!』
ああこれは大丈夫そうだと、その声を聴いてほっとした。
「アディおじいちゃんって呼んでるの?」
『そうなんです。私と同じくらいの年齢のお孫さんがいるんですって。だからじいちゃんって呼んでもいいぞって言われました』
「気さくなおじいちゃんだねえ」
『そうですね。明るいし、細かいこと言わないし、私がしたいことをできるように、一緒に考えてくれるんです』
「お、何かしたいことができたの?」
そういえば最近こんな話はあんまりしてなかったなあと思った。
ギフトの「鑑定」をふくめ、ステータスを隠すか隠さないか考えると言っていたから、その結果待ちで、話すことが催促することに繋がったらいけないと思っていたのだ。
『大したことじゃないんですけど、――リンさん、私、小学生のころ、少林寺拳法を習ってたんです』
「ふぁ!?」
『びっくりしました?』
「したよ、めっちゃびっくりしたー! だってカノンちゃんすっごく楚々として上品だし、拳法とか、えっ拳法? 武術ってことよね?」
『はい。家のすぐ近くに道場があって、お父さんとお母さんが、これからは護身術だけでも身につけたほうがいいからって。楽しかったし、小学一年から六年まで通ってました。中学に入って、部活が忙しくなって辞めちゃったんですけど』
「ふぁー、すごいねえ、そうだったんだあ」
『もともと、体を動かすのは好きなんです。それで、こっちに来てからしばらく体動かしてないなって思ったら、なんだか急にやりたくなって』
それで、護衛騎士たちの目を盗んでは、ひっそりと自分でできる練習をしていたらしい。
『でも、アディおじいちゃんに護衛が変わってすぐバレちゃって。で、文句言われるかなって思ったら、逆に儂にも教えてくれ! って言われて』
「わあ……」
『おじいちゃんが練習に必要な服とか場所とか準備してくれて、そのお礼で簡単な型とか練習方法とか教えたんですけど、すごいんですよ、あっという間に私、教えることがなくなっちゃって! 逆に姿勢とか呼吸とか教わっちゃって! 悔しくて!』
「ひえええ」
騎士すげー……。
『でも、少林寺拳法って二人で組んでする練習が多いので、さっさとそっちも教えて、今は二人で組手してます!』
どうしよう、カノンちゃんが脳筋になっちゃう……。
でも元気ならいいか……だって元気が一番だから……。
「そっかあ……カノンちゃんが元気そうでよかったあ……」
『体を動かしてたら、何かすっきりして、いろいろ考えられるようになりました。あの、リンさん、護衛騎士のこと、気にかけてくれてありがとうございます』
あれ?
自分がそういう騎士を推したとは言っていないはずだが。
『あの、最近、マーガレットさんが、侍女さんたちの監督で来てくれてるんです』
「マーガレットさん……? ああ、アラチェリア王妃様の侍女の、マーガレット・フリンクさん!? こげ茶色の髪に、茜色の目をした優しいおばちゃんの!?」
『ですです』
案の定というか何というか、カノンの周りにいた侍女は大変質が悪く、まともに仕事をしていなかったらしい。
お茶を淹れてもくれないし、何かをお願いすると嫌な顔をしたり、掃除も手抜きだったり。
カノンも嫌になって、没交渉になっていたそうだ。
『少し前に、王妃殿下の命で参りました、って来てくれて、すぐに私の周りにいた侍女を全員正座させてお説教したんですよ!』
「正座!?」
『こっちにも正座ってあるんですね、侍女たちは初めてさせられたみたいで泣いてました』
いやいや、こっちで正座なんて文化は、少なくともウェルゲアにはない。あれから確認したから間違いない。
なのに正座って、もしかして、あの時のファルカ・エスタリを見て、正座がお仕置きになるって知ってしまった……ってこと!?
アッ確かにいたわあの時、マーガレットさん、チェル様と一緒にいた!!
『そのお説教もすごく怖くて。殴ったり叩いたりはしてないけど、言葉がすごく冷たくて痛くて……ああ言葉で殴るってこういうことなんだなって……』
「わぁ……あの穏やか優しいマーガレットさんに冷たくされたら私も泣いちゃう……」
『ですよね……』
それにしても、腹心のマーガレットさんをカノンちゃんのところに派遣してくれるとは。
さすがだなチェル様、状況を見る目が広くて鋭い。カノンちゃんに安心してもらうにはぴったりな人だ。
『それで、侍女さんたちも態度の悪すぎた人は替わったし、他の人もちゃんとするようになって。マーガレットさんにありがとうございます、って言ったら、リノア様がカノン様の護衛騎士の質の悪さに怒って、侍女の方も心配だって仰ったそうです、それを王妃様にお伝えになって、私がここに来ることになったんですよって、こっそり教えてくれました』
「そうだったのねー。いやだって、ひどかったよねあの騎士モドキたち! よわっちいくせに偉そうでさ!」
『ですよね! ほんとムカついてました!』
「こいつら絶対実力じゃないわ、コネだわって思ったら、腹立っちゃって!」
『あはは、コネ! 絶対そう!!』
格段に明るくなったカノンの声。環境が整い、安心できているのだろうとりのもほっとする。
二人で延々と金ぴかひょろ男をはじめとする男たちをこき下ろしながら、りのは、資料管理課にカノンの助力を求める件、ユーゴに確認をとってから、あらためてカノンにお願いしてみようと思った。
本日はここまで。お読みいただきありがとうございました。
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