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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第150話 新しいお仕事の前の下準備


 これからの簡単なスケジュールの打ち合わせをしてゼノンが帰った後、休憩室に残ったりのはロゼリアにお願いしてお茶をいれてもらった。

 休憩がてら、少し状況を整理しようと思ったからだ。


「ロゼ、お菓子も持ってきてくれたの? ありがとう」

「レノアがバスケットに入れてくれてたんですよ。おいしそうですね」

「ねー!」


 今日のおやつはバターキャラメルだ。上質なバターをカーティスが持ってきてくれたので、それを使って作ったものだ。包んだスライム紙にちょっとくっついている。うーん、次は蜜ろうラップがいるだろうか。

 スライム紙からはがしたキャラメルをぽいと口に入れると、バターの香りと濃厚な甘さが脳天を突き抜けた。


「くうぅぅぅ、甘くておいしい~!」

「甘いですね……幸せです……」


 キャラメルが口に入っている間は話がしづらいので、その間にりのは頭をまわした。


(「資料管理課」かぁ……)


 内通者がいるということだが、ユーゴたちが探しても尻尾をつかませないということは、よっぽど擬態がうまいのだろう。

 もしくは、本当に聖女の研究をしたい人が騙されてるのか納得してるのかはともかく内通しているか。


(前者はたぶん、私を目の前にすれば、馬鹿にしたり敵意を見せたりすると思うんだよね。その辺は話したりしながら判断できるかな。問題は後者だよなあ。わかりにくそうだ……)


 もぐ、とキャラメルをかみしめると糖分が脳に駆け上がっていくような気がする。


(あー、でもその場合は私に執着というか、ゼノン隊長状態になるのかな? それならちょっと仲良くなってから聞きだすなり脅すなりすればいいのでは。こっちにアドバンテージがあるから、時間をかければイケる気がする。何なら逆スパイまでいければ最高。その方向でユーゴ様たちと共同で動くのがいいな。資料管理課に絶対味方って人が一人でもいればいいんだけどなあ……後で聞いてみよう)


 やることを、煽り倒すから脅すにランクアップさせて、りのは次のことを考えた。


(翻訳は、どっちかというと長期の仕事でほしいかな。仕事としては第三騎士団の方もあるけど、本当は治癒魔術師さんが増えて、きちんと現地で治療できるほうが第三騎士団にとってはいいことなわけだから。そう考えると、いつまでもある仕事とは思わない方がいいよね)


 ああそういえば、治癒魔術と医療知識の関係や、ロアーダ家の研究についても調べたいと思ってたっけ。

 また後回しかなあと遠い目になってしまう。ちょっとタスクをためすぎだろうか。

 りのは、今抱えていることをあらためて数えてみた。


 一、イーストの公開に関すること。これはアラチェリア王妃との連携で。

 二、ストレッチ関連の頼まれごと。まだレッスン的なものは続いていて、今は普通にストレッチ仲間的な感じになっている。

 三、第三騎士団に常駐する治癒魔術師としての仕事。そこから派生するいろいろ。

 四、創造魔術について詳しく調べること、これは魔術師団と共同で。

 五、手をつけ始めているポタ芋関連の調査。


 それに加えて、聖女に関する資料の翻訳と、資料管理課へのレクチャーが入った。

 さらに、りの自身の文学、歴史、魔術、礼儀作法の講義に、お披露目の準備。

 ここに、お披露目が終われば、おそらく社交などの聖女としての仕事が入ってくる。


(うん、これはちょっと抱え込みすぎてるわ。こっちでまで社畜する気はないし)


 そんなにキャパが大きくないことは自分が一番よく知っている。このままでは、なんとかこなせはしても、ひとつひとつのクオリティが大きく下がりそうだし抜けも多くなりそうだ。現時点でも抜けてたことがあったし……。

 もう少し削るか、分けるか、いっそ手を引くか……あ。



(――分ける、か。カノンちゃんと共同で資料管理課の仕事をするのは、アリかもしれない)



 自分だけが関わるよりも、二人で関わる方が外聞的にはいいし、自分だけが突出して目立つのはよくないだろう。

 聖女は二人いるということを明確にする方が、おそらく二人とも安全だ。先々を考えれば、名誉も報酬も、二人で分け合うほうがいい。

 彼女としても、明確なお仕事が入るのはいいことかもしれない。

 最近だいぶ元気になってきているし、気晴らしになるかもしれないし。


 デメリットはなんだろうか。

 まず内通者がいることによる危険性。


(ダルクス側にカノンちゃんが引っ張られるとか? いやあないと思うなあ……)


 カノンの心を傷つけているのは、主に国王派じゃないところの人々だ。

 その中にローラン第一王子がいるのが問題だけど。


(そうなんだよねえ、カノンちゃんに対してもだけど、あの第一王子、いいかげん敵にまわるなり謝りに来るなり、私に対する立場をみせてくれないかなあ)


 はふう、とため息をついた。早々会える立場の人間ではないのだから、考えても仕方ないことだ、今は忘れよう。

 口の中からキャラメルが消えている。紅茶を一口飲んで甘さを押し流し、あらためて次のキャラメルを口に放りこんだ。


(カノンちゃんが暗殺される可能性は……なさそうだなあ。まだ利用される可能性の方が高い。でも今回はそれを逆手にとっての作戦だし、ていうかカノンちゃんと私が秘密裏に連絡とってることは誰も気づいてないわけだから、逆に心強い味方になるのでは? 誰かが私たちを対立させようとしても、陰で話し合いができるから対処はできると思うし)


 そう思いついて、思い切り心が揺れた。

 だって頼もしすぎる。

 ただ、それでカノンの心が疲弊するのは避けたい。

 本人に確認をとることは絶対だけど、その前に。


(カノンちゃんの環境って、今どうなってるんだろう?)


 最近のメールや電話では、主に向こうの世界でのことを話したり、今日食べたものとかおいしかったものとかの話をしたりしている。声が明るいので悪化してはいないだろうが、その辺を突っついて蛇を出すのも怖くて、ちょっと避けていた。ほとんどカノンの聞き役に回っていたのもある。

 うーん。


「……ねぇロゼ」


 お互いにキャラメルを食べ終わって、ティーカップに手を伸ばしたところで話しかけた。

 念のため「防音」の魔術をかける。


「はい、なんでしょうリン」

「んーと、お仕事に障るようだったらいいんだけど、カノンちゃんの護衛の騎士様たち、どうなったのかなって、ちょっと気になって」

「ああ、カノン様の、……ふっ、金ぴかひょろ騎士たちですね」


 どうやらロゼリアはりのが適当につけたあだ名が気に入っているらしい。


「もちろん解任されています。といいますか、あの時カノン様についていた騎士たちは全員見習いからやり直しになりました」

「あらー」


 うっかり声が弾んだのは許してほしい。実力が及んでないくせにコネ入社、じゃなくてコネ入団なんかするからだ! ざまーみろー!


「全員、体力、魔力共に近衛騎士どころか通常の騎士の域にも達しておらず、正規の騎士としての資格を一時停止されました。どうやら騎士認定を受けてから研鑽していなかったようで、衰えるばかりだったようです」

「まあー」

「半年の見習い期間中に、近衛騎士としての標準に達しなければそのまま解雇になるかと」

「あらあらー」


 わざとらしく驚いて見せると、ロゼリアも小さく目だけで笑った。


「カノン様については、あくまで臨時扱いにはなりますが、護衛として祖父が騎士に復帰しました」

「え?」


 祖父? おじいちゃん?


「私の祖父、前ティレル辺境伯です」

「えっ、ロゼのおじいちゃんが!?」

「はい」


 ロゼリアは、うれしいような、苦笑のような笑みをはっきりとこぼした。

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