第141話 ハンバーガープレート
「次は、お塩。それからナツメグ代わりにぺリアノと、黒胡椒。胡椒はケチらない」
手早く香辛料類の準備をし、りのは粗いひき肉のボウルにまず塩をぶち込んだ。手早く、やりすぎないように注意しながらすばやく練る! 粘り気が出てきたら、今度は胡椒とパウダーにしたぺリアノを入れてさっと混ぜた。手が冷たい。
「よっし、肉だねオッケー。成型して、これはちょっと休ませておこう」
少し大きめの四角に平べったく成型する。今日は丸いバンズがなく、食パンに挟む予定なので、パティは四角にした。
成型が終わったらラップ代わりのスライム紙をかけて冷蔵庫へ。
「戻りました、リノアさま!」
「ああ、ありがとうレノア。あ、ついでにラバミュとにんじんも洗ってくれる?」
「はーい! ラバミュとにんじんはサラダですか?」
「うん、コールスローにしようかな。マヨネーズはあったっけ?」
「少しだけ。前回のハンバーガーの時に作ったものの残りだと思います」
「じゃあそっちはハンバーガーに使って。コールスローはあっさり味にしよう」
「じゃあラバミュとにんじんは細切りですね?」
「うん、それでお願い」
ラバミュは、向こうでいうところのキャベツである。それも、越冬キャベツのようなしゃきしゃきした食感と甘みのあるキャベツで、コールスローや揚げ物に添える千切り、ピクルスなどにりのはよく使っていた。キャベツという名の野菜もあって、そっちは甘くて柔らかくて、おいしい春キャベツそのものだ。
こちらの世界は野菜もお肉も、味が濃くて本当においしい。
りのはストックしてある鶏ハム、ならぬコカトリスハムを細かく切って適当な皿に入れた。
次に食パンを取り出し、ぶ厚めにカットした。イーストの試作も含め、パンは時間があるときにたくさん作りこちらもしっかりストックしてある。マジックバッグさまさまである。
「え、あの、リ、リノア様」
「なあに、テオドール殿下」
手と顔を洗いに行っていたテオドールが、キッチンに戻ってきた。
親しく名前を呼ぶのにも、呼ばれるのにも慣れていないのだろう。呼んだ名前に気軽に声が返ってくることに戸惑う風をみせつつ、テオドールはパンを指さした。
「それ、パンですか? ふわふわしてるのに?」
「指さしちゃダメよ。そう、これパンだよ。私が作ったの。味見してみる?」
端っこをむしって、半分こにし、半分を自分の口へ、残りの半分をテオドールに差し出す。むぐむぐしながら柔らかいパンを味わい、
「『浄化』をメリルに使ってもらってねー。レノアー、レノアもはい」
もう一度ちぎった分をレノアの口へ押し込んだ。
楽しそうにパンをもぐもぐするレノアをみて、テオドールはメリルの「浄化」を断って、そのままパンをおそるおそる口に入れる。
(おやおや)
見ていると、その顔がぱあっと明るくなった。ヘーゼルの目がきらきらと金色に光る。
「あまあい……!」
わあかわいい!
「リノアさま、細切りできましたー」
「ありがとう。こっちのボールへお願い」
「はい! 野菜終わりました、次は何をしましょうか?」
「じゃあ冷蔵庫からニムロムのチーズを出して切ってくれる? ちょっと薄めで」
「はーい!」
「イリット、テーブルの準備をお願い」
「承知しました!」
「リノア様、お飲み物はいかがいたしましょうか」
メリルの声に、うーん、とりのは少し考えた。
「テオドール殿下」
「な、なに!?」
いきなり話しかけられて驚いたのだろうか。ちょっとびくついていてかわいい。
「さっきのハーブ水、味どうでした? 苦手とかはなかった?」
「え、おいしかったけど」
じっと顔を見る。ほんとかな、とちょっと思った。
周りの空気を読んで、自分の感情を押し殺してないかな、と。
(うん、大丈夫そうかな)
「すうっとする味は苦手じゃないのね?」
「うん、けっこう好き」
「じゃあよかった。メリル、レモン水と、あと生姜シロップも出しておいて」
「かしこまりました」
りのはラバミュとにんじんの細切りに塩をしてよく揉み込んだ。水分を出すために少し放置しておく。
その間に、小さなボウルにワインビネガーとネシスオイル、塩胡椒で適当にドレッシングを作る。
(うーん、子どもにはちょっと味が複雑すぎるかな? レモンにすればよかったか……まあしかたない、苦手そうだったら置いといてもらおう)
絞って水気をしっかり切った野菜にハムを混ぜ、ドレッシングであえた。コールスローサラダの完成だ。
「レノア、手が空いたらサラダの盛り付けお願いしまーす! 今日は大きな木のお皿に、ハンバーガーと合わせて盛り付けようか。テオドール殿下には物珍しいだろうし」
「わかりましたー!」
「じゃあ私はお肉焼くねー」
大きな鉄のフライパンにネシスオイルを薄く引いて熱する。鉄のフライパンは重いので、最近教えてもらった「身体強化」をかけた。
「料理に『身体強化』つかうひとって、初めて見たよ」
「だって重いんだもの。でも、まだ腕だけとか足だけとか、難しくてできないんだよね」
「わかります。『身体強化』難しい。誰に教わってるの、……教わってるんですか」
安定しない口調に、もう気を使わないでいいよ、気軽に話してとりのは笑い、
「基本はユーゴ様に習って、その後の実践は第三騎士団の騎士たちとか、アダンさんとか。あとライリー団長もコツを教えてくれたかな」
「いいなあ、ライリー団長、『身体強化』すっごくうまいんだって聞いたよ! わたしも教わりたい!」
「頼んでみたら? 忙しい人だし朴訥としてるけど、教え方は上手いよ。すっごくわかりやすいの。ロゼもライリー団長から習ったって聞いたから、まずロゼに頼んでもいいんじゃない?」
「たのむ……」
目線を下げるテオドールの表情が曇っているように見えて、りのはうん? と思った。
思ったが、今は肉を焼く時なので、ひとまず置いておく。
ぎりぎりまで冷やしておいた肉だねを一気にフライパンに並べると、じゅわああああ、いい音と暴力的ないい匂いがキッチンいっぱいに広がった。
「うわあ……」
うっとりとした顔で匂いを堪能しているテオドールにこっそり笑い、りのはレノアにパンを軽く焼いて、とお願いした。
レノアがオーブンにパンを突っ込むのを横目に確認し、りのもパティの焼き加減に集中する。
両面に焼き色を付けたら、今度はごく弱火にして蓋をし、じっくりと中に火を入れる。とはいっても、薄めのパティなので、焼きすぎないように気をつけなければならない。
「むむむ……ここだぁ!」
蓋を開けて、パティに細い串をさす。透明な肉汁が出てきたので、これで焼き上がりだ。
「パン、焼けました!」
タイミングよくレノアがパンを持ってきてくれたので、レノアと二人でハンバーガーを組み立てていく。
パンにバターを塗り、トマトソースを重ねる。その上にレタスとトマトをのせ、マヨネーズをかけた。そこにパティをのせ、最後にニムロムのチーズをのせて、ハジェルを少しだけ散らす。そして、バターを塗ったパンで蓋をして完成!
ニムロムのチーズは、モッツアレラチーズによく似た味のチーズで、けっこう溶けやすいため、りのが頻繁に使うチーズだ。
それにぴったり合うのがハジェルの葉。これは向こうでいうところのバジルに近い。ただちょっとバジルより香りが強いので、量には気をつける必要がある。
できたハンバーガーを、コールスローサラダが添えられたプレートに置き、ついでにカットしたアドルジュやランギス、フルーツ類も適当に盛って。
「はい、ハンバーガープレートの完成! 食べるよー!!」
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