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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第140話 お持ち帰りでランチ


「あ、おかえりなさいませ、リノアさ、ま……? ひえっ、どどど、どうし」

「(こらイリット、しっかりして!)お帰りなさいませ、リノア様。ウェルゲアに輝く光の星、テオドール・ドリュー・ウェルゲア第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

「ああメリル、気にしないで、お腹すいた子供を拾ってきただけだから、見なかったことにしてね」

「拾われたんじゃありません! 後処理の間の、わたしの護衛がいないから、しかたなく!」


 ハッ、とりのは鼻で笑う。


「あれっだけ盛大にお腹ならして、カッコつけてんじゃないわー」

「クッ……」


 ふははは、悔しそうな顔がいい。かわいい。


「ああ、ロゼ、あちこちへの連絡、手間をかけちゃうけどお願いね」

「承知いたしました。テオドール殿下、こちらで昼食をとり、しばらくお休みになっていてください。護衛騎士を極秘で用意して迎えにこさせます。各所へも連絡を回してまいりますので、今しばらくお待ちくださいませ」

「ティレル卿、頼みます。――あの、イモージェンのことも」

「はい、お任せください」


 きれいな騎士の礼をして部屋の外へ出かけるロゼリアの背中に、りのは、ロゼの分のお昼もとっておくからねーと手をひらひら振った。



「……あの、リノアさま、お昼の準備でいいんでしょうか、あの、」

「うふふ、いいのよレノア、一緒にお昼食べようと思って連れてきたの」





 あやうく第二王子が魔力の暴発で侍女一人を丸焦げにしかけた後始末は、なかなか大変になりそうだった。


 図書館に併設された庭ということで、まず管理者のスティラが飛んできて、まっくろこげの芝生を見て腰を抜かしていた。

 丸焦げにされかけたイモージェンは、可愛がっていたはずの第二王子に手ひどく拒否されたのが相当こたえたようでしくしく泣き続けているし、護衛騎士はどうやら第二王子に付いて日が浅いらしく、ただおろおろしているだけ。

 しかも、大量の白煙に気が付いた騎士たちが、すわ襲撃かとあっという間に集まってきたのでさらに大変になった。

 幸運なことに、白煙をたまたま目にした、休日中の元第一騎士団・ライラック・ファルマン卿が早くに駆けつけてくれたので、彼女に説明をし、場を収めてもらうことと相成った。第一騎士団は王城内の警備・管理が本来の業務である。ライラック卿は本来の所属が第一なので、その辺りの手続きには詳しかった。お休みの日なのにごめんなさい。


「承知しました。この件は上の預かりということでひとまず収めます。ただ、魔術師団員が来るといろいろ質問が始まると思いますので、その前にお帰りになった方がよろしいかと」


 青い目を楽しそうにぱちぱちさせながらライラック卿がそう言ってくれたので、お言葉に甘えて、りのはロゼリアと一時退避することにした。

 ロゼリアとライラックが、どこにどういう順序で報告を入れるか打ち合わせをするといって離れた時。


 くううううう。


 いたたまれなさそうに立ちすくんでいる第二王子のお腹から大きな音がしたのを、りのはうっかり聞いてしまった。

 第二王子は、ぱっとほっぺたを赤くして、お腹を押さえて下を向く。


(なんていうか、賢すぎてふつうの子ども扱いされてないっぽいよね、この子。だからああいう距離感をとりがちなのかな)


 ごめんなさいは!? と言った時、テオドールがびっくりして、素直に謝ったのが印象に残っていた。

 まあ、事情を聴く必要はあるし、今はりのを利用しようとか、そういう気持ちはふっとんでいるだろうし。

 何より、子どもがお腹を空かせているのはだめだ。大人げない大人ではあるけど、お腹ぺこぺこの子どもを放っておくほど冷たくはない。中身はおばちゃんなので。



「ねえねえ、もう面倒だからテオドール殿下って呼んでいい?」


 お腹の音を突っ込まれると思っていたのか、テオドールは大きな目を驚いたように瞬かせて、小さく頷いた。


「ん、私もリノアって呼んでね。じゃあテオドール殿下、お昼食べにいらっしゃい」

「は?」

「私もお腹すいたし、これから自分の部屋の台所でお昼作るから、一緒に食べよう」

「え、いやそれはいくら何でもダメだろう!? さっきまでわたしたち、いがみあってたのに!?」

「さっきはさっき。テオドール殿下が演技しないなら別にいいよ。ねえ、」


 おばちゃんモード全開で、りのはにんまり笑った。


「異世界のごはん、気にならない?」





 キッチンへ移動しながらその辺りを軽く説明すると、メリルは額を抑え、イリットはなるほどーとあっさり頷き、レノアはいいのかなぁと困った顔をしていた。

 りのはおそるおそるついてきたテオドールをダイニングの椅子に座らせる。


「メリル、テオドール殿下にレモンとピペルトのハーブ水出してあげて。昨日氷をたっぷり作っておいたから、それも入れて冷たくしてね」

「承知いたしました。蜂蜜はいかがいたしましょう?」

「虫おさえになるかもだから、少し入れてあげてー」


 ハーブ水を飲み終わったら手と顔を洗ってくるようにテオドールに言い、イリットにもその準備をお願いする。



「さ、レノア、今日のお昼はハンバーガーにします」

「「「ハンバーガー!」」」


 イリットとメリルとレノアの嬉しそうな声がきれいに揃って、テオドールがびくりとする。

 そう、ハンバーガーは人気メニューなのである! ロゼリアがいたら、彼女もきっと目をきらきらさせたに違いない。


「それも、ダークバッファローのお肉が今! まさにここにありますので! これを叩いてパティにします!」

「わかりました! えっと、お野菜は、レタスとトマトでいいですか?」

「うん、いいよ。あとハジェルを少しとってきて。きれいに洗ってね」

「とってきます!」


 レノアがぴょんと身軽にキッチンを出て、リビングの方へかけていくのを見ながら、テオドールがとってくる……? と呟いていた。

 りのはくすりと笑う。


「ベランダで、少し育ててるんだよね」

「育てる?」

「そうそう。こうやって料理によく使う香草とか薬草とかをね。新鮮なものが使えるからおいしいのよ」

「へえ……」


 見たかったら後で見せてあげるね、といいながら、りのは手を洗って袖をまくり上げ、エプロンをする。

 そして、マジックバッグからダークバッファローの肉をとりだした。

 これは各部位を料理で使った残りをまとめて置いておいたもので、赤身やサーロインの端っこや落とした脂身の部分だ。これに、塊で残っていたロース部分も合わせて。


「ちょっと粗目に、『粉砕』」


 なぜか土魔術に入る「粉砕」で、お肉をまとめてあらみじんくらいのひき肉にする。今日は腹ペコ十代の男の子がいるので、食べ応えのあるパティを目指すのだ。


「ん、おっけー」


 大きなボウルにえいっとお肉を落として、ボウル全体に「冷却」をかけた。手の熱でお肉が温まらないよう、少し強めの「冷却」にする。

 りののパティのレシピは友だちに教えてもらったもので、とてもシンプルだ。ただ温度にだけは気をつけるようにしている。


「え、なにその無駄な温度調整……」

「無駄とか言わなーい。これが大事なんだからね」


 軽口をたたきつつ、「冷却」の温度調整の細かさを指摘されたのは初めてだなとりのは思った。

 この少年、賢いだけではなく、魔術にも詳しく、また観察力があるらしい。



(これだけ能力があって、こんな言い方はアレだけど側妃腹で、周りに望まない立太子を期待されて、でも母がわりのチェル様とお兄ちゃんは大好きで。がんじがらめじゃない、この子。逃げ場がないじゃない)



 なんだかとても気の毒になった。親戚のおばちゃんになった気持ちだ。

 せめておいしいランチを出してあげようと、りのは気合を入れた。


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