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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第14話 ギフトと「鑑定」


 ローラン第一王子との会談からしばらく、りのはぼんやりとしていた。

 案内された部屋は、ふかふかの大きなベッドがある寝室と、食事をとるダイニングルーム、応接室も兼ねたリビングルームの三部屋に、トイレと洗面所、バスルームのついた大変豪華なものだったが、たいしてりのの気を引きはしなかった。


(帰る手段は、ないんだろうな、あの感じだと)


 あの場で、宰相と魔術師団長が帰還方法を探すといったのは、おそらく方便であり、彼らなりの誠意の表し方なのだろうとりのは思っていた。

 その予想と、それでも帰る方法があるかもしれないというかすかな希望と、家に帰りたいという思い。

 三つがぐちゃぐちゃになってりのの心を占めていた。



 そんな中、つけられた三人のメイドのうちの一人が大変ウザかったので、もう来なくていいと断った。

 たいそう明るくおしゃべりなお嬢さんだったのだが、りのを元気づけようという気持ちではなく、ただただ気に入られたいという媚び全開で、空気を読まずになれなれしくしてくる。

 それだけなら無視しておけばよかったのだが、もうひとりの物静かで仕事の早いメイドに仕事を押し付けいびり始めたので、宰相あてに「この品性下劣なお嬢さんはいりません」という手紙を持たせた。

 翌日から来なくなったので大変平和になった。


 護衛なのか監視なのか、つけられた騎士もそのうちにいなくなった。

 散歩でもと部屋から出ようとするたびに舌打ちをしたり、部屋にいろと威圧的に言ったりするような仕事嫌いさんたちだったので、こっそり「ハイド」を使って護衛をまき、外出するようにした。

 宰相直属らしい他の騎士が自分を探しに来たときに、「護衛の方ですか? さあ、ついてこられませんでしたが。外出がお嫌いなようで、私にも部屋にいろとか言ってましたので、部屋にいるのでは?」とぶちかましたら、来なくなったのだ。

 大変快適になった。



 そんなことをしているうちに、少しずつりのの絶望も諦めの形を取り始めた。

 事故のようなもので、向こうの自分は死んだと考えよう、と。

 万が一の奇跡を信じていよう、けれどそれはあくまで奇跡だから起こらなくても仕方ない、と自分を納得させることにした。

 調査結果はどうせ出ないだろうけど、まとめた資料くらいは持ってくるだろうから、自分でも研究しよう、それをライフワークにしよう。

 死ねば向こうに帰れるかもしれないという希望はある。

 それに、この国はりのを追い出したり迫害したりはしないようだから。

 自分の話を聞く姿勢はもっているみたいだから、交渉の余地はあるだろう。

 やりきれない気持ちをなだめる言葉をいくつもいくつも作って、繰り返し自分に言い聞かせた。



 ひとまず、向こうの世界に帰ることをあきらめず手段を探し、同時に、この国で快適に生きる方法を模索しよう。

 この国にも、帰るところを作ろう。


 何とかそう思えるようになった頃、りのの部屋に宰相と魔術師団長がやってきた。



「こんにちはミハイル嬢、あー、もしよければリノアちゃんって呼んでもいいかな?」

「ユーゴ、失礼だぞ。申し訳ありません、ミハイル嬢」

「こんにちは宰相様、魔術師団長様。おふたりとも、どうぞリノアとお呼びください」

「わー、ありがとー! 僕はユーゴって呼んでね!」

「ありがとうございます。どうぞアルフィオとお呼びください」


 ソファをすすめる。

 りのは、この二人を交渉相手と見ていた。気を許しすぎるのはまずいが、関係を良いものにするのはこれからの交渉において大切なことだ。向こうに帰れない以上、どうしたって援助は必要なのだから。

 初対面の場で怒りを露わにして、互いの関係はゼロどころかマイナススタートなので、ここから積み上げていくしかなかった。

 二人ともとても美しい色と顔立ちをしているので、目には楽しい。りのはきれいなものが好きだ。


「リノア嬢、メイドと護衛騎士の件、大変ご迷惑をおかけしました」

「こちらこそ、お手数をおかけしました」

「いや~、あれはリノアちゃんのせいじゃないよ、どっちも仕事まともにしてないもん、当然のことだよぉ」

「あれらは職務を誤解していたようですので、配置を変え、新人からやり直させています」


 りのは苦笑する。

 メイドは自業自得だが、護衛騎士たちのほうはちょっと嫌な感じがしていた。監視するにしてもこんなアホをあの切れ者っぽい宰相が手配するかなぁと疑問に思ったのだ。他の騎士を巻き込んで暴露してみたら見事に来なくなったのだから、宰相の意図していない人選、あるいは紛れ込んだスパイもどきだったのだろう。

 それ以降、護衛はついていない。一人のほうが気楽なので、別にいい。「ハイド」も、「テレポート」もできるし。


「リノアちゃん、今日は二つ用事があってね。ひとつは、僕からなんだけど、『鑑定』をさせてほしいんだ」

「鑑定、といいますと?」


 きたー、とりのは心の中で叫ぶ。

 一応、聖女とバレた場合とバレてない場合の対応を考えてはいるが、どきどきする。っていうかまだしてなかったのか、と驚いた。


「えっとね、僕たちは体の中にある魔力を使ったりして、魔術っていう術を使うんだ。でもそれとは別に、個人が特別な魔術を持ってることがあって、それを僕たちはギフトって呼んでるんだよね」

「ぎふと」


 それ物語の中でみたやつー!

 え、じゃあ「鑑定」はただの魔術じゃなくてギフトってこと? となると、「ハイド」や「テレポート」はどうなるんだろう?


「そのギフトの中に『鑑定』っていうのがあって、簡単に言うと、『鑑定』をかけた人やものの情報を知ることができるんだ」

「すごいですねえ……。あ、ユーゴ様、質問してもいいでしょうか?」

「どうぞ~」


 にこにこしているユーゴに、りのはずっと不思議に思っていたことを聞いてみた。


「その情報というのは、誰が調べた情報なのでしょうか」

「うん?」

「私たちの世界では、情報というのは常に更新されていくものなんです。たとえば、このカップ。これがアンティーク……えっと、昔に作られた、すばらしいものだとします。はじめは、『これは百年前にナントカ工房が作ったものだ』と調査したり伝えられたりしたものが情報として世の中に出ます。書物に書かれるとか、口伝えとかで。すると、次に別の人がこのカップも含めていろいろなことを研究し、『このカップは百二十一年前にナントカ工房のカントカ氏が自分の弟子と制作したものである』という別の情報を付け加える。そうやって、間違いをただしたり、あるいは間違ったものに塗り替えたりしながら、このカップの情報を厚くしていく。そうやって厚くなった情報をさらに本や辞典にまとめ、拡散するんです。もちろん口コミもあります」

「……」


 ユーゴは大きく目を見開いて黙って聞いていた。


「その『鑑定』という魔術、あれ、ギフトでしたっけ? それで出る情報は、そうやってこちらの人たちが研究した結果がその都度反映されていくのでしょうか? それとも、誰かの人智を超えた力で、はじめから完成した情報が出るものなのでしょうか? 誰かが『鑑定』で出す情報の範囲を決めているということはありえますか?」


 純粋な疑問だった。

 たとえばりのが薬草コルティアドの研究をして、新しい効能、あるいは新しい使い方を発見したら、その研究結果は「鑑定」のスキルを持つ者には瞬時に共有されるのだろうか。

 逆に、誰かが発見した最新情報をりのが「鑑定」で知ってしまうこともあるのだろうか。

 りのの「鑑定」はまだレベルが低いようで、そういうのが出てきたことはないが、レベルの高いギフトの持ち主ならありうるのだろうか。ギフトのレベルって成長するのだろうか。というかそもそもギフトにレベルってあるの?

 聞きたいことはいっぱいあるが、ひとまず一番気になっていたことを聞いたので、その答えを待った。

 ユーゴは、琥珀の目を真ん丸にして、それを次の瞬間、むぎゅっとつぶった。


「いやちょっと待って、そんなこと考えたことなかったぞ。でも言われてみれば確かに、『鑑定』で出る情報っていつ、だれが発見したものなんだろう? 『鑑定』を持ってる人間がすっごく少ないから今まで問題視されなかったのか? でももしそういうのも出るんだったら、特許申請の意味がなくなってしまうな? 国によっての違いはどうなんだろう? こうしてはいられないぞっ!」


 ぶつぶつつぶやいて、ぱちっと目を見開いたユーゴは、りのの傍までやってきてその手を握り、ぶんぶんと振った。


「ありがとうリノアちゃん、すっごくおもしろい視点だった! お礼はまた改めて! あ、鑑定情報だけもらっていくね! 『詳細鑑定』! オッケーできた! じゃあまたね!」


 にぱっと満面の笑顔を見せて退室するユーゴをぼうぜんと見送った。



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