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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第139話 ほっぺた捻り上げの刑


 「王位を望んだことは一度もない」


 それは、りのにとってはかなりの衝撃発言だった。

 第二王子を国王に推す一派がいるなら、その旗頭は当然やる気に満ちあふれているのだと思っていたので。

 てっきり、第二王子のお願いとやらも、自分の後ろ盾であるガズメンディ公爵領に来てほしいとか、自分の立太子を応援してほしいとかそういうことだろうと思っていたのだ。

 どうやらかなり、状況を読み間違えていたらしい。


(なになに、どういうこと!? えっこの子、周りに勝手に国王にさせられようとしてたってこと!?)


 すました顔のまま内心、大慌てで大混乱のりのの前で、イモージェンと呼ばれた侍女が第二王子にすがっていた。


「テオさま、テオさま、なんでそんなことを、だってテオさまはこんなに賢くて」

「いい加減にしろ、イモージェン! 賢いというだけで王になれるか!」

「ヴィ、ヴィットーリア様はきっと、テオさまの立太子を」

「妃殿下を知らぬお前が語るな! 会った事もないくせに! 私の生みの母はヴィット―リア妃だが、私を育ててくれた母はアラチェリア妃殿下だ!!」


 このイモージェンという侍女、テオドールを大切に思っていることは間違いないのだろうが、なんだかテオドール自身の意志とうまくかみ合っていないように見えた。


(魔力、そんなに感じないから大丈夫か。「鑑定」)


 出てきた結果を読んで、りのはひそやかに眉をしかめる。


 イモージェン・ヒルトという名の彼女は、テオドール・ドリュー・ウェルゲア第二王子の乳母兼侍女。ヒルト家はガズメンディ公爵家の分家のひとつのようだった。

 まあ乳母なら立太子を望んでもしかたがないかもしれないと思ったが、見る限り、第二王子との関係はあまりよくなさそうに見える。

 一方的に執着されているのだったら、この子ずいぶんきつい立場だったろうねえ、とりのはちらりと思った。


 イモージェンが涙声で縋り、それを第二王子がかたっぱしから反論している不毛なやりとりは続いていた。

 第二王子がどんどん苛ついて行くのがわかり、りのもそろそろ止めようかなあと思った時。

 イモージェンが、第二王子の地雷を踏んだ。



「でもでもだって、ローランさまは要領が悪くて、時機もよめないし、テオさまの方が」



 ぎりっと侍女を睨む目が一層鋭くなって、ぶるぶると怒りに体が震えて。

 そしてその細い肢体から、ぐわっと魔力が膨れ上がった。



「きさま、兄上を愚弄するなあああっっ!!」



(あ、これヤバいやつ!)



「『防壁』!」



 りのは反射的に、侍女と護衛騎士、自分とロゼリアのまわりに、水を利用した防壁を張る魔術を展開する。

 ついで、この辺り一帯に無詠唱で「エリアハイド」をかけた。


 その次の瞬間、第二王子のあふれた魔力が鋭く燃える炎の矢となって第二王子の周囲に浮かび上がる。赤い炎に包まれている金髪がギラギラと光って、二度目の謁見の時のフィンレー王を彷彿とさせた。

 りのがうわーとドン引きして見つめている間にも、その炎の矢はどんどん数を増やしていく。辺りが煌々と明るくなっていった。

 ちょっとヤバいかもしれない、と、りのは「防壁」に追加で魔力を送り込んだ。


(おお、けっこう魔力使うな!? このくらい厚さがあれば大丈夫かな!?)


 そして次の瞬間、その炎の矢のすべてが、侍女に襲い掛かった。


「ぎゃ、ぎゃああああっっ!!」


 デオざま―! というだみ声の悲鳴が轟くが、一瞬で侍女の姿は見えなくなった。

 魔力を放出したことで正気に戻ったのだろう、第二王子は一気に青ざめていた。

 しかし正気に戻っても、手を離れた炎の矢のコントロールをする余力はなかったらしい。



「しまった、イ、イモージェン……!」



 どどどどどどどど!!

 侍女の居たあたりに矢が次々にぶつかっては落ち、地面にたどり着く前にしゅんと消えていく。

 辺りはもうもうとした白煙で覆われた。前が何も見えない。ただ真っ白なだけ。



「『微風』」


 すべての炎の矢が消えたころ、小さなロゼリアの声が響いて、柔らかな風が吹く。

 りのは慌てて「エリアハイド」を解除し、その優しい風が白煙を散らすのを見送った。


 あれ、そういえばあの侍女、意外と年のいった声だったな? 若作りしてた?

 りのがのんきにそんなことを思っている間に、少しずつ視界が戻ってくる。「エリアハイド」を使ったので、あの燃え盛る炎は見とがめられないだろうが、この煙に関してはどうしようもない。言い訳を考えなければ。



 やがて、完全に煙が消え、視界が戻ってきた。

 未だに茫然とする第二王子にも、周囲の状況が分かるようになってくる。

 一同の前に現れたのは、



「ごべんなさい、ごめんなさいテオさま……おゆるしください……」



 頭を抱えてうずくまる侍女。その周囲は見事に焼き払われていて、侍女を中心に真っ黒こげだった。

 しかし、当の侍女は、燃え尽きても、黒焦げになってもいない。


 

 最悪の状態を想像していたのだろう第二王子は、安堵からへなへなと崩れ落ちた。






「リン」

「ロゼ、怪我はない?」


 一瞬でりのの前に移動していたロゼリアごと「防壁」で囲ったが、ちょっと心配になって聞いてみた。


「はい、全く。少し暑かったくらいです。ありがとうございました」

「どういたしまして。間に合ってよかったー」


 うん、今度からは熱の遮断も工夫しよう、と思うりの。

 あ、そうだと思い立って、ロゼリアに、なんかさっきの炎、外から見られないようにしたいと思って、そういう魔術を作っちゃったみたい、と自己申告すると、時間ができたらユーゴ師団長様にご相談しましょうね、と諭されてしまった。


(うう、またゼノン隊長とユーゴ様に質問攻めにされるう……でも自業自得だからしかたない……)


 それからロゼリアはあたりを見回して、困ったように眉根を寄せた。


「……これ、どうしましょうか」

「ほんとにね……。お昼から文学の講義があるし、お茶を挟んで打ち合わせもあるんだけどなあ」


 文学の講義はともかく、アルフィオとの打ち合わせは外せない。

 まったく、やっぱり面倒ごとだった!


 ため息をつくりのに、やっと頭が再起動したらしい第二王子が視線を向けてきた。


「わ、わた、し、」


 はー。

 やっぱり私が後始末することになるのかよおおお!

 深いため息をつくと、びくりとその薄い肩が跳ねる。


 ロゼリアにあっちをお願いと侍女を託し、自分はつかつかと第二王子へ歩み寄った。

 護衛騎士は慌てて出てこようとしたが、ロゼリアがぶつけた威圧に足を止める。


「第二王子殿下」


 がくぜん、というか、ぼうぜん、というか、そんな色をいっぱいに浮かべた顔がりのを見上げてきた。

 今まで怖いと思っていたことが信じられないような、途方に暮れた子どもの顔。



(うーん、それなら、やっぱりこうしておくか)



 りのは、その顔に手を伸ばし。



「こらーっっっ! 危ないでしょうがーッッッ!!」



 むぎっとそのほっぺたをつまみあげた。


「――――っっっ、いひゃ、いひゃいっ」

「痛いようにやってるの! もう! 魔力暴発防止のアクセ、なんでつけてないの! ユーゴ様に大体の子どもはつけてるって聞いてるんだからね! うっかり暴発させるんだったらちゃんと対処なさい! そのくらいの頭はあるでしょ!!」

「いひゃい、いひゃいってばぁぁっ」

「問答無用!」


 次はひねりを加える。大人げないが楽しい。わはははは、きれいなお顔が歪んでやがるぜ! 


「ごめんなさいは!?」

「ひゃ!?」

「悪いことをしたらごめんなさいをするの! ティア様はやったのに、お兄ちゃんはやらないの!?」



 そのりのの台詞に目を見開いた第二王子は、痛さか後悔か、金色のように光る眼をうるうるさせて。



「ひょめんははい!!」



 全力でごめんなさいした。




今日はここまで! お読みいただきありがとうございました。

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