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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第134話 やった! やった!


「さて、ではカノンちゃん、『テレポート』が成功したのはとても素晴らしいことなのですが」


 りのは、カノンの髪をぐしゃぐしゃ―っとかき混ぜて思う存分撫でた後、その髪をせっせと戻しながら、厳かに告げた。

 カノンは、あれ? という顔をして、ぴゃっと背筋を伸ばした。


「『テレポート』が成功したことの、後処理をしていきましょう」


 そう言うと、カノンはうん? という顔をした。とてもかわいい。

 じゃなくて。

 ごほんと咳をひとつして、りのはまずね、と口を開いた。


「魔力はいくつ減ってる? さっき見た数値は覚えてる?」

「覚えてるっていうか、右と左が同じ数字だったかなってくらい……?」

「ああ、それなら大丈夫だね。『ステータス』で確認してみて。いくつ減ってる?」


 カノンはステータス、と呟いて、カノンにしか見えないボードを覗き込んでいる。


「えっと、四千三百から、四千。三百減ってます」

「おお、枯渇はしてないのね、よかった」

「そんなに疲れた感じもしなかったです!」

「ということはね、カノンちゃん」


 りのは、真面目な顔でカノンを覗き込んだ。


「まず、帰れるかどうかを試した方がいいと思うな」


 あ。

 カノンが固まった。


(くう、固まってもかわいい! でもやっぱり考えてなかったなー? ま、衝動的な行動ってそういうもんそういうもん。私も人のことは全然言えない)


「ど、どどど、どうしましょうリノアさん、部屋に帰らないと、」

「どうどう、落ち着いて。はい深呼吸~」


 すうはあすうはあさせてから、りのは明るく言った。


「ひとまず、『テレポート』で帰れるかだね。カノンちゃんとしてはどうかな、帰れそう?」

「……どうだろう……」

「というか、さっきはどういうイメージでやったの? 私、ぽんと出てくるのできないんだよね」


 うらやましいとカノンを見ると、カノンは腕を組んで考え込んだ。


「あんまり難しいこと考えてなかったな……ただ、リノアさんのところに出ろーって思ったくらい? ああ、リノアさんの顔は思い浮かべました」

「え、ってことは、私を『テレポート』の終点にしたってこと?」

「終点? うーん、リノアさんの前に出たいって思ったから、そういうことなのかな?」


 あああああ。

 りのはベッドにべしゃりと沈み込んだ。

 リノアさん!? と慌てるカノンを上目遣いで見て。


「天才か……!」


 そうよ、私、終点を場所で設定して考えてたからいろいろイメージが曖昧だったんだ! 場所の移動って空間を横切るイメージでやっててものすごく魔力使ってたんだけど、そうよ最初は終点の設定とかいい加減にやってた! それでできてた! ってことは、人とかイメージしやすいもののほうが終点にするにはいいのでは? イメージしやすいし空間をどうのこうのなんて考えなくていいから魔力の節約にもなるんでは!?

 一息でしゃべると、カノンが再び固まっている。


「ちょっとそこにいてねカノンちゃん!」


 りのはベッドを下りて、寝室に併設されているバスルームへ駆け込む。

 ぱたりとドアを閉めて、水の入っていないバスタブの中へ。


(場所じゃない、人。空間を横切ってつなげるんじゃない、その人の前にぽんと出てくるイメージ)


「『カノンちゃんのところに、テレポート』!」


 目の前が一瞬暗くなって、ふわりと浮遊感。

 そのあと、ぽん、と空中に体が投げ出されて。


「ふぎゃっ!」

「うわっ」


 気が付いたら、カノンをベッドに押し倒す形で着地していた。



「で、でで、できた……!」

「リノアさんもマスターしましたねっ」


押し倒されたままで、カノンがにっこりと笑った。かわいい。

いやそうじゃなくて!


「『ステータス』」


 ありゃいつの間にやらまた魔力が増えてやがるぜ毎晩のトレーニングの結果がでてる、ってそれはいいけどいくつ減ってる!?


「に、にひゃく……減ってる……」

「あ、リノアさんの方が省エネですね」

「多分距離によるんだろうけど、やった……すごい、今まで下手すると半分くらい魔力吹っ飛んでたのに……! ありがとうカノンちゃん、ずっと悩んでたんだよー! 天才! カノンちゃんすごい! わーい、やった! やった!」

「え、えへへ……?」


 この「テレポート」を使いこなすことはりのの大きな目標の一つだった。

 そのきっかけを、やっとつかめたのだ……!

 万歳三唱しかけて、はっと気づき、りのはそろそろと上げかけた両手を下ろす。それから、押し倒していたカノンの上からぴょんと飛びのいた。

 とんだセクハラを……お許しを……。何かイケナイ気分になってしまったので、心の中で謝っておく。


「……ごめん、ちょっとコーフンしすぎました……」

「ううん、いいんです。リノアさんの役に立ったならとっても嬉しい」

「けなげ……! カノンちゃん、リノアってちょっと言いにくいよね。リンって呼んでくれたらうれしい」

「リン、さん?」


 うん、とりのは笑った。


「私の学生の時からのあだ名なんだ。仲のいい人にはリンって呼んでほしいってお願いしてる」


 学生の時から。

 その言葉でカノンもいろいろ察したのだろう、はいと笑って頷いてくれた。


「よし。ごめんカノンちゃん、後処理が中途半端なままになっちゃった」

「あ、帰りの話ですよね。私が部屋まで『テレポート』で帰れるかっていう」

「そうそう。で、『テレポート』ができたってことは、たぶん私が作った他の魔法も使えるってことだと思うの」

「うーん、そうかも」

「なので、万が一『テレポート』がうまく行かなくて失敗しちゃってもバレないように、『ハイド』の魔法を覚えてみない?」

「はいど? あ、隠れるのハイド」

「そう。えっと、私が実際にやってみようか。『ハイド』」


 すうっとりのの気配が薄くなり、周りに溶け込んで見えなくなるのを、カノンはじっと見ていた。


「んー、透明マントな感じかな。やってみますね。――『ハイド』」


 カノンの気配もすうっと空気へとけて、そこに誰もいないように見える。成功だ。


「おっけーおっけー、すごいね、一発だった!」

「やりました!」


 かわいくブイサインを作るカノンの目の中で、オレンジの色が炎のように燃え上がっているように見えて。


(あれ?)


「リンさん?」

「あ、ごめん。続けるね。この『ハイド』をかけたままで『テレポート』したら、もし誰かに会っちゃっても平気だと思うんだ。誰にも知られずに部屋に帰れるから」

「なるほど! じゃあさっそく、」

「ちょっと待って」


 その前に、あといくつか打ち合わせが必要だ。


「えっと、カノンちゃんもユーゴ様に魔術習ってるんだよね?」

「あ、はい。――――その、最近サボり気味なんですけど」

「そなの? まあ義務教育じゃないんだし、ぼちぼちでいいんじゃない?」


 気に病んでいる感じがしたので、あえて軽く言っておく。まあ事実だ。


「いいんでしょうか……?」

「いいと思うよ、だって私たち、ここにいるだけでいいって王様からお墨付きもらってるわけだし。まあ私は魔術とか魔法とか、楽しくていろいろ教わってるけど、趣味みたいなもんかな」

「しゅみ……、え? いるだけでいい?」


 うん、と笑ってうなずいた。

 どうやらこの話はカノンには伝わっていなかったようだ。

 やはり、どこかで誰かが情報の取捨選択をしているのかもしれない。


「聖女だ何だって言ったって、私たちがこの世界に居さえすれば、魔獣とかって減っていくらしいからね。それ以上なんかさせる気なら、ちゃんと仕事代払えーって言ってるの」

「仕事代……。」


 いろいろ衝撃だったのかもしれないなと思いつつ、ひとまず後処理を優先させることにした。


「ユーゴ様が『鑑定』使えるの知ってる?」

「あ、えと、はい。『鑑定』させてほしいって言われたから……」

「あの人の『鑑定』、けっこうレベル高いんだよね。見せてもらったことあるけど、レベルが六十二もあって」

「うわあ……。私のこれ、全部見られてるかも?」

「これだけじゃなくて、今のカノンちゃんのレベルでは見られてないところまで読まれる可能性はあるかもしれないね」

「怖い……って、ステータスって相手にも見せられるんですか?」

「できるよー。レベルによるかどうかはわかんないけど……私の見てみる?」


 え、いいんですか、とカノンがしり込みしたので、りのはいいよーと笑って、「『ステータスオープン』」と唱えた。





今日はここまで。お読みいただきありがとうございました。

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