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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第130話 ひとりごと


※2月13日 修正 (誤)第三騎士団 →(正)第三部隊


 カノンが去ってから、りのは予定通りロゼリアとコルティアドの庭でランチをとった。

 アップルケーキはたっぷり残っていたし、クイーンオークのセイボリーケーキも丸っとあったので、二人でのんびりと食べる。


「おいしい~、このオーク肉のうまみとオートミールのほろっとした感じがいいんだよねえ」

「本当においしいです。アップルケーキのほうはもっとしっとり感があって、こっちもおいしいですね」

「パン用のイーストをちょっと使って、パンっぽく作ったからしっとりしたんだよね。リンゴの香りがいい感じ」

「小麦のパンとは違った風味がして、それもおいしいです」

「よかったあ」


 ゆったりと会話をしながら、脳裏をよぎるのはやはり、先ほどのカノンのことで。

 お茶を入れてもらってのどを潤しながら、りのはロゼリアに、職務規定で話せないところは話さないでいいんだけど、と前置きをして。


「カノンちゃんの護衛は、例のアレが組んでるの? 聖女を馬鹿にしてるっぽい人ばっかりだったけど」

「そうですね。少なくとも、フィリベル副団長ではあんなのはつけないでしょうね」


 ロゼリアも腹に据えかねてはいるらしい。


「……もともと、カノン様の護衛は私たち第三部隊が就く予定だったんです。女性王族と同様に、ということで。でも、ローラン殿下がカノン様の世話役になることになって、少し事情が変わりました」

「え? どうして?」

「一緒に行動するから、カノンに護衛を割り当てる必要はないだろう、と。王子殿下の護衛もいますが、ご自身もまた護衛をするおつもりだったのではと……」

「あちゃー」


 なんとなく読めてしまった。


「それ、殿下に悪気は一切ないんだよねきっと……でも、殿下の周りのダルクス一味から吹き込まれたんじゃない? 自分で護衛を務めて仲良くなることも大切です、みたいな」


 ロゼリアがすっと視線をそらした。

 やっぱりかー。


「近衛騎士は忙しいので、その分を慮ってくださったのもあると思うのですが……」

「それであんな弱そうなのつけてちゃ意味ないのでは」


 あの最後に出てきた騎士、魔力めっちゃ弱そうだったけど、というと、ロゼリアが眉をひそめた。ロゼリアは、りのが相手の魔力の大きさをなんとなく感じ取れることを知っている。

 ちなみに一番弱かったのはあの金ぴかひょろ君だよというと、ネーミングにツボったのか口を押えてそっぽを向かれてしまった。


(ロゼの笑いのツボが浅すぎて申し訳ない気持ちになります……!)


「けほっ、失礼しました。――カノン様は、はじめは殿下方がしっかり護衛されていたそうです。ですが、学園に通いだしてからは、」

「ああ~~……」


 同世代の男女が通う学園。

 そこに王子様とその側近がべったりくっついてる聖女と名乗る異世界の少女。

 どう考えても愉快なことにはなりそうにない。

 話を聞くに、その辺りの細やかな配慮をできるタイプではないだろう、あの王子様とカーティスは。

 さてどうしたものだろう。


「……ティア様の護衛のライラック卿は第一騎士団って聞いたけど、第一からティア様の護衛についてるの?」


 ああ、この間お見かけしましたものね、とロゼリアは頷いた。


「ティアーヌ王女殿下の周囲に侍っていた侍女や護衛騎士のほとんどが、更迭、もしくは部署替えになりまして、近衛騎士団の数が今、とても減っているのです。その、護衛の現場に出ないものも多くて、ですね」

「アレのお仲間みたいなのがいっぱいいて、予算を食い尽くして居座ってるわけかぁ……ありがちとはいえ、腹立つねえ!」


 あっけらかんと言うと、ロゼリアが少し笑った。


「それで、ライラック卿は、一時的に近衛に復帰してティアーヌ王女殿下をお守りしております」

「なるほど。そういうことだったのね」


 うーん、とりのは考えた。


 自分が、カノンちゃんだったとして、安心できる人はどんな人だろう。

 誰が敵か味方かもわからない、文化も習慣も違う世界に連れてこられて、それでもほっと息をつけるような人。

 十五歳の女の子が、側にいてほしい人。

 そして、今の私ができることは何だろう。


「……ロゼ、これは、私のひとりごとなんだけど」

「リン?」

「おじいちゃんかおばあちゃんに近いような、かなり年上のひと。もしくは、年の近い気さくな女の子。少し年上くらいがいいかな。もちろん道具扱いをしない人っていうのは大前提で、崇拝してくるような人はダメ」


 ローランとカーティスがだめだったから、同世代の男の子や上の世代の青年。

 母親くらいの年齢の、厳しい態度の女性。

 そして、カノンを道具として見、役に立て、仕事をしろと急かす者。

 そのあたりは悪手のような気がする。


「一度近衛を引退した人でもいいと思う。ライラック卿の前例があるなら押し込めるはず。今は、カノンちゃんの心を安定させられる騎士様がいいと思う」

「引退した騎士、ですか……」

「強さはね、それほど必要じゃないと思うの。カノンちゃん、魔力がすごかった。ユーゴ様と同じ感じがした。何かあれば、あの魔力をぶつけるだけでも何とかなりそう。だから、一瞬の隙を守り、時間を稼げる人がいい。そしてカノンちゃんに、一緒に頑張ろうって言ってあげられる人がいいような気がする」


 ひとりぼっち、誰もいないという感覚を埋めるには、この世界で何かしらの役割がある方がいい。でも、それがいきなり聖女なんて重いものでは受け入れがたいだろう。だから小さな役割から。護衛の騎士様と一緒に自分の身を守る、そのくらいからでいいんじゃないだろうか。

 そうして心が落ち着けば、これからのことを考える余裕もでてくるんじゃないだろうか。


「全員、入れ替える必要はないと私は思うの。ティア様の周囲にいたのもそうだけど、さっきの護衛騎士たちを見た感じ、わりとクラゲみたいなのが多かったじゃない?」

「く……らげ?」

「あれ、こっちにはいないかな? 海とかで、ふよふよ漂ってる生き物。半透明で、足がいっぱいあって」

「ああ、メドロサ」

「そういうのね、めどろさ、メドロサ……うん覚えた。メドロサって、あまり自分で動かずに、水の動きに流されるままふよふよしてるでしょ?」

「そうですね、自律はしてないというか……つまり、自分の意志ではなく、何も考えず上官の意志に従い行動する……」


 そうそう、とりのは頷いた。

 そういうクラゲみたいなのを集めたから、ファルカ・エスタリのような、頭はお粗末でも声の大きい人間がトップでいられたのでは?


(もっと言えば、ファルカが操りやすいようにわざとクラゲ系を集めたような気がするのよね、ダルクス一味のブレーン君。マジ気色悪い考え方する奴だわ)


「逆に言えば、中にひとり、必要な方向へ声を出せる人がいれば、クラゲ、じゃなくてメドロサ系騎士たちは何とでもなると思うの。あ、さっきの最後に出てきた護衛騎士みたいなのは、もちろん省かなきゃだけど。魔力よわよわなのに、なんであんな自信たっぷりなのかしらね」


 よわよわのくせにまともに仕事してないとか、ほんと許せないよね!


 コネ就職しやがってという私怨交じりでぶつぶつ言うりのに、ロゼリアは小さく笑う。


「……まあ、ひとりごとだから」

「はい。ひとりごとですね、リン。近衛の会議は明日あります。私も出ることになっていますが、ひとりごとです」

「ふふ」



 大きく周囲を変えるのは、お披露目の後の方が理由がつけやすい。

 ただ、そのお披露目自体、アラチェリアやカノンの体調と心が安定しないとむずかしい、とりのは聞いていた。


(チェル様の体調はだいぶ良くなってきた。今度ストレッチ教えに行くし、そうすればもう一段、チェル様も動きやすくなると思うのよね。ああ、その時に、カノンちゃんの侍女さんについても探りをいれてみよう。護衛騎士関係でできることはここまで。あとは、メンタルの方かあ。電話、通じるかなあ)



 あんなこっぱずかしい思いまでして通じないとか、泣いちゃう……。

 この年になって黒歴史を作るとは、人生ってほんと謎。



 りのは遠い目をしながら、足元の空を眺めていた。



今日はここまでです。お読みいただきありがとうございます。

それにブックマークをして頂いたり評価で★を押してくださったり、ありがとうございます!

リアクションもありがとうございました。わーい!

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