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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第126話 薬草の庭にて


 りのは、いつものようにロゼリアと共にコルティアドの庭園に来ていた。


 今日は少しゆるめのスケジュール。朝食後、雑務をすませてから王宮から出て、のんびりと西門近くのコルティアドの庭園まで考え事をしながら散歩をし、そこでのんびりとランチ。

 その後、図書館に寄ってから資料を確保して部屋に戻り、アルフィオと聖女のお披露目会の打合せ、というのが今日の予定だ。

 最近バタバタしていたので、ちょっと息抜きである。もちろんランチ持参でやってきた。

 アルフィオとの会合で頭を使いそうなので、今のうちに考え事を済ませて、ちょっと気を抜いておこうと思っている。



「今日のお昼は甘くないのと甘いのと両方用意したから楽しみにしててね、ロゼ」

「はい、とっても楽しみです!」


 先日、米を探してもらっていたウェスが、なんと燕麦(えんばく)を持ってきてくれた。

 コメではないのですがこういう穀物が見つかりましたのでご報告がてら、と大袋で二つも。なんでもセティロード領の北部とノディア領の一部で細々と作られているらしい。


 燕麦(えんばく)とは、つまりオートミールである。少し癖はあるが、なかなかにおいしい。

 りのは、スコットランドに、アンティークのジャンルのひとつであるコレクタブルズと、タータンチェックなどの伝統的な布類の仕入れに行ったとき、これに思いきりハマった。

 泊まっていたB&Bのおばちゃんは料理上手で、特にチーズと黒コショウのポリッジがとても好みだったのだ。

 あまりにおいしかったので、家に帰ってから自分でオートミールを買って、いろいろな料理で試してみた。けっこう失敗もしたが、一通りは作れるようになった。

 というのも、オートミール料理、なぜかワインとの相性がよくて、ついつい繰り返し作ってしまったのだ。酒のつまみサイコー!


 こちらの燕麦(えんばく)は、主にパンとして食べられているらしい。小麦の代わりということなのだろうが、りのはオートミールはパンにするよりも、ケークサレ(しょっぱいケーキ)やケーキ、ポリッジにして食べるほうが好きだ。


 もらった燕麦(えんばく)を、りのは魔術の「粉砕」でていねいに粉にして、それで試作を何度かしてみた。ロゼリアに「粉砕」のコツをききながら練習を兼ねて。

 今日持ってきたのは、その成功品である。まずはロゼリアが楽しみにしている、しっとりと焼きあがったオートミールのアップルケーキ。それに、冷蔵庫の端野菜とチーズ、ちょっと奮発してクイーンオークのバラ肉を入れて焼いたセイボリーケーキだ。味見したところとてもおいしかったので、ランチが楽しみである。


(んー、本当なら赤ワインと一緒に頂きたいんだけどねえ……昼酒恋しいわ……)


 さすがに、こちらの世界で昼酒をする勇気は、まだなかった。




 さわやかな甘酸っぱい柑橘系の香りで満たされたコルティアドの庭園は、今日も静かで気持ちがいい。


(監禁された部屋から脱出した時もここに来たけど、コルティアドって本当に通年で葉っぱが青いのねぇ。不思議だわあ)


 膝のあたりに広がる青空にも、すっかり慣れた自分がなんだかおかしくて、もの悲しかった。

 ガーデンテーブルに添えられた椅子に腰を下ろすと、ロゼリアが持っていたバスケットを反対側の椅子へ置いてくれた。お茶はいかがですか、と聞かれて、まだ大丈夫、ありがとうと答える。

 そのかわり、自分でバスケットを開き、中に突っ込んでいたメモ帳とペンを出した。


(少し、頭の整理をしよう)


 メモ帳に書き連ねていたTоDоリストを眺める。


 終わったもの、手はつけたもの、手すらつけていないものにざっとわける。


(王妃様との接触は一応完了。前倒しになったけど、まあよかったんじゃないかな。王妃様、大分元気になってたし。自律神経やホルモンバランスを整えるストレッチを組み込めば、気晴らしにもなっていいと思うんだよね。他のハーブティーの発掘も面白そうだから、これは引き続き、っと。気になることは……うーん、陛下とどこまで意思疎通できてるのかは気になるけど……まあいいや、今のところ、だいたい同じ方向を向いてるってことで)


 今までに起こったことを整理しながら、気になることやこれからやるべきことをピックアップした。

 りのはこれを頭の中でやることがとても苦手だった。ごちゃごちゃになってしまう。だから、面倒ではあるけれど、ひとつひとつ紙に書いて管理するようにしている。向こうであればタスク管理のツールがいっぱいあったから特に問題はなかったのだが、ここでは仕方がない。


(うあー、聖女認定のお披露目の前に、街の視察にいけるようにしておくべきだった、マズった~~! 認定されてからじゃますます動きにくくなるよね? 後回しにせずにさっさとアルフィオ様つっついて、行かせてもらえばよかった……!)


 失敗も、もちろん多いが。


(……しかたない、この辺はウェスさんとレオさんにフォローをお願いしよう。あと、ちょっと変装についても探っておこう。一人で行けるようになることが目標ってことで!)


 対策を立てては潰し、また立てて、達成したらさらに次を立てる。

 そうやって自分の動きを確かめ、安全と生活のためにより確かな道を探る。


(うん、だいたいこんな感じか。残った一番大きなタスクは、聖女の資料だなぁ)


 ぱたりとメモ帳を閉じた。ペンをその上に丁寧に置く。


(聖女の資料に関してはユーゴ様に投げてあるけど、時間かかってて動きがないんだよねえ。雑談の中でチェル様にもこぼしておいたから、ブーストかかるといいな)



 りのが、仮とはいえ聖女と認定されて、変わったことはそんなに多くはない。まだ発表前だということも大きいと思う。

 だから、りのからの要望はできるだけひかえていた。

 要望を出すなら、正式にお披露目をしてからの方が通りやすいだろうし、何より第三騎士団に治癒魔術師として籍をおくことがかなりの横紙破りだったという意識はあるので、他のことはちょっと控えめにしているのだ。

 そうすれば、「あの無欲な聖女様がどうしてもというほど、第三騎士団の状況はひどかったのだ」という方向へ話を誘導しやすくなる。これは、近衛や第一、第二騎士団からの不満を抑えるためのものだ。

 無欲というのはちょっと違うけれど、予算を使っていないのは本当のことだから、信ぴょう性はなかなかのはず。

 その辺りはアダン副団長にまるっとお任せしているが、けっこうなスピードで話が広がっていると聞いていた。


 そんな中、聖女としてりのが望んだ数少ないことのひとつが、今までこの国が召喚した聖女の情報であった。

 こちらの言葉で書かれた聖女の日記や伝記などには一通り目を通したのだが、やはりぺらっぺらで、うさんくさい感じが否めない。


(だってみんな同じようなことしか書かれてないし、聖女様の個人情報は出てきてないしね)



『聖女様は異世界より召喚され、そのお力をもって魔獣を鎮めてくださいました。』



 どこの異世界のどこからだよ!

 どうやって鎮めたんだよ!


 そんなツッコミしか出てこない。

 聖女によっては、「その後ナントカカントカを開発され、民の生活を豊かにしてくださいました。」がついて終わりである。


 仕方がないと言えば仕方がない。一般市民には公にできない話も多かろう。

 そもそも、だ。


(私だったら、こっちの言葉で本音とか書いたりしないと思うんだよね。いつ、だれに見られるかわからないのにさぁ)


 やりきれない思いや絶望、不満や不安。

 そういったものは、きっと自分の母語で書いただろう。

 そしてその母語は、きっとこちらの人には読めていないはずだ。

 実際、聖女の言葉で書かれたような本類は、図書館には見当たらなかった。スティラにも聞いてみたが、そういったものは見たことがない、見られるようになったら私にもぜひ詳細を教えてほしいと縋られた。


(こっちのひとたち、聖女を神聖視してる人が結構多いから、処分はされてないと思うんだよね)


 だからりのは、仮とはいえ認定がおりてすぐ、今までの聖女が残した文書を見たい、とつついてみたのだ。

 魔術師団長であるユーゴが魔術の授業で来ていた時に、何気ない感じで。ヤン先生が言ってたんですけど~、と。

 ついでに、私、何か国語か読むことができるんですよ~(何せネットが使えるので)と言うと、ユーゴの表情がすっと変わったのだ。


「……持ち帰って、少し検討してもいいかな?」

「はい。ただの好奇心ですし、ダメならダメでかまいませんので」


 さりげなく、他に含むものはありませんよという雰囲気で伝えた。

 王妃様にも、「そういえばこの間ユーゴ様にこういうお願いをしたんですけど、今返事待ちなんです~」とにっこりしておいたので、急いでくれる、かもしれない。



(聖女の資料から情報が取れたら、また動き方も変わってくるだろうしなあ)



 今までの聖女たちがどんな扱いを受けていたのかは、今一番知りたいことだった。それによって、りのの身の振り方も変わってくるだろう。




今日はここまで。お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、評価ありがとうございました。

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