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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第120話 気楽なお茶会


 あまりの眩しさに目を閉じて、ゆるゆると開けると、そこは庭だった。

 とても大きくて広い。思わず左右を見渡したが、少なくとも見える範囲に突き当りはなかった。上を見上げると、真っ白な何かの骨組みに透明なガラスのようなものが張られていて、陽光がさんさんと降りそそいでいる。青空と白い雲が見えて、とてものどかだ。


(ば、ばかでかいコンサバトリー……! 温室かもしれないけど……!!)


 コンサバトリーとは屋根や壁がガラスでできている部屋のことで、たいていは母屋にくっつく形になっている。プレイルーム、多目的ルームとして使うことが多く、たいていはソファセットやカウチを置く。日本ではサンルームが近いだろうか。


(おばあちゃんちにあったな、サンルーム。ちっさくて縁側みたいになってたっけ)


 温室は植物を保護し育てるための建物だが、ここにも、それこそ温室のようにさまざまな植物が植えられていた。高さのある樹もあれば、低木もある。そして温室らしく、様々な花に溢れていた。

 目線を下げると、入り口の両端に青紫のスミレの寄せ植えがいくつも作ってあって、そこから甘い香りがしている。


「では、参りましょう」


少しりのが落ち着くのを待ってくれていたらしいディアナが再び歩き出し、りのたちはそれについて行った。


 足元には、テラコッタのようなもので道が作ってあり、両脇には整然と花壇が作られていて、ところどころに低木が植えられていた。歩きながら眺めると、年経た感じの、堂々たる姿の木々だった。

 そして、あちこちに東屋やガーデンテーブルやベンチなどが設えてあり、休憩や散策などに使っているんだろうなという空気感があった。温室とコンサバトリーの両方の役割を持っているのかもしれない。贅沢極まりないが、そういえばここは王宮で、この国一番の金持ち(たぶん)が住んでいるところだったっけ。

 たしかに、間違いなく「屋内庭園」だ。




 赤茶色のテラコッタの道をディアナについていくと、やがて緩やかにカーブした先の木立の向こう、コンサバトリーの突き当りに行きついた。

 そこには可愛らしいつるバラをからませたパーゴラがあり、そのパーゴラの下で、アラチェリア王妃が笑みを浮かべてガーデンテーブルを前に立っていた。

 薄い青紫のワンピースドレスを着て、りのに贈られたのと同じ銀灰色のショールを羽織っている。ドレスラインはとても軽やかで、ややゆったりめ。確かにコルセットは必要なさそうなデザインだった。全体的にとても上品だが軽快で、よく似合っている。


(あ、これ、ペールトーンに寄ってるけど、私の目の色に近いんだわ。これもリンクコーデってことなのね。王妃様って何着くらいお洋服あるんだろうなー)


 割とどうでもいいことを考えながら、大分疲れた足を叱咤しつつ、できるだけなめらかにりのは歩く。


(うおおおリシェル先生ー、私に力をおおおお!)


 アラチェリアの近くに、やっと到着!

 歩くのは好きだが、やはり高めのヒールはきつい。あとで足に「ヒール」かけとこうヒール履いただけに、と思いつつ、りのはアラチェリアに礼をとった。



「アラチェリア・フィリス・ウェルゲア王妃殿下、本日はお招きありがとうございます」



 教えてくれたリシェル先生の顔に泥を塗るようなことはしないようにと、丁寧に習った通りに言葉を紡いだ。が。



「もー、いいのよそんな固くならないでもぉ! 来てくれてありがとう!」


 えっ。

 なんかすごいはしゃいでらっしゃる……。


 思わずかちんと固まるりのの手を、待ちきれないように握って、アラチェリアはりのをガーデンチェアのところまで連れてきた。


「あ、あの、素敵なドレスをありがとうございます」

「どういたしまして! やっぱりとってもすてきだわ。この間の濃い紫のドレスも可憐でよかったけど、こちらのドレスもあなたによく合っているわね」

「ありがとうございます。王妃殿下も、明るくて軽やかなドレスが大変お似合いです」

「ありがとう。気持ちが晴れ晴れするようになったから、久しぶりに明るい色のドレスが着たくなったのよね。本当は黄色にしようかと思ったんだけど、はしゃぎすぎですってマーガレットがお小言いうからー」


 失礼しちゃうわよね、と言いながらにこにこと笑っている。

 王妃殿下のお茶会が、こんなに気軽でいいのだろうか。


「そのドレスは、片頭痛の治し方を教えてくれたお礼の一つってことで受け取って頂戴。本当に、本当にありがとう。わたくし、片頭痛に悩まされることが減ってきたの。痛くても暗い部屋でじっとしていたら治るのが早いってわかったのも嬉しかったわ」


 太陽のように笑っているのを見て、ああこっちがもともとの王妃様なんだなあとりのは思った。

 こんな笑顔を見ていたら、先日会った時のような萎れた姿を見るのはそりゃあ辛かっただろうとアルフィオに思いをはせる。


「少しでもお力になれたならよかったですわ」

「少しどころじゃないわ、とってもよ!」


 さあさあ座って、お茶にしましょ、とりのに席をすすめ、アラチェリアは自分も座った。


「まぁまぁチェル様、いくら嬉しいからってそんなにはしゃがれては、リノア様がお困りになってしまいますよ」


 穏やかに進み出てきたのは、この間ストレッチ講座に来ていた素敵なおば様・メアリで。


「リノア様、どうぞお楽に。チェル様のここでのお茶会は本当に私的なものですので、礼儀作法などは深く考えずともよろしいのですよ」

「そう、なのですか?」

「そうよ! たまには楽しくおしゃべりしたいわって時に、絶対安心な人だけをここにお招きしてお茶をするの。だから、あまり肩ひじ張らないで、気楽にしてね」


 本当にいいのかなあ、とちらりロゼリアを見ると、ロゼリアがこっくり頷いている。その横にはマカリアがいて、ねーねーとロゼリアの肩をつついて何か話しかけていた。ロゼリアがお姉さんっぽくて、ちょっと面白い。


(あっ何か本当に気楽にしてよさそうだ)


 そっと辺りをみまわすと、女性ばっかりだったから、本当に気楽にしてもいいのかもしれない。

 護衛の騎士たちも、ロゼリアにマカリア、ディアナ。他に数名いる騎士も女性ばかり。

 それに、これだけアラチェリアが気を抜いているということは、ダルクス関係のスパイはいないのだろう。


(だってこの王妃様、仕事ができる人だもの)


 もう一人のおば様、マーガレットは、穏やかにメリルに話しかけてくれていた。どうやら緊張していたらしいメリルをリラックスさせようとしてくれているらしい。

 メリルが控えめに頷いている。その体から少しずつ力が抜けているのが見ていて分かった。

 王妃様だけではなく、侍女さんたちも本当に有能だ。


 あ、そうだった。


「あの、王妃様、本当に気楽にしてもよろしいので?」

「ええもちろん! あ、チェルって呼んでちょうだいね」

「ありがとうございます。私もリノアとお呼びください」


 そう言ってから、りのはメリル、と声をかけて。


「少しですけど、つまめるものを作ってまいりました。よろしければ召し上がってください」


 と言った。

 メリルがそっと、大きめの浅いかごをマーガレットに差し出す。


「ありがとう、とっても嬉しいわ。拝見してもいいかしら?」

「ええ、もちろんです」


 マーガレットがそのかごをアラチェリアの前のテーブルに置いて、そっとかかっていたふきんを外す。



 まぁ……!!



 アラチェリアはもちろん、侍女たちや近くにいた騎士たちからも、一斉に感嘆の声が上がった。


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