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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第12話 家に帰して



(やっばー! うかつにギロチンだの島流しだの言ったら絶対あとで突っ込まれるやつだったよねコレ! 法律にかこつけた私グッジョブだった危なかったーー!!)


 アルフィオが頭を悩ませているのと同じころ、りのの頭の中は大騒ぎだった。

 わざわざ拷問したような二人を見せつけてきたときは血が下がった気がしたが、何とか持ちこたえられたと安堵する。間違いなくあそこが今日の修羅場だった。今のところ、だが。


(それにしてもほんと食えないやつだなこの宰相! 魔術師団長連れてきてる理由もわからんし! 怖い! ステータスちゃんとペルシャ語になってるかな? 解読されてないよね? 本名名乗らなくてよかったー! 付き合わせて解読されたらなんかヤバい気がする!!)


 表情は変えずに頭の中だけで大騒ぎしながら、りのは改めて気合を入れなおした。

 本格的な交渉はここからだ。

 ローラン王子より強い立場の相手が出てきたが、自分を散々な目にあわせた原因である二人は止めおくことができた。あそこで出ていかれるのがりのとしては一番痛かったので、そういう意味では一本とれたといってもいい。


(だってあの時、宰相さんチッて顔してたよね!? ぜったい王子と息子を外に出すつもりだったよね!? よかったー!!)


 りのを勝手に侍女扱いしたのも、りのを監禁した(たぶん実際のところは盛り上がってるうちに時間をうっかり忘れてたというところなのだろうが)メイドと騎士をつけたのも、この王子たちなのだ。当事者がいないところで話をすすめてごまかされたらたまったものではない。


 さあ、がんばれ私! はやくおうちに帰ろう!!


「……それで、ここはどこなのでしょう」


 宰相はすっと背を伸ばして、改めて説明を始める。


「ここはウェルゲア王国の王城です。私たちが、あなた方をお呼びいたしました」

「そうですか」

「あなた方は聖女として」


 おっとその話はさせないぜ、とばかりにりのは言葉を遮った。失礼な行為ではあるが、ここはあえてである。


「先ほど第一王子殿下にもお話していたのですが」


 そこで一度言葉を切って、目を細める。この顔がなかなかに怖いらしい。友人曰くなので、自分で鏡を見てもよくわからないのだが、威圧感があると言われた。


「あの時、一緒にいた女の子。彼女を聖女と呼んで連れて行ったということは、彼女が聖女なのですよね?」

「……はい。間違いなく、彼女は聖女様です」

「そして、私を侍女と認識したということは、あなたたちが呼ぶことにしていた聖女は一人だったということですね?」


 聖女が一人来ると思っていたから、聖女ではないもう一人は付き添いとか側仕えとか、彼女に属する人間だと考えたということですね?

 宰相ではなく殿下を見て聞く。宰相は慌てて口を開こうとした。


「いえ、」

「そうだ。一人の召還に二人来た。一人が聖女ならば、もう一人は侍女だと思ったのだ」


 にんまりとりのはほくそ笑む。


「ならば、私はあなた方の召還に巻き込まれた、まったく無関係の一般人ということですよね。私は向こうの世界でも一般人、ええと、平民と言えばいいのでしょうか。特別な地位や役割もない、平凡な一市民ですから」


 魔術師団長が死んだ目をしている。

 それを横目で見て、ああやっぱり何か仕事をさせる気だったのだと思った。

 普通に考えれば、一人呼ぶ予定のところで二人来たとして、二人ともがその仕事をできるなら大ラッキーだ。単純に戦力が倍なのだから当然だ。

 しかしこの殿下にそこまでの考えはなかったらしい。自分のミスをカバーできるとしか思わなかったのだろう。ふふっ若いぜ。

 そして、魔術師団長が先ほどの「私は一般人」という言葉を否定しなかったということは、ステータスはバレていない、あるいは解読できていないということだろう。

 ならば今のうちだ。



「では、私がこの国にいる意味はありません。私は聖女ではなく、聖女の侍女でもない。すぐに私をもとの世界に返してください」



 怒りをこめて、強く要請した。

 こんな妙なところにいるなんて、頼まれてもごめんだと強く思う。

 はやく帰りたい。



「……聖女様を、あなたは子どもだと仰いましたね」


 宰相がゆっくりと話し出す。


「彼女には、この世界を救っていただきたくお願いしております。ですが、界をまたいだショックを強く受けておられます。どうか、そんな子どもの聖女様に、今少し、付き添っていただくわけにはいきませんか」

「お答えする前に一つ聞かせてください。なぜ、その話をしていたときにいなかった宰相様が、それをご存じなのですか?」

「いえ、ドアの前で息を整えているときに聞こえてきたものですから」


 しれっと盗み聞きをごまかす宰相に、ダメージにならなかったとりのは内心で舌打ちをする。


「お断りします」

「なに? 聖女を子どもと言ったのはお前だろう、大人なら子供の面倒をみるものだ! 自分の言葉に責任を持ったらどうだ!」

「殿下!!」


 この殿下、ほんとグッジョブだな!! 


「責任は持ちますよ。ですから第一王子殿下、あなたも自分の言動に責任を持ってくださいね?」


 さっき聖女はひとり呼ぶつもりで、お前は侍女ってそういったよな?

 宰相と魔術師団長が何か言おうとしているのを遮ってりのは第一王子をはっきりと睨みつけた。

 う、と息をのみ、自分の言葉の及ぼす影響に今さら気づいたのか、王子は青ざめた。 


「聖女様、と宰相様は仰いました。敬意をもったお言葉です。ならば、彼女の身の安全は保障されているのでしょう、勝手に侍女にされて軽んじられ、監禁され、餓死させられそうになった私と違って?」

「ぐ……っ」

「あの時、私はあなた方が私と彼女を害そうとしていると思ったから、大人として彼女の身の安全を確保しようとしたのです。ですが、その安全が保障されているのなら、あとは彼女とあなた方の問題のはず。何を彼女にさせたいのか知りませんが、協力関係を選ぶのか、拒否するのか、彼女があなた方と話し合って判断するべきです。子どもといえど意志があり、たとえ大人でもそれを無視することはできません。彼女が私の生んだ子どもであるとか、知り合いであるとかならしできることがあるかもしれませんが、先ほども言いましたように、私と彼女に面識はありません。初めて会った知らない人という点では、私もあなたたちと大差ありません。まったくの他人が付き添ってもしかたないでしょう。ましてや、安全の確保された彼女と違い、私はここで監禁され、死の危険を味わわされたのです」


 実際は水もご飯もあったから、おおげさだし詭弁だけど、と思いながらも一気に話して、りのは再度強く要求する。


「私がここにいる意味はありません。無理やり呼んだ責任をもって、さらに侍女と誤り殺しかけた責任をもって、早く私を私の世界へ帰してください。…………まさかとは思いますが、帰し方もわからないのに呼んだ、なんてことは、……まさか、ありませんよね?」



 沈黙が広がる。

 まさかと思って言った言葉がそのまさかだった。

 こいつらマジでクソかよ、と怒りがじわじわ広がって、りのは一度大きく深呼吸をした。

 それでも、声は震えた。

 頭が働かない。真っ白だ。



「…………私たちの世界では、本人の意思を無視して連れ去ることを誘拐といいます。卑怯で下劣で、最低の犯罪のひとつと蔑まれる行為でした。こちらではそんな認識はなく、国の主導で平気で行えるようなものなのですか? それを許すのがこちらの世界の、あなたたちの倫理観なのですか?」



 声を通して広がった深い怒りに、若い二人は身をすくませていたが、大人二人は黙ってその言葉を聞いていた。

 やがて、宰相が静かに声を出す。


「ミハイル嬢、少し時間を頂けますか」

「なぜです」

「私たちがお呼びしてきた聖女様方は、皆こちらの世界に残ることを選ばれたと聞いています。ですから、お返しする魔術に関しては知られていません。詳細な資料をそろえなければならないのです」

「初犯ですらないとは、呆れますね。誘拐の常習犯ですか。残ることを選んだ? 帰れなかったから残らざるを得なかったのでは?」


 ぎっと宰相をにらみつけ、唇に嘲笑を浮かべる。

 りのは怒りを抑えるために、荒く息を吐いた。

 静かなアイスグリーンはりのを恐れることなく見返している。


「そこのところは伝承だけだからよくわからないんだ。召喚の魔術陣は確立しているけど、送還の魔術陣はたぶんどこかに埋もれてるんじゃないかな」


 魔術に関することだからだろう、ユーゴが補足する。


「彼の言った通り、帰し方が現段階でははっきりわかりません。そのような方がいらっしゃらず、そもそも二人召還したことは今までなかったのです。ですから、調べる時間をください」

「…………見つかりますか」

「探します。見つかると断言できず、本当に申し訳ありません」

「…………どのくらいかかりますか」

「聖女に関する資料はあまり多くないけど、召喚術の資料は膨大にあるんだ。動ける魔術師を総動員して探すけど、はっきりしたことは言えなくて……ごめんね」

「ひとまずお時間をください。ある程度結果をまとめて、中間報告をいたします。もちろん、それまでの生活は保障いたします。アルフィオ・シプラストの名にかけて、安心してお過ごしいただけるように手配しましょう」


 そこで王国の名前を出さなかったことに、りのは舌をまいた。第一王子のやらかしをきっちりふまえて、りのの心情に立って生活を保障するといったのだ。王国の名に懸けてとか言われたら、りのは鼻で笑った自信がある。



 ここまでだな、とりのはため息をついた。


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