第119話 お茶会への道
「まぁリノア様、この間のリシェル様からのドレスも本当に素敵でしたが、こちらのドレスも本当にお似合いです……!」
「本当にお美しいですわ……」
朝からお風呂につけられて着付けフルコースをこなし、ぐったりしているりのだが、確かに鏡に映る自分は、自分でないような雰囲気だ。
この間の濃い菫色のドレスはどちらかというと可憐でしっとりしたイメージになっていたが、こちらのドレスだと凛とした、大人っぽい感じになっている。精神年齢は高めのドレスだ、たぶん。
うーん、内面が年食ってること、バレてそう!
色が移り変わっていくのが楽しくて、鏡を見ながらりのはくるくるまわってしまった。
(はぁ、ずっと見てられるわこの色……遊色も角度で微妙に種類が違うのね、ふしぎだ……)
首元は銀灰のショールをまくので、ペンダント類はつけないかわりに、一粒パールのスタッズピアスをつけた。これはりのが向こうから持ち込んだものだ。
実は、出張中に使っていたアクセサリーは、すべてこちらへ持ってこれている。アクセサリーケースにまとめて入れていて、それがスーツケースの隅っこに入っていたからだ。
ただ、あれもこれも出すと疑われるので、このパールピアスと、先日つけたゴールドリーフのアンティークピアスと細い金鎖だけ、身につけていたりポケットに入れていたりして持ってこれた、ということにしてある。事実、パールピアスと金鎖はその時身につけていたし。
パールピアスは、仕事でも遊びでも、ちょっとフォーマルなところでも、どこへでもつけていける少し大きめのサイズ。かなり頑張って買った。とはいえ、仲の良い作家さんに紹介してもらった真珠卸のお店から格安で、だけど。
(イリットもメリルもあんまり驚いてなかったけど、真珠はわりとポピュラーなのかなー?)
スカートの裾が少し短くて隠れないので、靴も紺色のミドルヒールのパンプス的なものを用意してもらった。ハイヒールは少し練習しないと無理、と泣きついて許してもらった。
この世界、なぜかハイヒールがあるし、ブーツもあるし、靴に関しては向こうの世界とあまり変わらない印象がある。むしろ皮がとても柔らかくて足に当たらないし、軽い。魔術でいろいろ付与しているのだと教えてもらった。けれど、あの布を見たら、この靴もすごい魔獣素材で作ってあるのだろうと思った。落ち着いたら魔獣素材について調べて、きっちり「鑑定」してみたい。
今回の紺色のパンプスも、とても履きやすいものだ。ヒールが細いのでバランスは少し危ういが、ロゼリアが支えてくれるというので、安心している。
化粧も整えてもらったし、髪も今日はきっちりめに結い上げている。
着付けと身支度、完了!
「ありがとう、イリット、メリル。メリル、今日も侍女役をお願いします」
「承知いたしました」
「どうぞよい時間となりますよう、リノア様」
イリットが、メリルに手土産の箱を渡すと、ロゼリアが、すっとりのに手を差し出した。
「行きましょうか、リン」
「はい。よろしく、ロゼ」
今日のお茶会は、王宮の一階にある屋内庭園で、と言われていた。りのが王宮の中央棟に入るのは、地味に初めてである。
(いやあ、だって誰かと鉢合わせたらイヤだし)
一度、自室のある左翼棟を出て、王宮の正面玄関から入ると、広々としたホールから直進する広い廊下が奥に向かって伸びていて、そこをしずしずと進む。
左右には時々廊下が現れ、ちらりと見ると重厚なドアがいくつも連なっていた。
「この辺りは客間や応接室、遊戯室などが複数連なっています」
ロゼリアが小声で説明してくれる。
連なる客間や応接室って何だろうねー、と乾いた気持ちで頷いた。
さらに進んでいくと、左右にも大きな廊下が現れた。りのたちが進んでいる廊下と交差して十字路になる。建物の中で十字路ってどういうこと……? と思った。ちょっと白目になった気がする。
どうやら、この横の廊下がパブリックスペースとプライべートスペースの境目になっているらしい。
その大きな廊下の壁には大きな絵画がいくつもかけられていた。どうやら人物画が多いようだったが、画材や額装まではよくわからなかった。
(うう、見たいけど今はがまん……!)
十字路の進行方向、そのほんの少し先に、大きなドアがあった。門かな? と現実逃避したくなる大きさの、たぶんドア。
両横には二人ずつ、銀色の鎧をフルに身につけた騎士が警戒にあたっている。
「近衛騎士団第三部隊副隊長ロゼリア・ティレル、王妃殿下のお召しにより、異世界よりのお客様、リノア・ミハイル様をお連れした」
「「「「はっ」」」」
大きな声でロゼリアが告げると、四人がびしっと敬礼する。そして、ぎしぎしとドアがこちらへ向かって開き始めた。
(うっわ、これ、中にドア開けるためのお仕事の人がいるってこと? すごい警備だな!?)
ドアが開くと、二人の騎士がいた。彼らが開けてくれていたらしい。
そこは、今までの重厚でシックなイメージから一転、明るい、華やかなイメージに移り変わった建物の中だった。
窓にかけられたカーテンも、床に敷かれた絨毯も、今までは濃い赤やワインレッドが中心だったのに、ベージュやクリーム色に花々や小鳥たちの刺繍がしてあったり、浮き織りがあったり。まるで春のようだ。
(あ、そういうことか)
「さあ、参りましょう」
ロゼリアに手をひかれて歩き出す。りのはそっと、春なのね、とロゼリアにささやいた。ロゼリアも頷き返し、もうすぐ変わります、という。
つまり、季節やテーマに合わせて、インテリアを都度変えているのだろう。
何という贅沢、とりのは震えた。
季節感は大事だ。りのも、店や自宅のインテリアやしつらえはその都度変えていた。
だが、りののちっちゃい店や家ならともかく、これだけの規模の宮殿のインテリアを総とっかえとか。
(アタマオカシイ、カネモチコワイ)
口から魂がとび出そうなりのだが、足だけは遅れないようにロゼリアについていく。
この辺りは、王宮勤めの文官たちの執務室や、資料室や図書室などがあるのだという。ちなみに、王族の執務室や居住エリアは二階より上らしい。絶対に近づかない、とりのは心に誓った。
さらにしずしず歩いていくと、あちらからすっと一人の女性騎士が現れた。あれはたしか、この間侍女さんたちにストレッチを教えてた時に護衛としてついて来ていた人じゃないだろうか。
「近衛第三部隊隊員ディアナ・ルベル、異世界よりのお客様、リノア・ミハイル様のご案内に参りました」
かちっと敬礼をする。りのは、ありがとうございます、よろしくお願いしますと告げる。これもリシェルに習っていたので、なんとか返事ができた。
先導いたします、とディアナは来た方向へくるりと振り返り、歩き出した。
その後をついていくと、やっと、やっと廊下の終わり。
(長かったよー、疲れたよー、足痛いよー、もう部屋に戻りたいよー…………)
表情は変えないままに嘆くりのの前には、周囲から少し浮いた濃い紺色のカーテンが二枚かかっていた。
たっぷりとしたドレープが重なり合って、向こう側を完全に覆い隠している。
そこにも左右にひとりずつ近衛騎士が待機していて、ディアナの姿を確認したとたん、恭しくそのカーテンを引き寄せた。
するするとサイドに引かれていくカーテンの向こうから飛び込んでくる強い光に、りのは思わず目を閉じた。
本日はここまでとなります。
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