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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第116話 井戸端会議


 楽しみにしていた美少女とのお茶会→可愛い美少女からのいきなりの罵倒→美のラスボス登場、という謎な流れで、アラチェリア王妃との会合が前倒しになったわけだが。


「本日はお時間をありがとうございます、ミハイル様」

「どうぞよろしくお願い申し上げます」


 この日、りのは自室に二人の壮年の女性を迎え、ストレッチ講座的なものを行っていた。




 お茶会騒動のあった日、りのは王妃様にストレッチを教える約束をしていた。

 王妃様にいきなり教えるのは難しいだろうから、お付きの方を介してやってみてくださいと伝えてある。直接教えるとなると、安全面とかいろいろハードルが高そうだったので、そういう形にしてみた。

 了解を得て、りのの方でも準備を整えて、そしてやってきたのがこのお二人である。


「あらためまして、異世界よりお越しくださったウェルゲアの光と並ぶ方にご挨拶申し上げます。アラチェリア王妃殿下の侍女を務めておりますメアリ・カディラと申します。どうぞメアリとお呼びくださいませ」

「同じく、マーガレット・フリンクでございます。どうぞマーガレットとお呼びくださいませ」


 ダークブロンドに藍色の目のメアリ、こげ茶の髪に茜色の目のマーガレット共に、髪に白いものが混ざり始めているが、優雅で仕草のきれいな二人だった。


(んー、きれいなおば様たち、憧れるー!)


 りのは面を上げてくださいどうぞお楽に、といういつものフレーズを唱えた後、二人にソファをすすめた。

 メリルにお願いして、今日は紅茶ではなく、いくつかのハーブティーを用意してもらっている。


「本当は紅茶をお出しするところなのですが、王妃様にお勧めする前に、王妃様にお仕えする方々の考えを聞いてみたくてこちらを用意しました。頭を締め付けられるような痛みに効果がある可能性があるお茶です。よろしければおつきあいください」


 用意してもらったのは、ジンジャーレモンティー、ミントティー、そしてピペルトのお茶の三つ。

 ジンジャーレモンとミントはりのが向こうでもよく飲んでいたもので、ピペルトティーはイリットから聞いた話を参考に作ってみた。一応、イェルセルに確認をとったりゼノンに毒性がないか確認してもらったりして、安全性は確保している。

 最近友だちになった図書館のスティラにこの話をすると、


「ああ、いわゆる平民の人たちの間の治療用の薬草茶ね。それなら、少し古いけど、この民間療法についての本がいいと思うわ。あとこれと、こっちの薬草図鑑もかな」


 と、すごい速さで資料を出してくれた。ものすごくありがたくて拝んだら、スティラはめっちゃ照れていた。

 お互いにだいぶ慣れてきて、わりと気軽におしゃべりできるようになったのも嬉しかった。



「三つとも、作り方は後で紙に書いてお渡ししますね。これらは、痛みの元になっている筋肉のこりを、体の中を温めてほぐしてくれるものです。この間おすすめしたトルカリアの薬草茶もそうですけど、薬みたいにすぐ治してくれるというものではありません。じんわりと効いてくるものです。どれもおいしいので、おいしいお茶を飲んで、痛みが減ったら嬉しいな、くらいでとらえてくだされば」

「紅茶は、へんずつう、でしたか、それの時以外はお飲みにならないほうがよろしいのでしょうか」

「飲みたくてたまらない時に我慢する必要はありませんが、頭を締め付けるような頭痛にはあまりよくないんです。ですので、これらの中でお好きそうなのがあれば、紅茶も含めて、時間や気分でいろいろ選ばれてはどうでしょうか。紅茶を選ぶ回数は自然に減るでしょうし、飲みたいものを自分で選ぶって結構楽しいことだと思うんです」

「さようですね。アラチェリア様もお茶を選ぶのはお好きでいらっしゃいますし」


 二人は熱心に話を聞きながら、それぞれを味見していく。


「まぁ、このジンジャーレモンティー、本当に体がポカポカしてまいりますね!」

「そうなんですよ、ちょっとピリッとするのがまたいいんですよねー」

「蜂蜜を入れられるのがいいと思いますわ、チェル様は蜂蜜がお好きですので」

「蜂蜜おいしいですものね。ポイズンハ二―ビー、でしたっけ。あれがおいしくてついつい食べすぎます……」

「まぁ、リノア様もお好きでいらっしゃいますか!」

「大好きですね! あ、こっちのミントティーとピペルトのお茶に蜂蜜を入れてもいいですよ。お砂糖でも蜂蜜でも、飲みやすくおいしく、が合言葉です!」

「うふふ、すてきな合言葉ですね」


 そうやってお茶を飲みながらいろいろ話していると、なんか、盛り上がった。


「まぁ、結婚三十年ですか! すごいわ、そんなに長く……!」

「結婚は忍耐と申しますからね……まあ向こうもそう思っているとは思いますが」

「ま、メアリったらこんなことを言ってますけど、それはそれは仲の良い夫婦ですのよ、リノア様。この間だって」

「あ、あら、恥ずかしいからやめてちょうだいマーガレット」

「ええーっ、ぜひ伺いたいわあ、どんなことがあったんです?」

「いえね、メアリの夫は実は第三騎士団の騎士殿でいらっしゃるんですよ」

「えーっ! 私、第三騎士団の専属治癒魔術師をやってるんですよ! 私の知ってる人かな? どの人かしら?」

「まあまあ、すごい偶然ですわね!」


 考えてみれば、このおばさま方と本来のりのは年齢が近いし、りののお店に通ってくれていたお客さんたちにもこの年代の人は多かったのだ。


「そうなのよ、四十を超えたあたりから、右は向けるけど左を向くのが辛くて……」

「うわあ……仕事もですけど、そもそも着替えとか日常の動作で辛かったのでは……」

「そう、そうなのよ! 普通に暮らすことがこんなにも大変なのかと思ったわ!」

「わかります、首を動かそうとしたら、ぴきってなって、そこで動きが止まっちゃうんですよね。私、一時期、左右どっちを向いてもぴきってなってました」

「まぁ、前しか見られないなんて、お仕事大変だったんでは?」

「ほんっとに大変でした……けど、どうしようもなかったから、なんとか気合と根性で乗り切って」

「ああ~~……気合と根性、そうですよねえ……」

「そうなりますよねえ……」

「でもこのままではだめだと一念発起して、ストレッチを始めたんです」

「すとれっち……」



 はっ。



 そういえば、今日はストレッチの講習会だった!


 何だかおしゃべりに夢中になってしまっていたが、今日はストレッチの講習会!


 三人ははたとその事実に気づき、あはは、おほほ、うふふ、と笑いながらそれぞれにテンションを整えて。



「それでは、頭を締め付けられるような頭痛のストレッチについて、お伝えいたしますね!」

「はい、リノア様、どうぞよろしくお願いいたします」

「よろしくお願い申し上げます」



 何事もなかったように、講習へと入っていった。




 りのはこの日のために、何枚かのレジュメを用意していた。まずはレジュメを見てもらいながらストレッチの概略を説明する。

 できるだけ気軽に楽しく取り組んでもらえるように、頭痛の対策としてだけではなく、肌のハリとかたるみとか、小顔にするとかの美容にも効くストレッチ、膝痛とか腰痛とか、頭痛以外の痛みの軽減にも役立つストレッチがあることなどを盛り込んでみた。

 注意事項も説明する。無理をせず痛気持ちいい状態で行うこと、痛いのはよくないこと、呼吸をとめないこと。

 心強いインターネット様に頼りつつ、自分の体験もふまえつつ、基本のところだけをわかりやすくまとめた。


 それから、レノアにお手伝いをお願いしてストレッチの実践をする。

 りのが説明をする必要があるが、ストレッチをしながらだと、体がブレたり声がでなくなったりで二人にわかりにくくなりそうだと思ったので、レノアにストレッチのお手本になってもらうことにしたのだ。

 レノアには前もってこのことは伝えて、一緒にストレッチの練習もしていた。

 呼び込んだレノアは、少し緊張した顔をしていた。


 四人で、ソファの横のスペースに並べた丸椅子にこしかけて、ストレッチをスタート。

 まずはレノアにお手本をしてもらいながら、この動きでどこを伸ばしているのかを説明。

 その後、二人にも実際にやってもらう。

 その時のカウントはイリットにお願いした。明るい声がカウントをとって、最後に「はい、おしまいでーす!」と言ってくれる。


 首回りと肩回りの簡単なストレッチを数種類、無理なくできる程度の強度のものを選んだのだが、今までこういった運動を全くしたことがなかった二人には新鮮だったようだ。

 ストレッチの実践が終わった後、二人でおそるおそる首や肩をまわしては、動くわ……、まわるわ……、と呟いていた。


(いやいやいや、即効性ありすぎでは!? でもストレッチ初体験だからそんな気分になるのかな……ハーブティー飲んだ後だし)



 最後に、このストレッチは最低でも十日から二週間続けないと効果が出にくいこと、長く続けることが大切だということを伝える。


「なので、お茶会は二週間後くらいに、王妃様のストレッチの効果なども見ながらお話できたらと思います」

「承知いたしました。確かにお伝えいたします」

「よろしくお願いします。あの、頭痛対策のストレッチも、それ以外のもいろいろありますから、よかったらまたいらしてください。今日はとても楽しかったです」


 そう言うと、二人は本当に嬉しそうに、楽しそうに笑った。


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