表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/174

第109話 カフェイン、コルセット、深呼吸


 できるだけ手早く、りのは次々に指示をだした。


「次に、王妃様のためにお茶を入れて頂きたいのですが、どなたかお願いできますか」


 ひとりの、こげ茶の髪に薄い青の目をした侍女が進み出てきた。


「王妃様のお茶はわたくしが担当しております。わたくしにぜひ」

「ではお願いします。お茶の担当の方にお願いするには申し訳ない入れ方なのですが、薬の代わりだと思ってご容赦ください」

「はい……?」


 いぶかしげな侍女に、りのはできるだけ濃いお茶をいれてほしいと頼んだ。

 本当はコーヒーの方がたくさん入っているけど、この国にコーヒーはないようなので。

 何かといえば、カフェインである。

 片頭痛は、痛み始めの時であれば、カフェインを摂取すると痛みを抑えられる可能性がある。逆に、緊張性頭痛とかホットフラッシュとかの時にはあまりとらない方がいいと言われているが、今は片頭痛がつらいみたいだから。


「茶葉を通常の倍くらい使ってください。渋くなってしまいますけど、できるだけ、限界を攻めた濃さでお願いします。それから、お砂糖と蜂蜜、それにミルクをカップ一杯程度でいいので温めて持ってきてください」

「ミルク? プレイリーカウのミルクでよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」

「承知いたしました」


 プレイリーカウは、りのもお菓子作りや料理の時に使っているほぼ牛乳なミルクを出す牛さんで、こちらの世界では乳牛として飼育されていた。あのミルクだったら、クセもないし、紅茶と相性もいい。


(これで大体そろうかな? あ、そうだ、もう一つあったわ)


 りのはメリルを手招いて小さく囁く。メリルは頷き、丁寧に礼をして下がっていった。




 しばらくして侍女が貴賓棟から二人戻ってきて、すばやくアラチェリアのまわりを分厚いカーテンで覆い、コルセットを外し始めた。


 ガーデンテーブルを中心に、リシェルの侍女やロゼリアたちも手伝ってぐるりとカーテンで囲む。

 背の高いマカリアが両腕を伸ばしてカーテンを支え、上の方を屋根のように覆った。これだと階段からも屋敷からも見えはしない。

 りのは一度、ガーデンテーブルから離れた。

 ここからの作業は、りのの手が触れない方がいい。アラチェリア王妃とは初対面で、信頼関係を築く前段階だ。疑われるような真似をするのは避けたかった。


「チェル様、座ったままで構いませんので、失礼いたしますね」


 中では、手早くドレスをはだけてコルセットを外しているらしい。

 ちなみに、こちらの女性は、コルセットの下にも薄手の下着を身につける。りのはめんどくさくてほとんど着ていないが、たいていシルクでできていて、肌触りは悪くなかった。


 時間かかるかなあ、護衛騎士たちが戻ってくる前に終わるかなあと気をもんでいたが、侍女たちはさすがだった。ものすごい早業であっという間に終わったのだ。


「皆さま、ご協力ありがとうございました」


 先ほど、一番先に口を開いた少し年配の侍女が、カーテンの隙間から出てきて丁寧に頭を下げる。同時に、はらはらとカーテンが下ろされ、さっさと畳まれていく。

 侍女たちの美技に、こんな時ではあるがりのはうっとりした。


 アラチェリアは、コルセットが外れたことで少し息がしやすくなったのか、ほっと息をついていた。

 これなら、呼吸を整えてもらったら効果があるかもしれないな。


 りのは、侍女に断りを入れてから、そっとアラチェリアに近づいた。


「王妃様」


 ささやくように声をかけると、アラチェリアがけだるげにこちらを見た。壮絶に色っぽい。いやいやそれどころじゃないぞ私しっかりしろ!

 ついついきれいなものに頭をもっていかれがちな自分を叱りつけ、りのは薄くほほ笑むいつもの顔をした。


「少し、呼吸を整えてみましょう」

「?」


 うーん、深呼吸という概念はこちらにはなかったり?

 まあいいや、息を吸って吐くことだから、こっちでも違和感はないはず。

 思考を放り投げて、りのは続きを口にした。


「呼吸を整えることで、体の中を整えていく方法です。頭が痛いと呼吸が浅くて苦しくなりがちですから、呼吸しやすいように手順をふみましょう。まず、両手のひらを下腹部、おへその少し下あたりにあててみてください」


 そっと、アラチェリアがほっそりとした下腹部に手を添えた。


「いち、に、さん、し、と数を数えていきます。それに合わせて、息を吸ったり吐いたりしましょう。まず、四つ数える間、鼻から息を吸います。そして、その吸った息を、口から八つ数える間に吐き切ってください。息を吸ったときにお腹がふくらんで、吐いたときにはへこむようにしましょうね」


 かすかに頷くのを確認してから、侍女さんに、四つと八つをゆっくり、繰り返して数えてもらうようお願いした。


「じゃあ始めましょう」

「は、はい。では参ります。――いち、にい、さん、し、」

「鼻から吸いましたね? ハイ次は口から吐きますよー」

「…………ろく、しち、はち。いち、にい」

「はい吸って吸ってー、お腹は膨らんでますかー。はい、ここからは口から吐いてー」


 アラチェリアはいつの間にか目を閉じて、呼吸に集中している。

 ゆっくりゆっくり、息を吸って吐いて。

 大体二十回くらい繰り返したところでストップをかけた。


(あ、少し体から力が抜けてるっぽい。ちょっとはリラックスしたかな?)


「……息苦しさが、すこし、減ったわ」


 王妃がささやくように告げて、かすかに微笑む。

 ああこんなに辛そうなのに、それでも周囲にフォローを入れるのか。すごいなあ。


「呼吸を整えることで、ずきんずきんとする頭痛も、頭をぎゅっとされる頭痛も、痛みや回数を減らす効果があります。時間のある時や呼吸が浅いなと思ったときに試してみてくださいね」


 アラチェリアはうっすら笑って、ひとつ頷いた。




 やがて、いくつものテーブルと椅子をかついだ護衛騎士たちが戻ってきた。重そうな鉄製のテーブルをひょいと脇に抱え、あるいは肩に載せて軽やかに階段を下りてくる。力持ちだなあ、とりのは思った。

 レンデリーア家の執事たちも一緒に来ていて、護衛騎士たちに位置を示して配置してもらい、すぐさまお茶席のセッティングに取りかかっている。

 こちらも熟練の動きで、見ていて優雅できもちがいい。

 あっという間にセッティングを終わらせ、そちらにティアーヌ王女とリシェルを誘導していた。


 リシェルがちらりとこっちを見てきたので、小さく頷いておく。

 具合の悪い母親の様子を見続けるより、おいしいお菓子とお茶で一休憩するほうがいいだろう。これから彼女の周りでは人員の整理が始まる。それは大きな環境の変化となるだろう。信頼できる侍女がそばに戻ってくるとはいえ、適度に気を抜いておく方がいい。

 二人はそっとアラチェリアの元から離れ、木陰近くのガーデンテーブルへ移動していった。ユーフェミアとソニア、それにリシェルの護衛騎士たちもそちらへ。リシェルの侍女は二人ほどこちらへ補助として残るようだった。




 やがてもう一人の侍女とメリルも戻ってきて、必要な道具が手元にそろった。



(よし、やるかー。もし効かなかったら、私に「ペインキラー」と、「リカバリー」か「ヒール」をかけさせてもらうしかないな……)



 りのはまず、五感の刺激を減らすところから始めた。

 アラチェリアの侍女たちに、静かな声でお願いをしていく。


「この黒のレースを、そっと王妃様の顔の前に垂らしてください。日光を遮って視界を暗くしたいのです。そう、庇みたいに――――ああ、いい感じですね」


 赤珊瑚の髪飾りをピン代わりにして、ゆるく黒レースをとめて顔の前に下ろす。

 次に、スライム紙に塩のかかった氷をいくつか包ませ、それをハンカチでくるむように指示を出した。


「王妃様、今、一番ずきずきしているのはどこですか? 指をさしていただけますか?」


 王妃の細い指が、こめかみの少し上をさす。


「ありがとうございます。どなたか、この氷を今王妃様が指をさされたところにそっと当ててください。王妃様、少しひやりとしますが大丈夫ですからね」



 りのは柔らかく囁いた。




本日はここまで。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ