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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第107話 乱入その二!


「ずいぶんと興味深い話をしているわね」



 いつの間にか、りのたちが立っているガーデンテーブルの近くに、人の一団が近寄ってきていた。

 一団。一人や二人ではない、一団だ。


(いつの間に!? ……って思ったけど、ここ貴賓棟のお庭だったっけ。隠し通路の一つや二つはありそうか。そこを使ったんだとしたら、この人は)


 先頭を歩いてくるのは輝くような深紅の髪の女性騎士。その後を近衛騎士らしい男たちが、何かを守るようにとり囲んで歩いている。その囲みの後ろからは、複数の侍女らしき女性たちが楚々と付き従っていた。

 そのよく響く声は、囲みの真ん中から発せられていた。


 リシェルが真っ先に、そして周囲の侍女や騎士たちも、王族に対するカーテシーや敬礼をとった。


(やっぱりそっかー。えー、私はどうしたらいいの?)


 迷って、ファルカを抑えているロゼリアを見ると、口パクで「そのままで」と教えてくれた。さすがロゼありがとう! という気持ちで小さくほほ笑み、姿勢を正す。ロゼリアも、ファルカを取り押さえたままできる範囲で礼をとっていた。



「わたくしもお話に混ぜて頂けるかしら」



 囲いがさっと裂け、りのとファルカ、ロゼリアの前に一本の道が開く。

 そこから、一人の美しい女性が堂々と、けれど気品高く歩み寄ってきた。


 すらりと背が高く、女性らしいボリュームのあるボディラインが魅惑的だ。胸は豊かで腰は細い。

 紺碧のつややかな髪の毛を緩く結い上げ、そこに小さな、けれど高品質の、おそらく赤珊瑚の大きな一粒玉の髪飾りをつけている。玉かんざしのようなものかもしれない。紺色の海に浮かぶ赤珊瑚は、華やかで壮大な雰囲気を醸し出していた。

 まとっている銀がかったグレーのドレスはシンプルなAラインだが、布が素晴らしく上質に見える。あのレベルの艶と滑らかな質感の布を、こちらの世界で初めて見た。紺碧の髪と白い肌によくなじんで美しい。それに、なるほど、あの布の質感を前に出すために、あえて色味を抑えていると見た。


(ああー、目の色は違うけど、やっぱりティアーヌ王女にそっくりだー!)


 大きな丸い目は、透明度の高いエメラルドの色をしていた。緑の中の緑、真実の緑の色。すいこまれそうな迫力ある美しい目だ。


(美でひれ伏させる感じ~~! いやこれはひれ伏したいわ、すごい美人だわ、私の中の美人の概念がアップデートされる―! 概念破壊ありがとうございまーす!!)


 うっすらと微笑んだまま、頭の中では美人フィーバー。

 そんなりのの前に、美しいひとはやってきて、穏やかに微笑みかけてきた。



「異世界よりのお客様、さきほどあなたが言われていたことを、わたくしからこの侍女にもう一度聞いてもよろしいかしら」



(王妃様、私が誰か知ってるしさっきの話もきいてたっぽいなー。オッケーこの場ではお味方ですね!)


 ファルカも同じように、この高貴な女性が自分の味方だと感じたのだろう。

 りのがうなずくより早く、大声で叫び始めた。



「王妃様、お助けください! 私は何も悪いことはしていません、ティア様にちゃんとお仕えしています! それなのに、このアバズレは、学園をサボり、ロロ様に色目を使い、カティ様を連れ込んでいるのです! 早く捕まえてください!」



 いやあすごいなあ、真相を知ってると面白すぎる。

 思わず口の端がひくひくして、腹筋が暴れ出しそうになるのを抑えた。

 ちらりと見ると、真相を知らないティアーヌは青ざめていたが、リシェルは無から少しだけ無表情に戻っていた。面白くて怒りが弱まったのかもしれないとりのは勝手に想像する。


「ねえあなた。本当に、こちらの、この女性が、そのようなことをしていたのを、自分で確認したの?」

「もちろんですうううう!」



 チェックメイト。



「捕らえなさい。この女だけではなく、ティアーヌ王女の周囲に侍るものすべて、取り押さえて尋問を」

「「「「「は!!」」」」」


 涼やかな声での命令に、騎士たちが一斉に頭をさげて動き出した。




「へ?」




 茫然とするファルカ。

 そのファルカを抑えるロゼリアに、深紅の髪の女性騎士が近寄って、親し気に声をかけた。


「ロゼ、私がかわるよ!」

「マカリア隊長……大丈夫ですか? 力を込めすぎてはだめですよ、折れますからね? 折れたら書類が増えますからね? 私は手伝いませんよ?」

「軽くだよね、がんばるー」


 ああ、あれがウワサのティトルアンの暴走騎士様かあ。

 にかっと笑う様子はたしかに貴族の淑女らしくはないのだろうけど、サバサバしていて気持ちのよい笑顔だ。どことなくフィリベルと似ていて同じ血を感じた。


「よいしょっとお!」


 片手で軽々とファルカの両手をひねりあげ、手早く縄を打つ。


「ど、ど、どうして、どうして王妃様、」


 王妃は、その声に一切の関心を向けなかった。

 その代わり、りのに向き直ると、ゆるやかに美しいカーテシーをとる。



「初めまして、異世界よりおいでくださった、リノア・ミハイル様。お会いできて光栄です。私はアラチェリア・フィリス・ウェルゲア。この国の王妃です」



 ティアーヌが目を真ん丸にし、ファルカが声なき悲鳴をあげた。

 笑いをこらえながら、りのも王族に会った時用に教わっていたカーテシーを返す。



「こちらこそはじめまして、ウェルゲア王妃殿下。私は異世界より呼ばれました、リノア・ミハイルです」



「あ、あんた、じ、侍女、侍女のほう、」


 震える声で言うファルカに、王妃は冷え冷えとした目を向けた。


「本当に礼儀がなっていないのね、ファルカ・エスタリ伯爵令嬢。まあいつまでその名を使えるかは知りませんが」


 おおう、こっちも怒っていらっしゃる。

 まあまともな親なら子供を粗略に扱われたら怒るよねえ。


「学園に通っていらっしゃらないリノア様のお姿を、あなたはどこで見たのかしらね? まあその辺は、ゆっくり牢の中で聞いて差し上げましょう。それに、」



 王妃はすうっと表情を消した。

 今まで浮かべていたわずかな微笑みがないだけで、おそろしく酷薄な表情になる。りのの背中にもひんやりしたものが走った。



「十近くも年下の第一王子や公爵令息を勝手に愛称で呼ぶあなたの方が、よっぽど色目遣いのアバズレとやらなのではなくて?」



 その一言は、ファルカの中にかろうじて残っていた怒りのエネルギーさえ消し去ったようだった。

 茫然とした様子で動かなくなったファルカを、マカリアはひょいと担ぎ上げ、「ぶち込んどいて―」と近くにいた騎士に投げ渡す。

 渡された騎士は驚きもせずよいしょ、重いなこいつと呟きながら、さっさと運んで行った。あれはたぶん、ファルカに聞かせるために言っている。騎士たちも怒っているのだろう。



「リシェル嬢」

「はい、こちらに。ウェルゲアの太陽と並ぶ美しき星々の女王、アラチェリア王妃殿下にご挨拶申し上げます」

「楽にしてちょうだい。いろいろ迷惑をかけたわね」

「とんでもございません」


 ああこれはやっぱり裏がありそうねーと思う。思うが突っ込む気はない。関わらないのが一番だ。

 続けて、アラチェリア王妃は自分の娘を呼んだ。


「ティア」

「お、お母様、」

「……さみしい思いをさせてしまったわね」


 ぶんぶんと首をふる。アラチェリア王妃によく似た紺碧の髪が勢いよく揺れ、髪がぼさっとしていく。

 その様子に苦笑しながら、王妃はおいでなさい、と膝をついてから両手を広げた。

 ティアーヌは、ためらいながらもそっと近づいて、母親の胸に抱きつく。

 王妃がそっと娘を抱きしめると、抑えきれない嗚咽が小さく響きだした。


「ごめんなさいねティア」

「お、おか、お母様、ご病気は? だいじょうぶですか? し、死んだり、しない、ですよね?」

「ええ、大丈夫よ」


 またあとでゆっくり話しましょう。

 そう言って娘を離し、母親からひとりの為政者へと顔を変えた。

 そして、ゆっくりとりのの方へ向き直る。


(あらー、これ具合悪いのね、化粧でなんとかごまかしてる感じか……)


 よくよく見ると目の下のクマはおしろいでは隠せていないし、血色よく見せようと濃いめに入れてあるチークが逆に不自然だ。

 それに、ひくひく痙攣しているまぶた。顔をしかめて痛みを逃がそうとしているのを必死にこらえている感じ。


(でもさっきはそんな気配みじんもなかった。すごいなこのひと、体調不良を責任感でがっちり押し隠したんだ。王妃様なんだなあ)



「異世界人リノア・ミハイル様、先ほどの侍女、そして我が娘ティアーヌの無礼、わたくしが深くお詫び申し上げます」



 深く礼をして頭を下げたが、その時。



「王妃様!」



 ふらりと王妃の足元が崩れて、よろめいた。



今日はここまで!

お読みいただきありがとうございました。

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