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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第1話 インドアアラフォー、誘拐される


初投稿です。

楽しんでいただければ嬉しいです。

 

 その日彼女は、大きなスーツケースをころころ引きながら大型ショッピングモールを歩いていた。

 出張から自宅のある地元へ帰ってきたところで、テンションが高い。


(出張帰りの買い物ってなんでこんなテンションあがるんだろうなあー。出張前に冷蔵庫の中身使い切ったから、いろいろ買えるの嬉しい。先に荷物送ってスーツケースほとんどカラにしたの、グッジョブだった私。下着と着替えが少しに化粧品くらいしか残ってないもんね)


 ころころと転がるタイヤの音も軽やかで、久々に家に帰れて嬉しい気持ちを歌っていた。


(うーん、重くなりそうだし、思い切ってタクシーで帰ろうかな。今回の催事はしっかり売れたからちょっとぜーたくしよ。ごほうびごほうび! わーい!)


 深春りの、四十歳。

 みはる、という、名前みたいな苗字の彼女は、表情こそ穏やかに微笑んでいることが多いが、内心では喋りまくっているタイプだ。

 心の中ではさわがしくしゃべりながら、スーツケースがよそ様にぶつからないよう苦慮しつつ、ぽいぽいカートに欲しいものを放り込んでいく。


(明日から家に居られるの嬉しいー。あ、今日は家で一人焼肉しよう! お肉、野菜、あとショウガとニンニクかな。柚子胡椒も忘れずにっと。お惣菜と、水と炭酸水。お茶はお茶っ葉のほうかな)


 時間はちょうど午後のお茶の時間くらいだ。

 買い物をして家に帰って、一息ついてから夕飯の支度をしよう。


(ビールもちょっといいのを買おう。ワインと日本酒は家にあったよね。あ、チョコ、いいやつとチープなやつと両方買おう。ちょっとお高いポテチも買っちゃお。コンソメとのり塩とどっちかなあ……うん、のり塩で!)


 外出がそれほど好きではなく、仕事もあるので、りのは基本的に買いだめすることが多い。

 今日のような買い物も慣れたもので、冷蔵庫にあるものやストック品の種類や量などは大体把握していた。独身の一人暮らしなので、そもそも買い物する量が少ないというのもある。


(あ、奮発していいお米買っていこう。……うっわ高っ! どうしよう……でも、どうせタクシーだし、重いの買っても大丈夫なのってこんな時くらいだし、いっちゃえ! でも五キロは高いから三キロで……)


 ここ最近は、都会のレンタルスペースで開催するイベントの準備で忙しくしていたので、買い物も久しぶり。


(あ、ついでに切れかけてるものも買っていくか。補充しとけばしばらく外に出なくていいもんね! みりんと料理酒と砂糖はこの間買ったし塩も大丈夫。ごま油とお味噌とお醤油……ついでに白だしも。そうだ、パンも買って帰ろ)


 ついでとばかりに味噌や醤油といった重いものもカートに入れる。目についたものをほどほどに吟味しながらぽいぽい買っていくのは楽しい。

 さらにドラッグストアで鎮痛剤や生理用品を買い足し、ついでにシャンプーとコンディショナーもポイント十倍だったので購入。

 パンはショッピングモール内のおいしいベーカリーで何種類か買い込む。バゲットにクロワッサンに総菜パン、それにふわふわの食パン。


(よっし、これでしばらくはおうちでのんびりできる! 長期の出張明け、バンザイ!)



 りのは、美術工芸品を取り扱う小さなセレクトショップをやってていた。

 自宅の一部を改装したショップで仕入れたものを売ったり、都会のレンタルギャラリーを借りてイベントをやったりしながら、ほそぼそ、のんびり仕事をしている。

 商売を生業としているので人と会うことに嫌悪感はないが、出不精で、自分のショップ以外のところでのイベントは年に一度だけ。もっときて~、もっとやって~と言われても、困ったような笑顔でかわしている。


(今回のイベント、新しい作家さんのがよく売れてよかったなあ。あの作家さんのサムホールの羊可愛かった……私がほしかったああぁぁ! それに、ステンドグラスも結構出てたね。ちょいレトロなデザインとあのやわらかい色がきれいだったから定期的に仕入したいなあ。イベント売りもいいけど、やっぱり自分のショップで売りたいもんなあ)


 旅行やイベントが嫌いなわけではないが、何より自分の店が、自分の家が好きなのだった。

 休みの日は一日中家にいたいし、出張の前などは、おうちから離れちゃう……と、ちょっぴり、いやけっこうブルーになってしまう、筋金入りのインドア派なのである。

 とはいえ、それも今どきでは珍しいことでもないだろう。


(おうち帰ったら、焼肉しながらビール飲んで、この間ダウンロードしたドラマみよう。明日はゆっくり寝てから、うちのかわいくてきれいな(商品)たちを眺めてニマニマしよう! お店は……まあしばらく閉めといてもいいか。おうちでのんびりして英気をやしなうのだ!)



 独身で、仕事でも趣味でもそこそこやってみたいことがあって、自宅でのんびりすることが大好きな、そんな、ごくごく一般的な女性だった。



 このときまでは。





 買ったものをスーツケースとエコバッグ二個にぱんぱんにつめて、タクシー乗り場へ向かっている時だった。

 手に食い込む重みに耐えながら、今夜の夕飯に楽しく思いをはせていると、唐突に全身から力が抜けた。くらっとして膝が折れる。


(え、貧血!? どのくらいぶり!?)



 あわてて足を踏ん張ろうとした瞬間、アスファルトの上に金色の光が立ち上る。

 同時に、踏ん張ろうとした足がすこんと地面を突き抜ける感触。

 抵抗も何もなく、りのの意識は闇へと溶けた。


しばらくは一日に数話ずつ投稿する予定です。

ストックがなくなったら、一日一話になると思います。

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