第8話 復讐の剣と別れ
王女が誕生した夜。
しかし闇は静かに忍び寄り、命を奪い去る。
セルヴィアの広場でアリアが王女となったその夜。
王都の裏路地に、黒装束の一団が忍び込んでいた。
「王女アリア……あんな小娘にこの国を治められては困る。」
「消す。それでまた混乱し、利が転がり込む。」
その目は冷たく光り、獣のように笑った。
だがその動きを、一人の男が察知していた。
三兄弟の末弟――ガルド。
夜風に運ばれる小さな音に、獣のように耳を立てる。
(……やべぇ。これ……王女様を狙ってやがる!)
次の瞬間には、飛び出していた。
「兄ちゃんらに知らせるヒマなんかねぇ!!」
闇の中で刀を抜き放ち、叫び声とともに突っ込む。
「この野郎どもがァ!!」
火ではない、生身の力だけで。
敵は驚きつつも次々に群がり、刃が何度もガルドの体を掠める。
血が弧を描き、地面に赤い花を咲かせた。
「くそっ……まだ来やがるか……!」
それでも歯を食いしばり、刀を構えて唸る。
「王女様には……絶対、指一本触れさせねぇ……!!」
最後の賊を叩き斬った時、ガルドの体はもう限界だった。
壁に背を預け、そのままずるりと座り込む。
(……これで……守れた……な……兄ちゃん……アベル……)
小さく笑うと、静かに瞳を閉じた。
翌朝、血に塗れた賊たちの骸と共にガルドの亡骸が見つかった。
その墓標の前で、長兄と次兄は肩を震わせていた。
泣きながら拳を地面に叩きつけ、嗚咽混じりに叫ぶ。
「なぁアベル……!俺たちも連れて行ってくれ!
このままじゃ気が狂いそうだ……!復讐させてくれよ!」
「頼む……弟の仇を討たせてくれ……!」
アベルは静かにその姿を見つめ、やがてゆっくりと言った。
「……お前たちは、アリアを守れ。
今のお前たちはまだ……復讐に囚われすぎてる。」
長兄と次兄は悔しそうに歯を食いしばり、
やがて泣きながらも力強く頷き、王女の護衛へと戻っていった。
アベルは剣を肩に担ぎ、イリオスと共に城門を出る。
(……次は、他の国だ。腐り切ったこの世界を、必ず一つに)
夜明けの風が二人の髪を揺らした。
最後までお読みいただきありがとうございます!
守るために剣を取った男。
弟の命を抱えて、アベルは次の戦いへ向かいます。
第二章、ノルド編へ――。