第7話 小さな王女
優しく、清らかで、それでも人を気遣う少女。
この国に再び祈りを取り戻す、その名は。
王都は完全に落ちた。
三兄弟が泣きながら兵を追い回し、
イリオスが冷静に残敵掃討を指揮し、
アベルは玉座の間で腐敗したセルヴィア王を追放した。
その翌日。
アベルはイリオスに小さく耳打ちし、兵を数人呼び寄せる。
「例の村に行って……あの子を迎えに行け。」
兵たちは少し戸惑いながらも敬礼し、馬を走らせていった。
村の広場で、人々に優しく声をかけていた少女。
「大丈夫?怪我はない?」
そこへ現れたアベルの兵たちが馬を降りて深く頭を下げた。
「……っ!」
少女は驚き、少し後ずさる。
「な、何ですか……?」
兵たちは顔を見合わせ、少し困ったようにしながらも真剣に言った。
「アベル様が、お呼びです。」
王都の広場に連れて来られた少女は、緊張で小さく震えていた。
多くの人々が集まる中、中央に立つアベルがじっと見つめてくる。
少女が恐る恐る近づくと、アベルは少しだけ眉をひそめた。
「そういや……お前の名前、まだ聞いてなかったな。」
「……え?」
少女は戸惑いながらも、小さく胸元の十字架を握りしめた。
「……アリアです。」
「アリア。」
アベルはその名を小さく繰り返し、静かに頷いた。
「俺はこの国を治めるつもりはない。
だけど、お前なら……この国を導ける。」
アリアは瞳を潤ませ、小さく首を振る。
「私なんかに……」
「お前だからだ。」
アベルの真っ直ぐな声に、アリアはついに涙を零し、小さく頷いた。
その場で行われた簡素な任命式。
アベルが剣を地に突き、膝をついて頭を垂れると、
人々が次々に跪き、アリアを新たな王女として迎え入れた。
だがその後方で、集まった貴族たちが声を潜めて囁き合っていた。
「所詮は村の娘だぞ……」
「血筋も何もないではないか。いずれ国は乱れる……」
「いずれ、こちらで……」
「ん?」
いつの間にか背後に立っていた三兄弟が、肩を並べて睨んでいた。
「今、なんつった?」
貴族たちは一気に顔を青くして視線を逸らす。
三兄弟はにやりと笑い、大きな手をパキパキと鳴らした。
「陰口叩くヒマあんなら、王女様を支える算段でもしとけや。」
その光景を見て、アリアは少しだけホッとしたように微笑んだ。
アベルはそんな彼女を見つめ、静かに剣を肩に担ぐ。
(この国は、もう大丈夫だ。)
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優しく、人を気遣う少女アリア。
その微笑みが、セルヴィアに再び祈りを戻す。
しかしその夜、別の国から忍び寄る影が。