第5話 誓いの三兄弟
少し長くなっちゃいました( ̄∀ ̄)
真っ直ぐで少しおバカな三兄弟、そして悲しみの中でも人を気遣う小さな少女。
この出会いが、やがてセルヴィアの未来を繋いでいく。
アベルとイリオスは、小さな村へ辿り着いた。
そこは腐敗した兵たちに好き勝手に荒らされ、
家々は焼かれ、畑は踏みにじられ、村人たちは怯えきっていた。
「……放っておけねぇな。」
アベルが剣の柄を軽く叩く。
イリオスは肩を竦め、太陽のように笑った。
「さすがだな、アベル。やっぱりお前はそうじゃなきゃつまらない。」
村を占拠していた兵たちは、アベルの紅黒の炎の前にあっさり崩れた。
剣が閃き、火が唸り、兵たちは怯えて逃げ散る。
その光景を見て、村の奥から三人の大柄な男たちが走り出てきた。
「お、おいあんた……今のはお前がやったのか!?」
一番体格の良い男が、興奮したように声を上げる。
「……あぁ。」
アベルが短く答えると、三人は顔を見合わせ、次の瞬間に地面に膝をついた。
「俺たち、あんたに命預ける!!」
「兄ちゃん!俺らなんでもやる!なんでも言ってくれ!」
「あんたがいりゃ、この村も国も絶対守れる気がするんだ!」
あまりの勢いにアベルは面倒そうに眉をひそめる。
「勝手にしろ……」
「ははっ、やっぱりそう言うと思ったよ、アベル。」
イリオスが肩を揺らして笑う。
三兄弟はそれでも屈託なく笑い、
大きな手でアベルの肩を何度も叩いた。
「よっしゃあ!これからは俺ら、兄ちゃんの剣と盾になるからな!」
三兄弟を引き連れ、さらに別の村へ向かったアベルたちは、
またしても腐敗しきった兵たちに蹂躙されている光景を目の当たりにした。
焼かれた家。倒れた人々。
その中で、小さな体を必死に隠していた一人の少女が、
恐怖に揺れる瞳でこちらを見た。
「お願い……助けて……」
アベルは迷わず剣を抜き、燃え上がる炎を纏って敵兵へ踏み込んだ。
兵たちはその紅黒の炎に怯え、次々に剣を落として逃げ出す。
やがて村に静寂が戻ると、アベルはゆっくりと少女の元へ近づいた。
「……ご両親は?」
震える肩にそっと問いかける。
少女は潤んだ瞳のまま、かすかに首を振った。
「もう……いないの……」
その言葉にアベルは小さく息を詰めた。
だが少女は胸元に下げた小さな十字架のネックレスをぎゅっと握りしめると、
涙をこらえながら周囲の倒れた人々を見渡し、弱々しくも優しく声をかけた。
「ねぇ、大丈夫?……誰か、怪我してる人はいない?」
その声は小さく震えているのに、不思議な温かさを帯びていた。
(……悲しみのど真ん中にいるのに、他の人を気遣えるのかよ。)
アベルは唇を引き結び、その頭にそっと手を置く。
その様子を少し離れた場所で見ていた三兄弟は、
鼻をすすりながらゴシゴシと涙を拭っていた。
「……ぐすっ……なんて優しい子なんだ……」
「……もう許せねぇ……俺、あの残りの奴ら……」
「おう……絶対ぶっ飛ばす……!」
次の瞬間、彼らは泣きながら刀を振り回し、森の中へ駆けていく。
「待て待て!お前らどこ行く!!」
イリオスが慌てて追いかけるのを、アベルは少し呆れたように見送った。
(……まぁ、頼もしいっちゃ頼もしいか。)
それが、後にこの少女を王女に迎えることになる、
最初の出会いだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
不器用で涙もろい三兄弟、そして悲しみの中で他人を気遣える少女。
次回、アベルはついにセルヴィア奪還へと動き出します。