第4話 軍師との邂逅
剣の腕だけでは国は取り戻せない。
ここで、アベルは初めて「知恵」を得る。
ユダルを弔ったあと、アベルは小さな荷物を肩にかけて旅に出た。
街を離れ、ひび割れた道を一人歩く。
(……復讐じゃない。守るために。)
胸の奥で何度も繰り返す。
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だがそんな決意も、現実はすぐに汚す。
旅の途中、小さな集落の手前で
「助けてくれ!」と叫ぶ声が聞こえた。
駆け寄ると、泥道の上で数人の賊が男を囲んでいる。
「おい、財布出せって言ってんだよ!」
「待て、これはセルヴィアの……」
男が言いかけたその時、賊の刃が振り上がった。
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アベルは剣を抜き、炎を纏わせて走る。
「なんだこいつ!? 火が……ぐわあああ!!」
黒紅の炎が賊を包み、男は転がるように逃げる。
残りの賊も怯え、悲鳴をあげて森へと消えていった。
アベルは一息つき、炎を鎮める。
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「……脳がないな。」
地面に座り込んだ男がぼそっと呟いた。
「……何だと?」
アベルが剣を突きつけると、男は薄く笑った。
「目の前にいる奴らを片付けるのは簡単さ。
でもあそこで剣を抜かず、口先だけで追い払えば
周囲にどれだけ“自分の力量”を悟らせずに済んだか――」
アベルはじろりと睨んだが、男は怯える様子もなく、逆に楽しそうに言葉を継いだ。
「まぁ、お前みたいな単純馬鹿がいるから、俺の頭が役立つんだがな。」
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「……何者だ。」
アベルが剣を下げながら問うと、男は胸を軽く叩く。
「俺はイリオス。元セルヴィア軍の軍師だ。」
「軍師?」
「お前、国を取り戻したいんだろ?だったら俺の頭を使え。
お前の剣と、俺の知恵。悪くない取引だろ?」
アベルは少し黙り込み、そして剣を鞘に納めた。
「……勝手にしろ。」
イリオスは肩を揺らして笑った。
「いいなぁ、その素直じゃないところ。」
こうしてアベルは、剣だけじゃなく
初めて「知恵」という仲間を得た。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回、アベルはさらに大きな縁を手にします。
それは、この先の戦いに欠かせない大きな力となる――。