第3話 託された想い
不器用な男が教えてくれたのは、剣の振り方だけじゃなかった。
その想いは、アベルの胸に深く刻まれる。
それからの日々、アベルはユダルに剣を教わった。
森の奥に作った小さな空き地で、何度も地面に転がされる。
「力だけじゃダメだ。重心を落として、膝から打て。」
「ちっ……!」
足元を払われ、また地面に転がった。
泥と血の匂いが鼻を突く。
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夜は焚き火を囲み、ユダルのぼろ布のようなマントに包まれて眠る。
時折ユダルが薪をくべると、火の粉がアベルの髪に落ちた。
「……お前、やけにこの炎に詳しいよな。」
ぼそっと問いかけると、ユダルは少しだけ視線を外した。
「さぁな。人には……色々ある。」
それ以上は何も答えなかった。
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ある日、ユダルの呼吸が浅くなっているのに気づいた。
「……おい。」
ユダルは薄く笑い、空を見上げる。
「そろそろ寿命だ。カイの血も……たいして長生きはできねぇ。」
アベルは言葉を詰まらせた。
「俺はお前に……復讐を教えたんじゃない。
守るための剣を教えたつもりだ。」
静かに目を閉じるユダルの横で、アベルは唇を噛んだ。
「……俺は……」
「贖罪じゃなく……守れ。お前の炎は……誰かを焼き尽くすだけのもんじゃねぇ。」
それが、ユダルの最期の言葉だった。
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次の日、アベルは石を積み上げ、小さな墓標を作った。
(……俺は復讐じゃない。守るために剣を振る。)
風が吹き抜け、木々の葉を揺らした。
どこかでユダルの笑い声が聞こえた気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これからアベルは、ユダルの言葉を胸に新しい一歩を踏み出します。
次回は旅立ちの先で出会う、新たな仲間たちの物語です。