第2話 ユリアの剣とユダル
燃える復讐の炎。
その炎を鎮めたのは、忘れ去られた祠に残された一本の剣だった。
街から逃げるように森へと走り込んだアベルは、
荒い息を吐きながら朽ちた小道を進んだ。
血の匂いがまだ鼻について離れない。
(全部、俺がもっと早く気づいていれば……)
胸の中で何度も自分を責める。
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やがて森の奥、木々の間にひっそりと立つ古い祠が見えた。
「……こんなところに……」
誰も訪れなくなった小さな祠の中には、埃をかぶった一本の剣があった。
その剣を見た時、アベルの中の何かがふっと揺れた。
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(……なんだこれ。)
恐る恐るその剣を手に取る。
次の瞬間、胸の奥に柔らかく響く声が聞こえた。
『――守るために、剣を取ったんじゃないの?』
「……!」
紅黒の炎が再び手のひらに集まりかけたが、その声に包まれるように静かに収まった。
アベルは息を飲み、その剣を見つめた。
「守る……?」
その言葉を反芻した瞬間、剣は粉雪のように静かに崩れ落ち、消えてしまった。
手には何も残っていない。
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「……なるほどな。」
後ろから、少し掠れた声が聞こえた。
振り返ると、そこにはボロボロの鎧を纏った大男が立っていた。
無数の古傷が走る顔に、静かな瞳。
「お前、その炎……。」
「……誰だ。」
アベルは警戒して距離を取る。
男は薄く笑い、森の中へ背を向けて歩き出した。
「俺はユダル。
その炎を持つなら、お前に教えてやる。どう生きるか、どう戦うか――な。」
アベルは少し迷い、そしてその背を追った。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回、アベルはユダルに剣と炎を教わります。
その中で、少しずつ復讐とは違うものを掴んでいく――。