第一章 英雄の目覚め -セルヴィア編- 第1話 祈らぬ青年
祈りを捨てた青年が、最初に失ったもの。
ここから全てが始まります。
セルヴィアの小さな街に住む青年、アベルは、
今日も川辺に座りぼんやりと森を眺めていた。
風が吹くたび草が揺れ、小さな虫が水面を滑っていく。
(……こんな毎日、いつまで続くんだろうな。)
頭の片隅で、祖父の声が聞こえる。
「教会へ行け、アベル。毎日祈りを欠かすな。」
それに重なるように祖母の声も聞こえてくる。
「そうだよ。神様は必ず見ていてくれるんだからね。」
「……馬鹿らしい。」
アベルは小さく息を吐き、川に小石を投げた。
水面に輪が広がり、すぐに消えた。
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その時だった。
ゴゴゴ……ドシャァ――!!
街の方から、重く、嫌な音が響いてきた。
アベルは立ち上がり、駆け出す。
足がもつれそうになりながら街の中心――教会へと走る。
⸻
着いた時、そこには瓦礫の山があった。
砕けた石の中で、血に染まった布きれが見える。
「……ぁ……」
震える手でその布をめくる。
そこにあったのは、血に濡れた祖父と祖母の亡骸だった。
「……っ!」
声が出ない。ただ喉の奥がひゅっと詰まり、何かが胸の中でブチッと切れた。
次の瞬間だった。
アベルの手元から、黒紅の炎が噴き上がった。
⸻
「っぎゃあああああ!!!」
近くに立っていた敵兵の悲鳴が響く。
視界の中でその男は、何が起きたかも分からぬまま、炎に包まれて崩れ落ちた。
鉄の匂いと、焦げた肉の匂いが鼻を突く。
(これで……これで祖父ちゃんも祖母ちゃんも……)
何も守れなかった。
胸の奥は空っぽのまま、ただ冷たく痺れていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ここからアベルの物語が少しずつ動き出します。
次回、彼は復讐ではなく――?