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ロンギヌス  作者: 白河夜舟
1回戦
6/49

6.完全試合 対 完全試合

 息詰まる投手戦、では、ないのですよね。

 バッターの力の差がありすぎますので。

 でも、その力のあるバッターが文字通り手も足も出ない。

 そっちの方がはるかに「完全試合」ですね。

 このまま負ける訳には行かない。

 そんな忸怩たる思いをよそに、ゲームは投手戦のまま、回は順調に進み、延長戦に突入した。

 相手ピッチャーの球威は、全く衰えなかった。

 いや、むしろ、回を増すごとにスピードが増していくようにすら感じられた。

 まるで、肩が温まってきたかのようである。

 片腕で、動きも鈍そうで、泣き虫で、野球のなんたるかも判っていないのに、である。

 それに反比例して、味方のエースピッチャーの球威は段々衰えてきていた。

 絶対に先に点をやれないというプレッシャーと、相手バッターがことごとくホームラン狙いのようにバットを振り回してくるので、迂闊なボールを投げられない事が、消耗を早めていた。

 それでも、際どい所は全てボール球にして空振りを誘っていたので、思ったより球数は投げていないことが幸いだった。

 延長戦に入る前に記録を見ると、なんと完全試合、それも全員を三振に討ち取っている。

 相手ピッチャーも完全試合を達成しており、まだ一塁ベースを踏ませていない。

 南洋第一のピッチャーは、確かにいままで、野球エリートな人生を真っ直ぐに進んでいた。

 しかし、こんな記録に残る投げ合いを演じたのは始めてである。

 それも、相手のピッチャーがあまりにも凄かったからであろう。

 実の所、こんな素人臭い打線を完封するのは、自分にとっては当たり前である。

 しかし、味方打線は打率四割を誇る強力打線である。

 それを、全員三振に切ってとり、点どころか一塁ベースさえ踏ませないとは…

 負けたくない。

 相手が凄いピッチャーだからこそ、負けたくないのである。

 決意を胸に、10回の表のマウンドを踏んだ。

 が、この回になって、突然相手バッターは、バットを振らなくなった。

 いくら際どい所を投げても、一度も振り回さないのである。

 ノースリーになって、思い切って投げた外角高めが、僅かに外れて初めてのランナーを出してしまった。

 キャッチャーがマウンドに近寄ってくる。

「記録が気になったのか?」

「ああ、それもあるが…」

 名門校のエースピッチャーである。

 自分がつい力んだのかも知れないと、認める度量は持ち合わせていた。

 もともと、やる気はあっても迫力は感じない相手打線である。

 とにかく振れば当たるだろうなどと考えている連中に、一点もやるつもりはなかった。

 ただ、今まで全て三振に討ち取ってきたのは出来過ぎである。

 普通なら、あれだけ振り回せば少しは掠ったりするものだが、鍛えられた鉄壁の守備陣を信頼していた。

 今まで、その鍛練の成果を見せる機会はなかったが…

「あのトップバッター、今までブンブン振り回していたのに、急に振らなくなったからな。こっちのボール球を見透かしたのかと思ってな」

「…そうだな。ストライクを、少し混ぜていくか?」

「ああ。配球は任せるよ」

 実際、二番バッターもバットを一度も振らないまま、三振に終わった。

 三番バッターも、釣り球の臭い所をついたボールにも手を出さないまま、一度もバットを振らなかった。


 負けたくない、緊張感。

 何かの拍子にリズムが崩れる。俗に言う「魔が差す」というヤツです。

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