4.三者連続三球三振
作品紹介タブに、チートを入れるか、迷いました。
だってチートでしょ、こんなの…
いえ、ルール上は問題がない、無いはず…
長いタイムと抗議の間、長身で隻腕のピッチャーは長い腕を器用に畳んでボールを目の前に持って行き、じっと見つめていた。
そして、泣いていた。
声も立てず、小刻みに震えながら。
ホームベースのすぐ近くで構えていたサードがマウンドに向かい、何か声をかけている。
一々頷きながら、ピッチャーは泣き止もうとはしない。
「な、なんなんだよ…」
トップバッターは監督に肩を叩かれるまで、呆然とその様子を見ていた。
高校球児は、強い精神力を養わなければならない。
だから、炎天下の中、苦しい練習に耐えてきたのだ。
それが、あんなひ弱そうな奴に…
1番バッターは、一つ素振りをくれると、ボックスに立って構えた。
今度こそ、球筋を見極めて…
ズドォォォン…
彼はバットを振ることすら出来ず、見逃し三振に終わった。
二番、三番も、一度もバットを振る事が出来なかった。
球が、見えないのだ。
長身の上に、常人ではない腕の長さから振り下ろして来る。
投げる瞬間の腕の動きが、ほとんど判らない位に速い。
リリースポイントが判らないので、タイミングがとれないから、バットが振れないのだ。
しかもその球が、またとんでもない速さである。
名門校だけあって、普段から充実した設備でトレーニングしている。
ピッチングマシンも、甲子園クラスのピッチャーを想定して、少なくとも140キロ以上の球を打ち返している。
が、相手ピッチャーの球はまるで経験した事のない速さなのだ。
まるで、高層ビルの上から落ちてくるボールを、上を見上げないで打てというようなものである。
人間の動態視力は、左右に動くものにはついて行きやすいが、上下に動くものを見極める事が難しい。
しかも、いつ落ちてくるか判らない上に、とんでもないスピードで投げ込まれるのだ。
南洋第一ナインは、文字通り青くなった。
昨年夏、今年の春と決勝まで進みながら破れた、その悔しさをバネに、ここまで苦しく厳しい練習に耐えてきたのである。
しかし、それは全くの無意味なのではなかったか…
守備につこうとする足にも、力が入らない。
こんなボール、絶対に打てっこない。
「落ちつけ!まだ負けたと決まったわけではない!」
さすが監督である。選手から絶大な信頼を得ている名将と歌われた人物である。
「あんな球を、ずっと投げられるわけはないんだ。我々が点をやらなければ、絶対に勝てる!」
おおっ!
ナインの表情に、安堵感が浮かぶ。
監督は、エースピッチャーに「投手戦だぞ」と声をかけた。
投手戦、すなわち、一点もやれない事を意味する。
投手の、もてる力、技量、気迫全てを振り絞って相手打線を押さえ込まなければならない。
もはや、偵察校がどうのこうのいっていられないという状況であった。
目の前の敵を、特にあのピッチャーより先に点を取られたら、甲子園も借りを返すも言っていられないのである。
エースピッチャーは、燃えに燃えた。
エンジン全開のマウンドは、全く付け入る隙も与えず、2回表も三者三振で終わった。
相手バッターは、とにかくどんな球を投げても振り回すしか能がなかった。
全部ホームランでも狙っているかのようだった。
さすが名将。簡単に負けなど認めません。
選手の動揺を鎮めて、自軍のエースピッチャーに気合を入れます。
本能的に「この試合は全力を尽くさないとヤバイ」ことが分かるのです。