1.ジャージと運動靴
お読みいただき、誠にありがとうございます。
本作品は、2001年9月~10月にかけて書き上げた作品です。一応、完結済みです。
読みにくい表現など、少しだけ手を入れていますが、基本は原文のままです。
現代ではありえないコンプライス問題を多分に含んでおり、読みづらい点も多々あると思いますが、もしもよろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
では、本編をお楽しみください。
今年の夏はツイテいる。
そう、チームの誰もが思っていた。
昨年の夏、そして今春の選抜とも甲子園出場を掛けた決勝で破れた南洋第一高校の野球部にとって、今年の夏はどうしても甲子園に行きたいチャンスだった。
投げ込みがたたって肩を壊したエースピッチャーが復帰し、最高の仕上がりを見せている。
打線も好調で、この間の練習試合でも強豪校を大差で破っている。
おまけに第一回戦で当たった相手校が、今年創立されたばかりの新設校で、野球部もようやく人数をそろえたような弱小チームだという。
誰もが、地方予選決勝までの道のりを信じて疑わなかった。
おそらく勝ち上がって来るであろう、昨年夏と今春の甲子園出場校との決勝を。
~ ・ ~
「なんだあの不謹慎な格好は!高校野球をなんだと思ってるんだ!」
相手選手の格好を見て、監督がいきり立って審判団に抗議に向かった。
相手チームは、ユニフォームを着ていなかったのだ。
体育用のジャージに、高校名とゼッケンを付けただけのものだった。
おまけに野球用のスパイクも履いていない。
運動靴のままなのだ。
ベンチ前で熱心にキャッチボールの練習をしているのを、いらただしげに睨みながら監督は審判団に食ってかかった。
しかし、相手が新設校で、ユニフォームが予算の関係で間に合わないと事前に報告されていた事を聞かされ、渋々ベンチに戻った。
どうせ負かしてしまえば、関係のないことだ。向こうも、そのつもりで出てきたのだろう。
そして、こんな下らない試合はすぐに終わらせるようにと選手に喝を入れた。
監督から言われるまでもなく、選手全員がそう思っていた。
「あんな連中の相手をしなければならないとはな」
「どうせ体育の授業のつもりで出てきたんだろう?」
「さっさと終わらせて、練習に戻ろうぜ」
「当たり前だ。あんな奴ら、俺の球に掠らせもしないぜ」
実際、ピッチャーの言った通り、1回表を三者三振に討ち取って順調な立ち上がりを見せる。
相手チームのバッターは、とにかくバットを振り回すしかないようで、料理しやすいことこの上なかった。
掛け声だけは勇ましく響いたが、無様な空振りを繰り返すだけだった。
ついでに、バットも一本しかないらしく、交代で使っていた。
まるで全部ホームランでも狙っているような雰囲気だったが、フォームはバラバラだし、狙いも絞れていない。
どうせコールドで終わるだろうから、次の試合に向けて練習時間を多く取りたい。無駄球を使うつもりもなかった。
何校か偵察にきている事もあり、最後まで変化球は使わないと作戦で決めていた。
甲子園の予選、夏は基本的に出場意志さえあれば全校参加できます。
ユニホームは揃えないとダメな気もしますが、ゼッケンをつけるということで、見逃して貰えたらしいです。
運動靴は、アウトですよね。ズルズル滑って危ないので。
こちらも、どうせコールド負けだろうと、甘めに見逃してもらえたのだと思います。
見逃しは、イケマセン。最初からキチンと振らないと、付け込まれますヨ。