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南十字星

修作です。

その島の真ん中には天の川を眺める天使の像がありました。誰が作ったかはわかりません。羽は欠け、苔むしていましたが、島の動物たちが暑い日に涼を求めて休みました。天使はそんな日々が好きでした。鳥はほとんど寄り付かない中で、一羽だけ、こまめに天使のところを訪れる鳥がいました。


渡り鳥は海のスレスレを飛び、ぐいんと飛びあがると、天使の肩にとまります。おかえり、と天使は言いました。渡り鳥はただいま、というやいなや、海の水面が光るさま、クジラが潮を吹くのを2回も見たこと、飛魚の大群がいたこと、…渡り鳥は、この世界の綺麗なものをたくさん見て、全てを天使に教えてあげたいのでした。天使は、渡り鳥の全てでした。


渡り鳥は、毎日やってきました。晴れの日は世界中の素敵なものを携えて、雨の日にはユーモアと、雨のにおいと、雨が海に作るたくさんの水紋のことなんかを携えて。天使はその都度、ありがとう、と言い、渡り鳥はそれで幸せでした。


やがて、冬が近づいてきました。

寒くなってきたけど、君は暖かいところへ飛ばなくてもいいのかい。天使は言いました。渡り鳥はしばらく前に飛んでから、ずっと天使の肩の上にいました。渡り鳥は微笑みました。


ぼくは、もう飛ばないんです。そろそろ命の種が尽きる頃だ。あなたさえ良ければ、ぼくはあなたの肩にずっといたいと思う。許してもらえるかな。渡り鳥は言いました。その声には悲壮感は全くありませんでした。天使は何かをぐっと堪えて、構わないよ、と言いました。


渡り鳥はいろんな話をしました。この世界の色について、光について、海について、木について、生き物について、今まで見てきたあらゆることについて話をしました。天使の美しさを褒め称えました。美しいけれど、それ以上に、あなたの心が好きです、と言いました。天使は嬉しい気持ちになりましたが、それ以上に悲しみが痛烈に心を射抜くのを感じました。


夜になりました。渡り鳥の声は日に日に小さくなっていることに、天使は気づいていました。それでも渡り鳥は話し続けました。愛について、愛について、愛について。どれだけ天使のことを愛しているか、日夜話しました。そしてある時から、渡り鳥は話さなくなりました。


天使は渡り鳥を肩に乗せて、朽ちなければいいのに、と思いました。それは叶わぬ祈りでした。天使は自分も朽ちたいと思いました。それも叶わぬ祈りでした。天使は天の川を眺めるように作られましたが、渡り鳥がいなくなってから、南十字星に祈りを捧げながら過ごすようになりました。君が幸せでありますように。動かなくなった有機物に対する祈りではないのかもしれません。それでも天使はずっと祈りました。


これは、ずっと昔の話です。

祈りが叶っていたら、もしかしたらこの世界のどこかで、渡り鳥と天使は一緒に過ごしているかもしれません。


おしまい

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