『あいちゃんのリングガール大作戦』
❇ひだまり童話館「開館10周年記念祭」企画参加作品です。
❇「めでたい話」のお題で書かせていただきました。
あるところに、あいちゃんという女の子がいました。
「大きくなったらわたし絶対花嫁さんになるの!」 と保育園の先生にいつも言っている元気な女の子です。
そんなあいちゃんの親戚のお姉さんが今度結婚することになりました。
お正月に皆で会う時に、いつもそのお姉さんはあいちゃんのことを可愛がってくれていました。
優しくて綺麗だったお姉さんが結婚することに、あいちゃんもとっても嬉しくなりました。
あいちゃんのお母さんもお父さんも「めでたい事ね」と嬉しそうです。
ある日、あいちゃんのお家にお姉さんから電話がかかってきました。
「お母さん! お姉さんからの電話何だったの?」
受話器を置いたお母さんにあいちゃんは飛び付くように尋ねました。
お母さんはうふふ、と笑って内緒話をするようにあいちゃんを手招きしました。
「あいちゃんに"リングガール"をお願いしたいんですって!」
「リング、ガール……?」
きょとんとあいちゃんはお母さんの言葉を繰り返しました。
初めて聞く言葉です。
「結婚指輪をね、花嫁さんと花婿さんの所に持って行く大事な役目の事よ」
「指輪!」
あいちゃんは驚いて目を丸くしました。
「結婚指輪って綺麗な宝石が付いた指輪のこと⁉」
お母さんは頷きました。
あいちゃんは保育園で花嫁さんごっこをした時に、おもちゃの指輪をしたことを思い出しました。
「お姉さんはあいちゃんに是非リングガールをしてほしいんですって。あいちゃんやれるかしら?」
「やる! 絶対やりたい!」
あいちゃんは元気に手を上げて返事をしました。
すぐにあいちゃんのお母さんはお姉さんに電話してくれました。
ぺこぺこ頭を下げながら話をしているお母さんを見ながら、あいちゃんは胸がどきどきしてくるのがわかりました。
頭の中ではひらひらしたドレスを着た自分がお姉さんの所に指輪を持って行く様子が浮かびました。
「うふふ、楽しみ!」
あいちゃんはその夜なかなか寝れませんでした。寝る前にあいちゃんはある事を思い付きました。
次の日から、あいちゃんはリングガールを立派に務めるために練習をすることにしました。
おもちゃの指輪を小さな籠に入れて歩く練習を何度も何度もしました。
お母さんとお父さんが花嫁さんと花婿さんの役をやって、二人が並んで待っている所まで運ぶ練習をしました。
くすくすと笑っているお母さんとお父さんにあいちゃんは言いました。
「もう! 私は真剣に練習してるのよ!」
ぷんぷんとするあいちゃんの様子にお母さんとお父さんの顔もきりっとして、三人でまるで本番の様に練習するようになりました。
あいちゃんは保育園でもお友達や先生に頼んでリングガールの練習をしました。
いよいよお姉さんの結婚式は明日という日になりました。
着ていくひらひらしたりぼんが付いた服もちゃんと準備して、実際に着て最後の練習も終えました。
「これで練習大作戦ばっちり!」
あいちゃんはお母さんとハイタッチして、うきうきとどきどきの気持ちでお布団に入りました。
そして結婚式の日。
みんなの前に現れたお姉さんのウェディングドレス姿にあいちゃんは歓声をあげました。
キラキラしてて白いドレスがとっても綺麗でお化粧をしたお姉さんはまるで別人みたいです。
嬉しそうに花婿さんと笑い合うお姉さんはとても幸せそうでした。
さあ、あいちゃんのリングガールの出番がやってきました。
結婚式場の人から籠を渡されてあいちゃんは準備万端です。
「あいちゃんしっかりね」
お母さんは心配そうに何度もあいちゃんの様子を見に来ました。
お父さんも何だか落ち着かなさそうです。
「大丈夫よ!」
あいちゃんは元気に言いました。
でも本当は心臓がすごくどっきんどっきんしていました。
ゆっくりとあいちゃんは一歩前に足を出しました。
ゆっくり歩きながら、顔は真っ直ぐお姉さんを見てまた一歩前に進みます。
バージンロードを後少し歩けばお姉さんの所に到着します。
あいちゃんはほっと息を吐きました。
その時。
つん、と慣れない靴を履いてた足が絨毯に引っ掛かりました。
あっと思った時にはあいちゃんは籠を抱き締めたまま転んでいました。
式場のみんながざわざわとしました。
あいちゃんはというと、すぐに起き上がりましたが顔は涙でいっぱいでした。
あんなに練習したのに失敗してしまったのです。
涙がポロンポロンと止まりません。
するとお姉さんが祭壇の所からサッとあいちゃんの居る場所までやってきました。
そしてあいちゃんの手を握りました。
「あいちゃん一緒に歩きましょ」
「お、お姉さん」
「大丈夫」
花婿さんもすぐにやってきてあいちゃんのもう片方の手を握りました。
三人でバージンロードを歩くとすぐに大きな拍手が会場に響きました。
「ありがとうあいちゃん」
「あいちゃん、ありがとうね」
お姉さんと花婿さんに言われて、あいちゃんは笑顔で指輪の籠を差し出すことが出来ました。
無事に結婚式は終わり、その日みんなで撮った写真には少し目が赤いそれでも満面の笑みで写ったあいちゃんが居ましたとさ。
~終わり~
お読みくださり、本当にありがとうございます。