第三話 冒険者パーティー
翌日、ヘイルヴィルはペドルに指定された場所に足を運んだ。そこは砦の西側、フロンティアに近いテント設営地。西側に目をやると、目前には鋭く切り立った峰の山々が広がっていた。
この砦の冒険者が目指しているのはあの山を越えることだ。ヘイルヴィルは大気で色褪せた山頂の方を見ると少し足がすくんだ。遥か天から見下されているような気がして、神的な恐ろしさを感じずにはいられなかった。
「こっちだ! ヘイルヴィル!」
彼が大雑把に指定された場所でグルグルと迷っていると、離れた場所からそんな声が聞こえた。それはペドルの声だった。
ヘイルヴィルはすぐに駆け寄る。そこにはペドルの他に昨日彼が話していた三人のパーティーメンバーらしき姿があった。
その三人の中で、一際目をひくケモノが始めに口を開いた。
「あなたがヘイルヴィルですカ? 今日からよろしくお願いシマス」
彼女の姿形を一言で表すなら『犬』だろう。そのシルエットはまさしく二足歩行の芸を披露する飼い犬。
全身をくまなく包む茶褐色のフワフワな毛皮、鼻を頂点に顔から突き出した吻、頭頂部の三角の耳、ズボンの隙間から覗く尻尾。
人間の特徴の方が少ないこの者たちは、西方諸国においては新大陸発見の時期から一般に知られるようになった『ケモノ』と呼ばれる人類だ。アメリアン合衆国においてはケモノの先住民『アンスロ』として身近な存在でもある。
「どうされマシタ? アンスロが珍しいデスカ?」
「あ、いや、こちらこそよろしく」
「私はミレーニャといいマス。主にこのパーティーでは拠点の設営などの雑務を担当してマス」
人間との発声器官の違いから彼女はカタコトであった。見た目の愛嬌やカタコトの間の抜けた感じから、どうも愛らしく思えてしまうが、その本質は凛々しい狩人のようであるとヘイルヴィルは思った。
所作の一つ一つに礼節を重んじる精神があり、立ち姿にもそれが反映されている。
「あ、ちなみにコイツはオレの嫁ね。どこに行っても自慢できる可愛さとか言っちゃって」
ペドルはそう言って、ミレーニャの頭を撫でた。それに彼女は目を細め、嬉しそうに尻尾を左右に振った。
「いつもの惚気よ。気にしないことね」
目の前の光景に困惑するヘイルヴィルに横から女性の声がかけられた。
「あなたは?」
「アタシはメレコ・スノーっていうの。薬師で魔法も扱えるわ。他には料理も得意ね。よろしく、新人さん」
彼女は生来の癖がある長い赤毛を自慢げに掻き分けて、そう挨拶した。
「さ、次はあなたよ、自己紹介」
「はい!」
元気よく返事した彼の背にはライフルが背負われていた。しかし、どこかその姿が不恰好というか、ヘイルヴィルには彼とライフルが不似合いなような気がしてならなかった。
「僕はケニー・ロンです! 気軽にケニーって呼んでください! このパーティーじゃ一応、戦闘役を仰せつかっているんですけど、銃の扱いが苦手で……。ヘイルヴィルさんはガンマンだって聞いているので教えていただけると助かります!」
ケニーの挨拶が終わると、待ってましたとばかりにペドルが割り込んできた。
「そして、俺がリーダーのペドルだ。改めてパーティー加入感謝する。早速だが、これより進入するのはフロンティア。覚悟してもらうぞ、ヘイルヴィル」
その後、ペドル指示のもと幌馬車にベーコンや小麦粉などの食料品、やかんやフライパンなどの道具類を積める限り詰め込む手伝いをヘイルヴィルはした。
馬を馬車に繋ぐと、ヘイルヴィルを含めた五人の冒険者パーティーはフロンティアに向けて歩みを進め始めた。