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気が付いた想い(リュカリスside)

「また明日」と言ったミリアが、いつも訪れる時間になっても来ない。

(別に絶対来るとは言ってなかった)

(単なる社交辞令で言ったのかもしれない)

(毎日素っ気ない態度で追い返していたから、とうとう疲れたのかもしれない)

(そういえば、昨日は体調が悪そうだった)

 さっきから時計ばかりチラチラ見ながら、ミリアが来ない理由を考えている自分は、彼女が訪れるのを待っているかのようで滑稽だ。

 レポートをまとめようとノートを広げているが、一行に進まない。

「ああ、僕はどうかしている」

 こんな風に他人を気にする性格ではないはずだ。

 苛立たし気に立ち上がった僕は扉に向かう。

 外を確認して誰も居ないことを確かめれば、少しは気分が落ち着くだろう。


 ガチャッと扉を開くと、まさにノックをしようとする姿のミリアが立っていた。

「……来ていたのか」

 ホッと苛立ちが消えた。

 ミリアの姿を見て気持ちが落ち着くなんて、やっぱりどうかしていると思う。

 この感情は何なのか、考えるのを放棄するように、僕は扉を開けたまま踵を返した。


「失礼します」とミリアの声が聞こえ、確認するようにチラリと後ろに視線を向けて良かった。一歩踏み出したミリアの体が、大きく傾き倒れそうになった。

 咄嗟に支えた彼女の体は、服越しでも分かるくらい発熱していた。

 自分の感情に振り回されて気がつかなかったが、昨日よりも顔色も悪い。

「まだ具合が悪いのに、どうして来たんだ」

 先程まで彼女の来訪を待っていたのを棚にあげて、そんな事を言う。

 彼女の声が聴こえる。

(このまま、目が覚めないかもしれない……この想いだけは、伝えたい)

「リュカリス様……ずっと……好き、でした」

 泣きそうな心の声と、告白。

 このまま目が覚めないとはどういうことなのか?それに、僕のことが好き?

 そのどちらにも動揺して僕は固まった。

「……は?」

 口から漏れたのは、間抜けたな一言だった。

 ミリアは、瞼を固く閉ざし、浅い息を繰り返し返事はない。

 少しずつ小さくなるミリアの心の声。

(返事を聞きたかった)

(リュカリス様と話がしたかった)

(リュカリス様の事をもっと知りたかった)

(私の事も知って貰いたかった)

(……死にたくない)

 切実な声に、彼女が倒れたのは単なる体調不良ではない事を悟る。


 完全に意識を手放したミリアを抱え、研究室の奥にある仮眠用のベッドに横たえる。

 手首に指を当てて脈を確認する。

 触れているか分からないくらい弱々しい脈動。

 医者ではないが、この状態が非常に良くないのは分かる。

 僕はミリアに治癒魔法をかけようと、手を握った。

「──っ、これは」

 治癒魔法が効かない。

 魔法核が欠損しているのだ。

 そのせいで体内で魔力暴走を起こしている。

 魔法核が欠損した場合、治癒方法はなく、余命僅かだと言われている。

 ──これまでは。


 僕は本棚に向かいら片っ端から本を取り出し捲った。

「どこだ、どこに書いてあった?」

 最近発表された論文。

 確かに読んだはずだ。

「あ、あった!」

 その論文に書かれてあったのは、魔法核の欠損を修復する術式。

 ただし、かなり高度な術式だ。

 高位の魔術師でも成功率は半々。

 僕に出来るのか?

 でも躊躇っている余裕はない。

 ミリアの呼吸は、今にでも止まってしまいそうに浅い。他の魔術師を探す時間もないし、他人と距離を取っていた僕には頼る者も居ない。

 僕がするしかない。

 成功しても、しなくても、術者にも大きな負担が掛かる?

 そんなの、どうだって良い。

「僕も、もっと君と話がしたい……死なないでくれ」

 そっと、ミリアの頬を撫でて呟いた。


*****


 結果、術式は成功した。

 規則的な呼吸と脈拍に戻ったミリアを確認して、僕ははーっと大きく安堵の溜め息を吐いた。

「良かった……」

 とんでもなく魔力を消費した。

 今は腕を持ち上げるのも、しんどい。

 でも、彼女が助かった事が嬉しい。

 まだ出会って数日の少女。交わした言葉も少ない。だけど、僕の事を「好き」だと言ってくれた少女。

 ミリアの意識が途切れる間際に聴こえた心の声を思い出す。


(リュカリス様と話がしたかった)

 僕もミリアと話がしたい。


(リュカリス様の事をもっと知りたかった)

 僕もミリアの事をもっと知りたい。


(私の事も知って貰いたかった)

 僕の事も知って欲しい。


(……死にたくない)

 ミリアを死なせなくない。 


 彼女に対する感情は何なのか。

「ああ、そうか……僕は君が好きなのか」

 それが一番しっくりくる答えだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁぁぁぁぁぁぁありがとうございます! リュカリス君side楽しく読ませて頂きました! 相手の心の声が聴こえたら人間不信もやむなし…… でも心の声が聴こえたからこそ、ミリアちゃんへの想いが…
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