推し活?日目(余命?日)
目覚めると、ミリアは自分のベッドの中にいた。
(まだ死んでない……良かった)
まだ生きていた。
ミリアは、ホッと息を吐く。
(確か、リュカリス様に告白したあと、倒れたはずだけど、どうして屋敷に?)
リュカリスの研究室で倒れたのに、いつの間にか屋敷に帰って来ている。もしかしてリュカリスが送ってくれたのだろうか?
「目が覚めたか」
ここ最近聞き慣れた、素っ気なくぶっきらぼうな声。だけど、屋敷で聞こえるはずのない声に驚き、ミリアは勢い良く声の方を向く。
リュカリスが椅子に座っていた。
「なっ……」
人間驚き過ぎると声が出なくなるものである。酸素を求める魚のように、ミリアはパクパクと口を動かし、リュカリスを指差す。
「「ミリア!!」」
どうしてここに?と尋ねようとした声は、部屋に入ってきた父と母の声に遮られた。
「良かった、やっと目が覚めたのね」
父も母も、目の下に、何日も徹夜をしたかのようなクマが出来ている。
「やっと?私は、どれくらい眠っていたのですか?」
「1週間ずっと眠っていたんだよ」
「1週間……」
ほんの数時間だと思っていた。
いや、そんな事よりも重要な事がある。
1週間眠っていたということは、余命10日をとっくに越えているではないか。
「私……余命10日じゃ?」
「ああ、やっぱりあの時、お医者様との会話が聞こえていたんだね」
あの会話は、聞き間違いではなかったらしい。では、どうしてミリアは生きているのか?
「そういえば、身体が軽い」
あの酷い倦怠感も、目眩も、吐き気も全くなくなっていた。
「僕が説明しよう」
黙って両親とのやり取りを聞いていたリュカリスが説明を申し出ると、両親は「宜しくお願いします」と頭を下げて、ミリアから離れた。
何故医者でもないリュカリスが説明するのか解らず、ミリアは目を瞬かせる。
「医者の余命宣告通り、あのままだったら、君は確かに死んでいた」
「はい……では、どうして私は、生きているのでしょうか?」
確かに、意識を失いながらミリアは死を覚悟していた。
なのに、どうして生きているのか?
「君の体調不良の原因は魔法核の欠損だったんだ。医者では治せない」
この世界の人間は魔法を使うために、身体の中に魔法核が存在する。
ミリアは、何らかの原因で魔法核が突然欠損し、体内の魔力均衡が崩れたことで、魔力が暴走し死にそうになっていたと言う事らしい。
「では、今、体調が良くなってるは……もしかして……」
あのままだったら死んでいた。
過去形だ。
「僕が君の魔法核の修繕をして、魔力調整をしたから、体は元に戻ったはずだ」
「じゃあ……じゃあ私は、死なないのですか?」
震える声でミリアはリュカリスに問う。
「ああ、死なない」
いつものように素っ気ない声だけど、瞳は真剣な色をしたリュカリスが、はっきり答えてくれた。
「……っ、良かったっ」
嬉しさで、涙が止めどなく溢れてきた。
ミリアはしばらく肩を震わせながら泣いた。
リュカリスが、不器用な手つきで慰めるように頭をポンポンと撫でてくれるのが、嬉しかった。
「今日は帰るが、しばらく魔力が安定するまで、魔力調整に来るから」
ミリアが泣き止んだ頃合いで、リュカリスが呟く。
「それから今度、この間倒れる前に言ってた事、もう一度聞かせて。過去形じゃないセリフで」
リュカリスの顔がミリアの耳元に近付き、更に小さな声で囁かれた。
「この間の……え、あ……」
倒れる前に言っていた事──『リュカリス様……ずっと……好き、でした』
これを、現在形でもう一度と。
ミリアが顔を真っ赤にしてリュカリスを見ると、少し意地の悪い表情で笑っていた。
─fin─
ハッピーエンド!!