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推し活6日目

 六日目。

 放課後、研究室の扉の前で、ミリアはノックをするか悩んでいた。

 昨日は体調不良で研究室の中に入れて貰い、更にはリュカリスの私物(と思われる)毛布を掛けて貰うという、非常に感動的な出来事があった。それに「また、明日」というミリアに返事をしてくれた(ような気がする)。

 帰ってから思い出してはニヤニヤしてしまった。端から見たら怪しい人だっただろう。


 しかし、今日も体調はすこぶる悪い。

 酷い倦怠感だけではなく、目眩と吐き気もする。明らかに昨日より悪くなっていた。

 授業は、ほぼ医務室で過ごした。

(余命宣告されて今日で7日目ね。お医者様は「10日持つかどうか」っておっしゃっていたし、もしかしたら10日持たない可能性もあるのよね。昨日より、かなり悪くなっているし……明日死んでしまう可能性もあるってこと……か)

 一気に最期が近付いて来た感じがして、ズーンと気が滅入る。

 こんな状態でリュカリスを訪ね、うっかり嘔吐(リバース)なんてしてしまったら、目も当てられない。

 そもそも毎日押し掛けて、鬱陶しいと思われている(かもしれない)のに、そんな事してしまったら、もっと悪印象を持たれてしまうだろう。

 死んでも死にきれない。


(でも、会いたい……)

 前世のミリアは、リュカリスの事を2次元のキャラとは考えられず、本気で恋をしていた。

 その気持ちは、前世を思い出したことで、今のミリアに引き継がれている。

(やっぱり、一目だけでも会いたいし、一言だけでも言葉を交わしたい。明日はもうここに来れないかもしれないから……)

 残りの時間が少ないなら、尚更記憶にリュカリスの姿、声を焼き付けておきたかった。

 この調子では、明日は今よりも体調が悪くなり学園に来られないだろう。最悪、朝目覚めないかもしれない。

 ミリアには、明日という未来を考える余裕はないのだ。

 ミリアは、扉をノックするために腕を持ち上げた。


 しかし、ノックをする前に扉がカチャっと静かに開いた。

「……来ていたのか」

 扉の前にミリアが居るとは思わなかったのだろう。リュカリスが驚いたように目を開いている。

 ミリアの姿を見て、ほっと表情を少し崩したように見えたのは、ミリアの妄想でないと思いたい。

 リュカリスは、そのまま扉を開いたまま踵を返した。扉を閉めないという事は、ミリアが入って良いという事だろうか?

「失礼します」と一歩踏み出す。


 グニャリと視界が歪んだ。

 猛烈な目眩にミリアの身体は平衡感覚を失い大きく傾く。

「おいっ!」

 焦ったような声がして、ミリアの身体をリュカリスが支えた。

「まだ具合が悪いのに、どうして来たんだ」というリュカリスの声が遠くで聞こえる。

(あ、また意識が)

 視界が白くなっていく。

(だめ、このまま、目が覚めないかも……)

 このまま倒れて意識を失ったら、目を覚まさないのではないかという焦燥感に襲われた。

「……リュカ、リス様」

「無理して喋るな」

 頑張って絞り出すようにリュカリスの名前を呼ぶ。

 素っ気なく、ぶっきらぼうな言い方だけど、少し優しさを孕んだ声が無理するなと言ってくれる。

 だけど、今無理しないと一生伝えられないかもしれない想いがある。

 その想いだけは、絶対伝えたかった。


「リュカリス様……ずっと……好き、でした」

 最後の方は声が小さくなっていたかもしれないが、何とか言葉にする。

 リュカリスの反応を確認をする前に、ミリアは意識を手放した。


(これで、思い残すことは……)

 思い残すことは沢山あった。

 ミリアの告白に対するリュカリスの反応がみたい。

 もっとリュカリスと話がしたい。

 乙女ゲームのリュカリスではなく、今のリュカリスの事を知りたい。

 ミリアの事を知って貰いたい。


 だけど、余命僅なミリアには時間がなく、告白するだけで精一杯だった。


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