第3夜 ギフト
アキの店に行った翌日、修二は買い物に出かけていた。
修二は店を回りながらクリスマスパーティーに持っていくアキへのプレゼントを探していた。
ある店の中でネックレスを購入した修二はそれを手にして店を出ていた。
「営業トークにこんなもんまで準備して、俺って馬鹿だよな」修二は手にしたネックレスを眺めて溜息をついていた。
そしてイブの夜修二はクリスマスプレゼントを上着のポケットに入れるとアキの店に向かっていた。
「イラッシャイ」修二が店に入ると、アキが出迎えていた。
アキに席に案内された修二が座ると、「チョット待ッテテ」アキはカウンターに戻りグラスを準備して修二の前に置いた。
店の中には既に数人の常連が来ており、店内はすでににぎやかな状態になっていた。
もちろんアキも修二だけに接客するわけにはいかず、忙しく動き回っていた。
修二のところにも立ち替わりホステスがついては入れ替わっていた。
修二はポケットのプレゼントを気にしながらも、グラスを傾けカラオケを歌ったりしてその時をそれなりに楽しんでいた。
パーティーも終盤に近付きアキが修二の隣に座った。
「ゴメンネ、しゅうナカナカ落チ着カナクテ」アキが申し訳なさそうにそう言うと、「気にしなくていいよ」修二はそう言ってグラスに口を付けていた。
そんな修二に「しゅう、歌、歌ッテ」アキはいつものように修二にカラオケを歌うように言っていた。
修二はカラオケの端末を手にすると、曲を入れて端末をテーブルに置いた。
修二はポケットに入れたプレゼントに手を当てながら渡すタイミングを計っていた。
アキがいろいろ修二に話しかけていたが、修二はそのプレゼントが気になって話の内容が全く頭に入っていなかった。
そんな中、修二の入れた歌が流れ始めた。「あっ、俺だ」修二が声を上げると、アキがマイクを持って来て修二に手渡した。
修二はマイクを手にその歌を歌い始めたいた。歌の内容は恋人にプレゼントを渡す内容の歌だった。
修二はその歌を歌いながらポケットに手を入れると、それをテーブルに置くとアキの目の前に差し出した。
アキはそれを見ると修二の顔とそのプレゼントを交互に見つめ自分を指差し歌を歌う修二に、自分に?といった感じで自分の顔を指差していた。
修二は歌を歌いながら軽く頷くと照れ隠しのためカラオケの画面に視線を移していた。
そんな二人の様子を常連連中が見逃すはずもなく、「熱いねぇぇ、お二人さん」「しゅう、ヤルー」と客やホステスから冷やかしの声が上がっていた。
修二も歌を歌いながら片手を上げてその声に答えると、わざと大げさにアキの肩を抱き自分に引き寄せていた。
アキも修二に身をゆだねると修二の胸にその頭を付け修二の歌を聴き入っていた。
修二が歌い終わると、「コレ、貰ッテイイノ?」アキは修二の顔を見つめながらそう聞いていた。
修二は照れたようにグラスを手にしてそれを飲み込むと、「大したもんじゃないけどね」そう言って、またグラスに口を付けた。
そんな中アキの同僚のホステスが二人のもとに来て「あき、何貰ッタ?、開ケテミテ」そう声を上げていた。
アキは修二の顔を見ると「開ケテイイ?」そう聞いていた。
修二はアキを見ると「いいよ、開けてみて」そう答えていた。
修二の言葉にアキは嬉しそうにそれを手に取ると、その包みを開け始めていた。
包みを開け、中の箱を開けるとアキは嬉しそうに声を上げていた「本当ニ、コレ貰ッテイイノ?」アキはそのペンダントを手にして修二にそう聞いていた。
「大したもんじゃないよ」修二は照れながら周りを見てそう答えていた。
そんな修二に、「付ケテ」アキはそう言ってそのペンダントを修二の方に差し出した。
「うんっ、いいよ」修二がそう言ってそれを受け取ると、アキが修二に背中を向けた。
修二が腕をまわして、アキの胸にペンダントを掛けると、それを首の後ろで止めていると、「やるねぇぇ、お二人さん」「救急車、救急車」店の中はすでに大騒ぎになっていた。
常連客やホステスたちがからかう中、修二がアキにペンダントを付けると、アキは修二の方を向きなおして「アリガトウ」そう礼を言うと、「似合ウ?」そう聞いていた。
修二が照れくささそうに「ああ、似合うよ」そう答えると、「キス、キス」店中の客やホステスがそう言って二人をはやし立てた。
修二とアキは照れくさそうに顔を見合わせると、アキが修二の頬に軽く唇を付けた。
しかし、盛り上がった店内がそれで許すはずもなく「く~ちっ、く~ちっ」と唇を重ねることを要求していた。
二人はあまりの店内の盛り上がりに顔を見合わせていたが、結局その声に従うしかなくどちらからともなく顔を近づけると、その唇を重ねていた。
軽く唇を合わせた二人がすぐに顔を離すと、「熱いよ~、お二人さん」「この二人、おん出せぇ~」店の中は更に大騒ぎとなっていた。
あまりの騒ぎに二人が困り果てていると、ママがアキに「モウ今日ハイイヨ、しゅうト帰リナサイ」そう言うと、二人の背中を押して店の扉の方に追いやっていた。
「デッ、デモォ」アキは声を上げて扉の方まで押されていた。「気ニ、シナイデ、二人デ、くりすますいぶヲ楽シンデイラッシャイ」ママはそう言うと、「イッテラッシャイ」そう言って扉を開けて二人を店の外に出していた。
突然店を追い出された二人は顔を見合わせると、「しゅう、ゴメンネ」アキは申し訳なさそうにそう言っていた。
修二はそんなアキに「別にアキが誤ることないよ、それより俺こそごめん、迷惑だったんじゃない?」そう言った。
そんな修二にアキは「ウウン」そう言って首を振ると、「トッテモ、嬉シカッタ」そう言って胸のペンダントを握りしめていた。
修二はアキの顔を見ながら「せっかくだから、その辺歩こうか?」そう言うと、アキの背中に手をまわした。
「ウン」アキがそう答えると、二人は歩き始めていた。
町はクリスマスイブということもあって、カップルが肩を寄せ合って歩いており、近くの公園ではライトアップもされていた。
二人は公園に入ると、ベンチに座りその明りを眺めていた。
「キレイ」アキはその明りを見ながら呟くようにそう言った。「そうだね」修二もそれに答えてそう言うと、アキの肩を抱き寄せていた。
アキは修二の肩に頭を乗せると、静かにその明りを見つめていた。
やがてアキは頭を上げて修二の顔を見つめると「しゅう、私ナンカデイイノ?」そう聞いていた。
修二はアキの顔を見つめながら、「アキなんかじゃなく、アキがいいんだ」そう言うと、「アキにとって俺は大勢の客の一人かもしれない。それは俺も分かっている、だけどアキが気になって仕方なかったんだ。」修二は顔を正面に向けると静かにそう言った。
「でも、却ってアキに迷惑かけたね」修二はもう一度アキの顔を見ると笑顔でそう言った。
そんな修二にアキは「ウウン、ソンナコトナイ、私、嬉シイ、デモ、私ふぃりぴんダシ、しゅう私ジャナクテモ・・」そう言って目を伏せた。
修二はアキの肩に手を乗せると「それがどうしたって言うんだ、確かにアキはフィリピン人かもしれない、それはアキがフィリピンに生まれたって言うだけで、俺だって日本に生まれたって言うだけで、それが人の価値を決めることじゃないだろ」そう言った。
「ソウダケド」アキは目を伏せたままそう言うと、「デモ、ふぃりぴんノ私ジャ、しゅうニ迷惑カケル」小さく呟くようにそう言った。
そんなアキに修二は「だったら日本人はそんなに偉いのかい?、フィリピン人はそんなに劣るのかい?」修二はそう言うと、「俺は君たちを尊敬しているんだ、君たちはたった一人で異国の地でがんばって働いている、自分の国の言葉はもちろん、日本語や人によっては英語やそれ以外の国の言葉まで話せる。俺なんか生まれてこのかた、ここから離れたことすらない、言葉だって日本語しか話せない。俺なんかよりアキのがよっぽどすごいんだよ」アキを見つめながらそう言った。
「しゅう」アキは修二の顔を見上げると、「アリガトウ」そう言うと、もう一度「本当ニ私デイイノ?」そう聞きなおしていた。
修二が「ああ」そう答えると、アキは笑顔になると修二の唇に唇を重ねていた。
二人の周りではイルミネーションがいつまでも音もなく点滅し続けていた。
駄文にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
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