第2夜 気になる
翌日修二は仕事を終えて部屋に戻ると、玄関に置いてあるアキに渡された傘を眺めていた。
「傘、返さなきゃな」修二は自分に言い聞かせるように呟くと、携帯電話を取りだしていた。
「あっ、俺だけど、分かる?」アキが電話に出ると、「あっ、今店お客さん多い?」そう聞いていた。
「いやっ、昨日の傘返しがてら飲みに行こうかと思ってね」修二はそう言うと、「後でちょっと遊びに行くよ」そう言って電話を切った。
修二は電話を切ると、服を着替えて傘を手に部屋を出た。
店のドアを開けると店の中は客がごった返していた。「イラッシャイ」ホステスが修二を迎え入れると、「あっ、傘返しに来たんだけど・・」手にした傘を差し出した。
すると奥からアキが出てくると、「しゅう、イラッシャイ」笑顔で修二を迎え入れた。
修二はアキの顔を見ると、「傘、返しに来たんだ」そう言って傘を差し出した、アキはその傘に目を落とし「ソンナノ、良カッタノニ」そう言って傘を受け取ると、「コッチ、来テ」そう言ってカウンターに修二を案内した。
「今日ハ、何飲ム?」アキが修二におしぼりを渡しながらそう聞くと、「そうだな、ボトルって幾ら位する?」修二はそう聞いていた。
アキはボトルの一覧を修二に見せながら「コレダケド、イイノ?」そう聞いていた。
修二はボトルの一覧を見ながら一つのボトルを指差し「これ入れて」そう言っていた。
「まま、オ願イシマス」アキが修二のボトルを伝えると、「しゅう、イイノ?」再びそう聞いていた。
修二は「ああ、実はあまりウイスキーって好きじゃないんだ」笑みを浮かべてそう答えていた。
グラスが準備されると、アキは申し訳なさそうな顔つきで「ゴメン、しゅう今、私オ客サン付イテル、待ッテテ」そう言った。
修二は笑顔のまま「いいよ、ゆっくり飲んでいるから」そう言ってグラスに口を付けた。
アキがほかの客のボックスに突くと、代わりのホステスが修二の横に座った。
「イラッシャイ」そのホステスはそう言うと、「歌、歌ウ?」そう言ってカラオケの端末を修二の前に差し出した。
修二はグラスを傾けながら「今日はやっぱりお客さん多いね」そのホステスにそう話していた。
「ハイ、今日忘年会多イデス」そのホステスはそう答えると、「私モ、頂イテモイイデスカ?」そう聞いた。
「ああ、何でも飲んで」修二はそう答えると、「そうだよな、普通忘年会は週末だよな」そう溜息をついていた。
修二がそのホステスと時間を潰していると、アキが修二の横にやってきて「オ待タセ、しゅう」笑顔を見せると修二の横に座った。
アキが「何カ、モラッテモイイ?」修二にそう聞くと、「ああ」修二がそう答えた。
アキはビールを準備すると、「乾杯」そう言ってグラスを差し出していた。
「乾杯」修二もグラスを差し出して、それを合わせるとグラスを口にしていた。
修二がグラスを傾けていると、「しゅう、ぱーてぃードウ?」アキがクリスマスパーティーのことを聞いてきた。
修二はグラスを置くと、「そうだな、幾らだっけ?」そう言ってアキの顔を見た。
「1万円デ、飲ミ放題、食ベ放題デぷれぜんとモ有ルヨ」アキはそう言って修二の顔を覗き込んでいた。
修二がアキの顔を見ながら「いいよ、来るよ」そう答えると、「本当?、イイノ?1万円ヨ?」アキは再びそう聞いていた。
「ああ、いいよ」修二がそう答えると、アキはチケットを取りだし修二に見せると「ドウスル、しゅう持ッテル?」そう聞いた。
修二はチケットに目をやると、「いいよ、持ってて」そう言った。アキは修二の言葉に「分カッタ、持ッテル、24日ダカラネ」アキはそう答えると、それをしまい込んでいた。
「しゅう、乾杯」アキはチケットをしまうと再びグラスを修二の前に差し出していた。
「ああ、乾杯」修二もグラスを持つと再びグラスを合わせていた。
「今日は、お客さん多いね」修二がそう言って店を見渡すと、「うん、デモアノ人タチ、すけべ」アキはそう言って顔をしかめた。
そんなアキに「俺だってエロおやじだぜ」修二がそう笑うと、「ソンナ、事ナイヨ」アキはそう言って修二の手を持って自分の腰に回していた。
「アキは日本に来て何年になるの?」修二がそう聞くと、アキは「アキ、2年ニナリマス、最初千葉ニイタ、ソノ後ココニ来タ」アキはそう答えると、グラスに目を落とし「千葉ニイタトキ、私、オ金必要ダッタ、ソノ事オ店ノおーなーニ話シタラ、おーなーオ金貸シテクレルッテ言ッタ、ソノ代ワリ・・」アキは目を落としてそう言うと、「身体貸セッテ、言ワレタ、ソレデコッチニイタ友達ニ相談シタ、ソノ友達スグニ迎エニ来テクレタ、ソレカラココニイル」アキはそう言って修二の顔を見た。
「そうか」修二は目を落とすと、「ごめんな」小さくそう言った。
アキは修二の言葉に「ドウシテ、しゅうアヤマル?しゅう悪クナイヨ」修二の顔を覗き込んでそう答えていた。
修二はアキの顔を見ると、「どこにでも悪い奴はいるけど、日本人を嫌いにならないでね」ほほ笑んでそう言った。
アキはそんな修二に「分カッテイル、大丈夫」そう言うと腰に回した手に有る修二の手を握りしめていた。
アキは修二の顔を見ると「しゅう、歌、歌ッテ」そう言ってカラオケの端末を修二の前に差し出した。
「そうだな」修二は端末を操作して曲を入れていた。
修二とアキがカラオケを歌ったりしているうちに、忘年会の団体客も帰り、店の中は数人の常連だけになっていた。
客も少なくなり常連だけとなってくると、今までおとなしかった常連たちもそれぞれに騒ぎ始めていた。
そんな中、まだ2回目の来店である修二はそれらの客に混ざることなく、アキと二人で話し込んでいた。
修二がグラスに口を付けていると、修二の入れたカラオケの曲が掛り始めた。
「あっ、俺だ」修二がそう言うと、アキが立ちあがって「まいくオ願イシマス」そう言ってマイクを受け取ると、修二に手渡した。
「ありがとう」修二がそれを受け取って歌を歌い出すと、アキは修二に抱きついて方に頭を乗せていた。
二人が手を絡まらせて歌を歌っていると、常連の一人が「おいっ、あそこにおかしな二人がいるぜぇぇ、救急車呼べよ」そう声を上げて二人のことを冷やかし始めた。
店の他のホステスたちもはやし始めると、店の中は大きな騒ぎになっていた。
「熱いねぇぇ」カラオケが終わっても二人をはやし立てる声がやむことはなく、アキは修二の耳元で「ゴメンネ、怒ッタラ駄目ヨ」小声でそう言った。
「分かってるよ」修二もはやし立てているのが常連だと想像がつくため、ただ単に冷やかしていることは容易に想像できていた。
修二がカウンターに向かったまま片手を軽く上げてその冷やかしに答えると、「しゅう、照レテル、モシカシテちぇりーカ?」ホステスの一人がそう言って更に冷やかしていた。
商事は後ろを向いて「実は、そうなんだ、だからあまり冷やかさないで」笑顔でそう言って答えると、再びカウンターに向かっていた。
「しゅう、大丈夫?」アキが心配そうに修二の顔を覗き込んでそう聞くと、「大丈夫だよ」修二は笑顔のままそう答えていた。
二人を冷やかす声は結局やむことはなく、修二は店を出ることにした。
修二が店を出ると、アキは修二が店に持ってきた傘を手にして付いてくると「ハイッ、コレ」そう言って修二に手渡していた。
「これは、返しに来たんだよ」修二が傘を見ながらアキにそう言うと、「イイノ、持ッテ行ッテ」アキが笑顔でそう答えると、修二は「ありがとう」そう言ってそれを手にした。
通りのところまで修二を見送ったアキは別れ際「しゅう、マタ来テネ」そう言うと、修二の唇にキスをした。
「ああ、また来るよ」修二はそう言って傘を手に家路についていた。