終わり
「……この恩は必ず返す。そして子供も必ず無事に帰す。約束しよう」
そう言って鬼は、兎の子供を抱きかかえて下山し始めた。
兎の夫婦は我が子を抱いた鬼の背中を、何も言わずにただ見送る。
鬼は山道を一身に、しかし子兎に決して負担がかからないように丁寧に、可能な限り早く下山した。
朝に山を出発した鬼が雪の両親のもとにたどり着いたのは、夜になったころだった。
鬼がその家の扉を叩くと、暫くしてからゆっくりとその扉が開く。
そしてその扉を開いた雪の母親は、鬼を見るや否や叫び声を上げる。
少し遅れてからその姿を見て、家の中であぐらをかいていた雪の父親もやって来る。
「何をしにきた!」
鬼を見るや否や、父親は食ってかかる。
しかし鬼は至って冷静だった。
兎の子供が未だすやすやと眠っている事を確認しながら、淡々と要件を述べる。
「約束を果たしにきた。ほかの動物の赤ん坊を連れてきた。雪に会わせてくれ」
「……雪は此処にはおらぬ」
「何だと!?」
露骨に慌てる鬼に対して、雪の両親は勝ち誇るように言い切った。
「鬼に心酔する娘などいらぬ!山に捨ててやったわ」
「なんという事を……!」
鬼は慌ててきた道を戻った。雪のものと思わしき足跡が、鬼のそれと入れ違うようにして山の中へ中へと続いている。
鬼が必死になってその足跡を追い……追い切ったころには、鬼は兎の巣穴に戻ってきていた。
呆然とする鬼の顔を見て、兎が嬉しそうに微笑む。
そんな兎は、雪の膝の上にいた。
「ほらね、恩返しすると言ったでしょう」