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その五十一 義元の目算

丸根砦の陥落をいち早く察したのは清洲の信長だけではなかった。


大高城から二里足らずの沓掛城からも、西の夜空が赤々と照らされるのがはっきり見て取れた。


それはすぐに坂井大膳により寝所の義元に知らされた。


義元は浅い眠りからすぐに目覚めた。


「何れの砦か?」


「ここからではわかりませぬが先に仕掛けたのは松平のはずでありますゆえ恐らく丸根かと思われます」


「うむ、婿殿はよくやりおる、頼もしきかぎりよ」


「して、すぐにも陣ぶれを?」


大膳が出陣を促した。


「慌てるでない。出陣は織田の砦が二つとも落ち、尚且つ清洲に動きが無いことを確認してからだ。織田のうつけめを侮るでない。何か策を弄してくるやも知れん」


「用心には用心を、ということに御座りますか?」


「左様。大高を囲む織田の砦が二つとも落ち、我が方が堅固な大高に入城を果たさば事実上東尾張の支配は今川のものとなる。いくらあのうつけでも自分の立場というものを思い知るであろう。そのときどんな顔をしてへりくだってくるのか見ものだわ。これまでの御落胤への無礼の数々、きつく諌めてくれようぞ」


「いっそのことこの機に乗じて織田を滅ぼしておしまいになるおつもりは御座いませぬか」


大膳は如何にも織田に恨みがあるといった振りをした。


「これ、強欲は身を滅ぼす元ぞ。如何に小国とは云え、存亡を賭けて尾張に歯向こうてこられてはこちらも無傷という訳にはまいらぬ。今は損害を出さずに尾張、三河国境の紛争に終止符をうつことが肝要。無理に尾張全域にまで所領を広げても今度は美濃が、次は伊勢が、近江がときりが無い。延び切った補給路を北の武田が放っておくとも思えぬ?背後の北条は虎視眈々と当家がへまをするのを覗っておるわ。

所領は手に余る程にはもたぬ方が良い。大事なのは国境の緩衝地帯が三河国内から尾張領へ移ることである。さすれば遠江に次いで三河も安定し婿殿に統治を任せることも叶おう」


「三河を松平に返してしまわれるおつもりか?」


これには大膳も驚いた。


織田が三河を取りこぼしてしまいかねない。


「もともと三河は松平が治めるのが筋、それが一番"堤"を強くする方法でもある。それに三河を治めるのはおお事ぞ。東に今川。北に武田。西に織田。三河は一時も落ち着いておられぬ。否応無く婿殿の方から今川との同盟を求めてこよう。互いに持ちつ持たれつ。それが丁度良い関係じゃ」


「 ・・・・ 氏真様の代のことを考えておいででございますな」


「ふん、左様・・・・、あ奴は親の欲目で見ても領主の才覚に欠けておる。是非とも良き補佐役が傍にあらねばならぬ」


「その役が元康殿・・・・」


「如何にも。婿殿に我が"元"の字を与え、姪を娶らせたは懐柔のためだけではない。身も心も今川の身内として氏真を盛り立ててもらうためよ。元康は幼少の頃より雪斎の薫陶を受けまっこと義に厚い人間に育ってくれた。必ずや今川の筆頭家老として氏真を支えてくれよう」


「そのこと元康殿にはすでに ・・・・ 」


大膳はさり気なく探りを入れた。


「あいや、此度の尾張遠征が目論見通り終わり、いざ上洛の段となったとき留守居役を命ずるおりに申し渡すつもりよ。婿殿の喜ぶ顔が目に浮かぶわ」


「 ・・・・ 然り。松平は今川の恩に終生忠誠を誓うでありましょうな。何より今川"幕府"の重臣の地位まで手にするわけですからな」


「鷲津の砦が落ちれば出陣の段取りに取り掛かれ。何も慌てることは無い。沓掛から大高までは僅か二里の道のりだ。 途中で陣を張り東尾張の領民に主が代わったことを示す。場所は其の方が下見をした"桶狭間山"とやらの禿山で良い」


時代の歯車が大きく軋み始めた。

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