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その四十八 関ヶ原への長い道

明けて永禄三年(1560年)五月十九日。


この日は戦国の世に劇的な変化をもたらした一日として、永遠に記憶されることになる。


そしてもう一つの歴史上の転換点、 "関ヶ原" は、この蒸し暑い初夏の日から丁度四十年後の秋口に訪れることとなる ・・・・


その "関ヶ原" で中心人物を演じる松平元康は、そんなことはまだ知る(わけ)も無く松明(たいまつ)を連ねて大高城から丸根砦に至る途上にあった。


馬上の元康の頬は紅潮し、手綱を持つ手は小刻みに震えていた。


初陣にも等しい出陣に武者震いがきたのか?


いや、それだけではない。


織田の策略に乗じて今川の支配下から三河を奪還するという突然の大勝負に震えが来たのだ。


・・・・ それにしても ・・・・


これほどの大勝負であるにも関わらず我が三河には何の危険も無いのだ。


織田が滅べば今川から相応の褒美が得られ、もし首尾よく織田が義元の首を上げれば黙って三河一国が転がり込んでくる。


これほどうまい話に乗らぬ者がどこに居よう。


・・・・ 織田殿は心底恐ろしき才覚の持ち主よ ・・・・


幼い頃、自分にいたずらしては泣かせていたあの腕白小僧がいったいいつの間にこのような途方も無い謀略を廻らせる知恵を身に付けたのだろう?


自身を省みて元康にはそのような才覚など一片も備わっていなかった。


たとえ今回首尾良く三河を奪還出来たとしても三河が小国であることに変わりは無い。


甲斐や駿河や美濃などの大国に囲まれ、怯えながら暮らすことになろう。


しかしそれは尾張とて同じこと。


その小国の尾張が今、大国の今川を討ち滅ぼそうとしている ・・・・


・・・・ もしかして ・・・・


出来るのでは無いか。


国力が劣ろうとも、兵力が劣ろうとも、謀略と策略の限りを尽くして。


小が大を呑むことが。


織田殿程の才覚が己自身にも備われば ・・・・


そのとき傍から、「殿、丸根の麓に着きました。すぐに攻撃にかかりまするか?」と鳥居元忠が元康からの指示を待った。


この元忠、元康が今川の人質だった頃から付き従ってきた小姓上がりの側近である。


この後も徳川家随一の忠臣として生涯家康に仕え、"関ヶ原" の一月前に伏見城の戦いで石田三成、小早川秀秋ら西軍に包囲され、壮絶な最期を遂げる人物である ・・・・


「早速に取り掛かれ」


「はっ」


「まて、元忠!」


「 ・・・・ 」


「攻撃に際しては一切手落ちや手抜きがあってはならぬ。各隊へそう伝えよ」


丸根が囮の砦であることは松平家中でも極上層部だけの秘め事である。


たとえ本戦がどう転んだとしても三河が疑われぬ為用心せねばならない。


それは強兵の三河軍が欠けたとしても、織田が今川の大軍を破るのは決して容易なことでは無いからである。


駿府で長く学んだ元康は織田が今川に容易に勝てぬ訳を知っていた。


鉄砲の数である。


今や織田も二百や三百は持っていよう。


しかし今川の鉄砲は七百を下らぬであろう。


今川の鉄砲装備は海道一であった。


あれだけの数の鉄砲と織田殿はどう向き合うつもりなのか?


それでももし、織田が勝ったとしたら ・・・・ 


学ばねばならぬ。


上総の介殿から ・・・・



決意を固めた元康率いる三河軍が夜明けを待たず丸根砦への攻撃を開始した。


丸根砦の守備隊長は佐久間盛重である。


大高城から松明を連ねた三河軍が小峰の上にある丸根砦に取り付こうとしていた。


敵の旗印を確認した見張りが(やぐら)の上から叫んだ。


「攻め手は三河まつだいらー!」


それを聞いた盛重は、胃の中に苦いものがこみ上げてきた。


・・・・ ここが死に場所と覚悟を決めねば ・・・・


~ 攻め手が松平ならば潔く撃って出よ。譜代の隊なら砦に篭って持ち堪えよ ~


それが主君信長からの厳命であった。


己がここで潔く落命すれば、信長の佐久間一族に対する信秀(ちちおや)殺しの疑いも失せよう。


盛重は信長が叔父の織田信光と林秀貞・美作守兄弟らが結託して先代の信秀を亡き者としたとき、佐久間の一族もそれに加担したと疑われていると感じていた。


それゆえ自分は信長から決死の守備隊を命じられたのだと ・・・・

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