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その三十九 末裔

「さるよ、貴様とてよく存じておろう。

亡き父を生涯にわたって悩ませ続けていたは織田禅正忠の豊富な金銀に群がる、さしたる働きもせぬ役立たず共であったことを。

そ奴らは、織田が代替わりしようが国主になろうが、あいも変わらず働きもせずに甘い汁を吸い続けられると思うておる。

頭の中身を入れ替えられぬ奴等は首ごと挿げ替えてしまうしかあるまい。

わしが先ず真っ先にせねばならぬことは、その頭の古い連中を織田から追い出すことよ。

わしのやり方に付いて来れぬ奴は譜代であろうが家老であろうが容赦なく切り捨てるつもりだ。

そのためにいっとき領地や戦力が目減りしようともここで膿みを出し切っておかねばならぬ」


藤吉郎は信長が目指すものが尾張の統一や美濃併合や今川討伐如きではないことをよく知っていた。


そんなものは道程でしかない。


信長が真に目指すものは、人々にありもしない神仏などをありがたがらせて甘い汁を吸い続けようとする寺社仏閣やその大元締めの御所すら中央から排除する "天下布武" であることを。


藤吉郎の脇を冷たい汗が流れた。


「 ・・・・ さる、そのためには家中に良き手本を示さなければならぬ。

生まれの身分や家格など問題とせずに才覚一本で立身出世を果たす者が ・・・・ 」


藤吉郎はようやく信長のたっての頼みとやらを理解した。


「某にその出世頭になれと ・・・・ 」


信長は黙って頷いた。


「家中にほとんど顔を知る者も無く苗字すら持たぬ貴様であればまさに適任であろう。

さり気なく贔屓してやるゆえ後は勝手に手柄を積んで這い上がって参れ」


「ははっ、すべて仰せの通りに ・・・・ 」


それまで真顔だった信長は急に悪戯っぽく笑って、


「藤吉郎、早速草履取りと手綱取りから始めよ。事がうまくはこんだ暁にはお犬かお市を娶らせようぞ」


「 ! 、お犬様かお市様を ・・・・ そ、それがしに ・・・・ 」


藤吉郎は影ながら信長の美しい妹達には憧れの気持ちを抱いていた。


いや、織田の家中のひとかどの男であれば、みな美しい織田の姫に憧れるのは当然のことであった。


藤吉郎は裏で示し合わせて家中の出世街道を驀進するという信長の筋書きに鳥肌が立つほど興奮した。


やっとおふくろ様の苦労も報われる。


()の小竹も俺の手で引き上げてやろう。


しかし、しかし藤吉郎の胸中ずっと奥には一抹の不安もあった。


信長が目指す大望とは藤吉郎ともよく語り合ってきたものである。

藤吉郎も充分理解しているつもりであるが、その信長自身が重要な局面でこれまで利用し、これからも事あるごとに利用しようとしている藤吉郎の出生の秘密も、元を辿れば "ありもしない神の末裔" である。

人心をたぶらかし権威の上に胡坐をかいて君臨し続ける神官(シャーマン)の総元締めの末裔である。


そのことの矛盾に気付かぬ信長ではなかろう。


信長様はいったい自分をどうするおつもりなのだろう。


いつか自分の存在と信長様の大望との間に避けて通れぬ破滅への穴がぽっかりと口を空けて待ち構えているのではなかろうか ・・・・


藤吉郎はいまだもやもやとしか見えぬ未来に一抹の不安を覚えずにはいられなかった。


信長はこのとき藤吉郎の胸中に芽生えた危機感には一切気付いていないようであった ・・・・

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