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その三十四 奇妙丸

光秀と小珠の一行は無事尾張の那古屋城に落ち延びることが出来た。


道三直筆の譲渡状が効いて小珠は従姉妹でもある帰蝶の預かるところとなった。


しかし同じ従兄弟でも光秀の扱いは大違いであった。


帰蝶のとりなしにも関わらず織田家への仕官は認められず、これより長い間牢々の身となることになる。


いくら跡目の血筋には拘りの無い信長とはいえ、嫁も、子も、その近習までも斉藤と明智の近親者で占められることに軒先貸して母屋を盗られるとの危機感を持ったとしても不思議は無かった。


それほどこの光秀には油断がならぬと信長は予感した。


その予感は後々まで大事にすべきだった ・・・・



道三の死の翌年、帰蝶が仕切る那古屋城の奥で小珠は無事おのこを産んだ。


出産の介添えには帰蝶も立ち会った。


「小珠さま、よく無事に産んでくださいました」


帰蝶は母方の従姉妹である小珠を労った。


赤子は母親似の端正な顔立ちであった。


明智の美貌の血が勝ったのであろう。


帰蝶は赤子が父親や自分に似ていないことにほっとした。


自分の子となるはずなのに奇妙なことであった。


生まれた子は帰蝶にとっては腹違い(・・・)の弟であり、その腹とて帰蝶の従姉妹の腹である。


帰蝶にとっても我が子のように愛おしく感じられた。


丁度城に居合わせた信長も随分と久方ぶりに奥に顔を出して産まれたばかりの蝮の子(・・・)を見た。


道三との約束どおり帰蝶の養子とすれば織田家の嫡男である。


信長にとってもなんとも奇妙な成り行きである。


・・・・ これで美濃一国が転がり込むのなら安いものよ ・・・・


この頃にも信長には他に子はおらず、平手の切腹をみても世継ぎのことなどには相変わらず無頓着であった。


「上様、どうぞ良い名を ・・・・ 」


帰蝶にせがまれて出た言葉は、「奇妙丸 ・・・・ といたせ」、であった。


「 ・・・・ はい。ではそのように ・・・・ 」


わが子であれば嫡男にそのような妙ちくりんな名をつけるものか?


そう思ったが、奇妙の名は妙に帰蝶にもしっくりきたのであえて逆らわずに従うことにした。


以降、奇妙丸は信長の嫡男として育てられ、元服すると勘九郎(・・・)信重を名乗った。


通称岐阜(・・)中将。


勘九郎(・・・)は実父道三の若い頃の名乗りであり、岐阜の地名は信長が稲葉山城の名を改めたものである。


彼こそが後に信長と同じ本能寺の日に立てこもった二条御所に於いて自害して果てる、織田信忠その人である ・・・・

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